34:魔剣初陣の相手は・・・・・・

 翌日、ガウェインとノエリアを連れて、魔剣の性能を実戦で確認するために魔境の森の近くまでディモルたちに乗ってやってきた。



「マスター、ついに実戦ですね……緊張します」


「大丈夫だって。昨日握ってみた感じだと、今までの剣よりも格段に使いやすいから。それに魔法もちゃんと発動できたしな。お前はやればできる子だって」



 魔剣は自信なさげに魔石を淡く明滅させていた。


 やはり、昨日ガウェインから投げかけられた『暴走したら、封印すればいい』という言葉に傷ついているようだ。



「そうですね。フリック様がきっと上手く使って下さると思いますから、ガウェイン師匠の話は忘れていいと思いますよ」


「マスター、ノエリア様! ありがとうございます。頑張ります! 役に立ちますね!」


「ちぇー、わたしは万が一の場合を言っただけだがすっかり悪者だ」



 自分用の翼竜に乗っていたガウェインが、俺たちの話を聞いて拗ねていた。



「さて、悪者のわたしはフリックのために敵をおびき寄せるとしよう――おわっと!」



 地上へ降下しようとしていたガウェインの乗っていた翼竜の翼が炎に包まれていた。


 翼を炎によって焼かれたガウェインの翼竜は錐揉みしながら地面に落ちていくのが見えた。



「クェエエ!」



 仲間が墜ちたことで、ディモルが警戒の鳴き声をあげる。


 一瞬、地上要塞亀グランドフォートレスタートルからの攻撃かと思ったが、場所的にまだ魔境の森には入っていなかった。



「なにが起きた!?」


「フリック様、アレを!」



 ガウェインが墜ちていく先の地上を見ていたノエリアが地上にいる物体を指差していた。



「あの三つの犬の頭を持つ魔物……魔獣ケルベロスです……なんで、ヤスバの狩場にまで……普段は魔境の森の奥で狩りをしているはずなのに……」



 けっこうな高度で飛んでいるが、ノエリアが指差すケルベロスの姿はしっかりと確認できた。


 なのでかなり大きな魔物であると思われる。



 王都の冒険者ギルドから受けた討伐依頼では一度も見たことがない個体だった。



「もしかして強い魔物?」


「強い? ええ、強いです。戦うのは得策ではありません。あれは白金等級の冒険者を含むいくつもの冒険者パーティーを壊滅させた魔獣ですよ。普段はアビスフォールから更に南の端の自分の餌場から出てこないのに……なんで……」



 ノエリアがケルベロスの姿を視認して震えていた。


 どうやらユグハノーツではあのケルベロスという魔物を魔獣と呼んで非常に恐れているようだ。



「白金等級の冒険者も倒す強さか……」



 ノエリアから魔獣の強さを聞いたことで、俺とアルフィーネと一緒に討伐し、彼女が剣聖の名を得るきっかけとなった魔竜討伐の時のことを思い出していた。



 あの時の魔竜もやたらと強かったからな……。


 アルフィーネの腕と、相手が手負いの状態でなかったら危ないところだったし。



 その時と同じくらい強いと思われる魔物が眼下に存在していた。



「けど、逃げるといってもガウェイン様を置いていくわけには……墜落していく最中に翼竜から脱出したのは見えたから助けないと」


「ですが……いくらフリック様が強いとはいえ、魔獣ケルベロスの前に身をさらすのは危険過ぎです。ガウェイン師匠のことですから、きっと無事に……」



 ノエリアがガウェインを助けに行こうとする俺の袖を掴んで離さないでいた。



「たしかにあの人だと平気な顔でもどってきそうだけど。でも、心配だからちょっと見てくる。ディモル、ノエリアを安全な場所まで頼むぞ」


「クェエエ!!」


「フリック様!!」



 俺はノエリアのことをディモルに任せ、彼女の制止を振り切ると、身体強化魔法を発動させ地上に向かって飛び降りた。



 空中を自由落下して、一気に地上へと降下していく。


 やがて、木が近づいてきたので枝に掴まると、落ちる速度を弱めて地面に着地する。



「ふぅ、着地成功っと。ガウェイン様! 無事ですか? ガウェイン様!」



 だいたいこの付近に落ちたと思ったんだがな……。


 見間違えたか。



 周囲を見渡してもガウェインらしい姿は見えなかった。


 だが、少し離れた草むらから声が聞こえてきた。



「あほー! そんな大声でわたしの名を呼ぶな! 魔獣が――」



 そう言ってるガウェイン自身の声もかなりデカかった。


 俺は草むらの方に駆け寄ると、ガウェインの様子を観察した。



「無事そうですね。怪我はなさそうだ。あの魔獣ケルベロスはかなり強い個体らしいので逃げますよ」


「逃げろっ!! 今すぐだ!!」



 何かに動じるところを見たことなかったガウェインだが、今は驚くほど動揺していた。



「だから、逃げますって」


「馬鹿、うしろっ! うしろっ!!」

 


 ガウェインが指差すので、振り向くと三つの大きな犬の首を生やした巨大な生物が、ものすごい勢いでこちらに向かって駆けてきていた。



「!?」


「マ、マスター! 戦いますか!? ど、どどどうします? 実戦ですか?」



 ケルベロスの動きが速い……。


 身体強化しているとはいえ、あんな足から逃げられるとは思えないぞ。



 俺は即座に魔剣を抜いて構えた。



「実戦開始だ。火の矢ファイアアローをケルベロスに撃ち込んで牽制してくれ。タイミングは任せる、あと魔力はどれだけ使っても構わない」


「承知しました!!」



 魔剣は魔石を強く明滅させると、さっそく牽制の火の矢ファイアアローを撃ち出していた。


 放たれた火の矢はケルベロスの身体に刺さると、燃え上がり毛皮を焦がしていた。



 威力も牽制程度だが、この程度の魔力消費なら勝手に自然回復するから問題ないな。



「ガウォオオオオオ!!」



 火の矢ファイアアローを喰らった魔獣ケルベロスが腹に響く咆哮をあげると、目の色が黒から真っ赤に変化した。



「ありゃあ、怒ったぞ」


「怒りましたね」


「はわわ、怒らせましたかね?」



 魔獣ケルベロスが怒りの咆哮をするのを見て、二人と一振りで顔を見合わせていた。

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