151:異変



 ヴィーゴにより攫われたノエリアを救出のため、俺たちはアビスフォールに向かっていた。


 逃げたヴィーゴにより、魔境の森の中で待ち伏せがされている可能性もあったため、ディモルに乗っての先行偵察を終えて、馬を休めているみんなのもとに戻ってきた。



 ん? リスが何か訴えてるな。



 肩口にしがみついているノエリアが使役するリスが、俺に伝えたいことがあるのか、頬を突いてきた。



「ちょっと待ってて、今、紙とペン出すから」



 ポーチから紙とペンを出すと、手元にまで降りてきたリスに手渡す。


 リスは器用にペンを操ると、文字を書き始めた。



 それにしても、シンツィアも感心してたけど、動物使役ってめちゃくちゃ集中力と魔力の調整を必要とする魔法なのに、使役するリスに文字まで書かせられるなんて。


 さすがノエリアだよな。



 ペンを手にしたリスは一心不乱に文字を書き綴っていく。


 その間に、休憩していた皆が集まってきていた。



「フリック、敵はいたかしら? あたしもゴーレムを周囲に偵察に出したけど、魔物がちらっといたくらい」


「上から見てても同じく、少数の魔物が行き交う姿くらいしか見えませんね。それよりも、今ノエリアから情報が来てます」


「敵の配置とか教えてくれるかも」


「ヴィーゴもノエリア様が使役魔法を使って、こちらと意思の疎通を取れるとしらないだろうしね。彼女のことだし安否だけでないはず」



 手の上で必死に文字を書いているリスに、皆の視線が集まった。



「魔境の森やアビスフォール周辺に敵の伏兵の様子なしだって」



 マリベルがリスの書き上げた文字を読み上げていく。



「ヴィーゴは待ち伏せをしてないってことかしら。逃げるのに必死でまだ体制が整ってないのかも」


「アルの言った可能性もあるかもしれないけど、もしかしたらアビスフォールに戦力を集中してるってことかもよ」


「あの施設の中に籠られたら、とっても戦いにくいと思う」


「あーたしかに。通路こそそれなりの広さだけど、灯り点かない場所から急に飛び出されたりすると怖いかも。それに身を潜めれそうな小部屋もあるし、魔法も使いにくい場所が多いだろうし」



 施設内に入ったことがある二人から、中での戦闘が厳しいものになりそうだという意見が出ていた。



「新しい情報がきたよ。父上からの報告書にあった入口とは別の新たな地下施設への巨大な入口あり」


「別の巨大な入口!?」


「アビスフォール周辺は施設発見後に冒険者や騎士団でくまなく捜索したはず。見落とした入口があるわけが……」


「ノエリアが嘘の報告をあたしたちに流すことはしないだろうし、別の入口は存在したってことよ。もしかしたらこっちが見つけられないような仕掛けを施してたのかもね。ヴィーゴのたちは異質な技術を持ってるし」



 アビスフォールの壁に作られた入口ではない場所から、内部に侵入できるということか。


 報告書には、施設の機器に異質な技術が多数使われていたと書いてあったしな。


 何が仕掛けられててもおかしくなさそうだ。



「次の情報。地下施設に向かい床ごと降下中。ヴィーゴに使い魔らしきものあり。こちらの動向はすでに相手側に筒抜け」


「ヴィーゴにこちらの動向がバレてるだって!?」


「相手も使い魔みたいなものを使ってるらしいけど……。いったい何でこちらの動向を把握してるのかしら」



 使い魔らしきものってことだけど、周囲にそれらしい動きをしてる動物なんていないよな。


 使い魔ってことは、鳥とか小動物とかのことだろうし。



 周囲に視線を巡らせてみたものの、こちらをジッと監視しているような動きを見せる生き物の姿は見つけられなかった。



 けど、こっちの動向がバレてるのにノエリアの命を奪わないのは、ヴィーゴはやはり俺との取引を狙っているということか。



「施設内での待ち伏せはなし、ヴィーゴよりフリック様たちの来訪を待つとの申し出あり。罠なのか判断つかずだって」


「来訪を待つとか、こっちの誘っているのかな」


「分からない。けど、行かない選択肢を俺たちは持ち合わせてないんだ。たとえ罠があったとしても行くしかない」



 行かなければ、ノエリアを助け出すことはできない。


 迷う時間は――



「フリックさん、リスちゃんが! どっか行っちゃったよ!」



 マリベルに言われ、手に視線を落とすと、そこにいたはずのノエリアの使役していたリスの姿がなかった。



 ノエリアっ! クッソ! ノエリアの身に何か起きたらしい!



「使役が解けたみたいよ! ノエリアに何か起きたのかも! 迷ってる暇はなくなったわ! 大急ぎでアビスフォールにいるヴィーゴをぶちのめさないと! ディードゥル、行くわよ!」



 シンツィアがディードゥルに飛び乗ると、一人でアビスフォールに向かい駆け出した。



「急ごう」


「うん」



 皆が馬に乗って駆け出したのと同時に、ディモルを飛び立たせアビスフォールに向かうことにした。

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