107:再会
「うちのフィーン君が、フロリーナ様の娘のノエリア様と。へぇー、なるほどねぇー。ダントン、運命ってこういう縁を引き付けるのかしらねぇ」
「ああ、うん。そうだな。運命か……そういう考え方もできるかもしれないな」
目を細めて俺とノエリアを見ていたフィーリアが、夫であるダントンの方に視線を向けていた。
ダントン院長の顔色が何かおかしい様子だけど……。
俺がアルフィーネと絶縁したことが、そんなにショックだったんだろうか?
それとも別のことが気になっているのかな?
浮かない表情をしているダントンの様子が気になったが、久しぶりに村に戻ってきたこともあり、またアルフィーネが顔を出す可能性も残されているため、しばらく村に滞在する許可を二人に得ることにした。
「ダントン院長、フィーリア先生。もしかしたらアルフィーネが顔を出すかもしれないんでしばらくここに滞在したいのですがよろしいでしょうか? もちろん、滞在費はお支払いします」
「え? あ、ああ。滞在費なんて気にしないで構わないよ。ここはフィーン君の家みたいなところだからね。それに子供たちも喜ぶだろうし、剣の相手をしてやってくれるかい。フィーリアもいいだろ?」
表情を改めたダントンは穏やかな笑みを浮かべると、俺たちの滞在の許可をしてくれた。
「ええ、ノエリア様との話はぜひ聞いておきたいことだしね。もちろん、歓迎するわ。ノエリア様、別室でちょっとお話聞かせてもらえるかしら?」
「あ、ああの。わたくしとフリック様とはそういうことではなくて――」
おたおたとするノエリアを、フィーリアが院長室から連れ出していくと、残された俺とダントンは外で待つスザーナたちを迎えに行くことにした。
「スザーナさん! いますか?」
俺はディードゥルとディモルとともに村の入口付近で待機していたスザーナに声をかける。
荷物の整理をしていたスザーナは、こちらの声に気づいたようで荷室から顔を出してきた。
「アルフィーネの件は情報が手に入りませんでしたが、こちらに顔を出す可能性もあるので、しばらく孤児院で滞在させてもらうことにしました」
「そうなのですね。それで、そちらが――」
「あ、うん。俺の育った孤児院の院長をしてるダントン院長先生だよ」
スザーナはダントンの姿を認めると、荷室にあった荷物を手に荷馬車を降りてきた。
そして、おもむろにその袋をダントンに手渡していく。
「このたびはエネストローサ家の令嬢ノエリア様、そしてフリック様を滞在させてもらえるとのこと。我が主である辺境伯様からお預かりしたささやかな物ですがお納めください」
「は、はぁ? これは?」
「些少ですが、エネストローサ家よりの心づくしの品です。遠慮なくお納めくださいませ」
袋の中身が気になったダントンが、スザーナから手に握らされた袋の中身を確認していた。
って!? 金貨!? あの量だと数百万オンスくらいはあるような……。
チラリと見えた袋の中身は光り輝く金貨であった。
「こ、このような物を頂くいわれは――」
「フリック様より、こちらの孤児院の窮状を聞いておりまして、我が主であるノエリア様はもとより、当主であるロイド様もいたく気にしておられました。言うなれば孤児院への喜捨と思って頂ければよろしいかと」
袋の中身を知ったダントンが震える手で、スザーナに袋を返そうとするが、彼女はニコリと笑うだけで受け取る気配を見せないでいる。
「フィーン君、ど、どどうしようか?」
受け取る気配を見せないスザーナに困り果てたダントンが、俺に助けを求める視線を向けてきた。
たぶん、ロイドの指図じゃなくて、王都のカサンドラ様からの指示のような気がしてならないけど。
実際、俺もアルフィーネも仕送りをできていないので、孤児院の経営はかなり苦しいと思うし。
せっかくの好意を無下にするのも悪い。
「ど、どうすると言われても――孤児院への喜捨ということなので、ありがたく頂戴すればいいかと思います。俺がフリックという名で送った金もたいした額ではなかったし、今年は特に厳しいと思うんですが」
俺の返答を聞いたダントンは、手にした金貨の袋とこちらを何度も視線を行き来させながら迷っていた。
しばらく考え込んでいたダントンが、ふぅと一息吐くと、にこやかに立つスザーナに向けて頭を下げる。
「エネストローサ家からの喜捨として、この金貨はありがたく頂戴させてもらいます」
「お受け取り頂きありがとうございます。当主も我が主も喜ばれるかと思います」
「スザーナさん、すみません。このお礼は俺がきちんと辺境伯様やノエリアにしますから」
「いいえ、これは当然のことをしただけですのでお気になさらずに」
終始にこやかな笑顔を崩さないスザーナであった。
「僻地の寒村にある孤児院ではありますが、ノエリア様ともどもお連れの方には心づくしの歓待をさせてもらうつもりです。ささ、馬車を孤児院の方へ」
「承知しました。すぐに動かします」
ダントンが誘導するように、スザーナの荷馬車の前に立ち歩き出していく。
「ダントン院長先生、ディモルやディードゥルも子供たちのところに連れて行きますね」
「ああ、子供たちももうすぐ勉強の時間を終わると思うから、存分に遊んでやってくれるか」
「了解です! ディモル、ディードゥル行こうか」
声かけられた二人は羽ばたきといななきで返事をしてくれていた。
俺はディモルとディードゥルたちを孤児院に移動させると、教室から出てきた子供たちと一緒に日が暮れるまで遊ぶことにした。
そして、日暮れが迫った。
「フィーン君、そろそろ、夕食の支度ができたようだ。ノエリア様やスザーナさんにも手伝ってもらってしまったが美味しそうな夕食だぞ」
「ノエリア様は貴族の令嬢とは思えないほど、料理上手ね。フィーン君もかなり上手だけどそれ以上かもしれないわ」
子供たちと遊んでいた俺のもとにダントンとフィーリアが夕食ができたことを告げに来ていた。
別室で話をした後、フィーリアを気に入ったのか、ノエリアはスザーナともに孤児院の夕食作りの手伝いを申し出ていたのだ。
「エネストローサ家の料理長仕込みですし、専属メイドのスザーナさんも凄腕の料理人なんで……。アルフィーネの時とは違って食事当番がいつの間にか俺以外になってますけどね」
「フィーン君にそう言われると、アルフィーネに料理を仕込もうと頑張ったわたしの立場がなくなるわね」
「そ、そういうわけじゃ」
凹みそうな顔をしたフィーリアを見て、俺は慌てて手を振って否定をしていた。
「はぁー、まじで何にもない村だったわー。面白そうなことないしー。フリック、いつまでこの村にいるのー。つまんないー」
ダントンとフィーリアと喋っていた俺の肩に、鳥の皮を被ったシンツィアの骨の鳥が止まった。
「喋る鳥!?」
「喋ったわね?」
二人が俺の肩に止まった鳥を見て目を丸くしていた。
シンツィア様、人前じゃ普通の鳥の格好をしてくれって言ってたのに。
なんで、普通に喋ってるんだ!?
「いや、いや、二人とも鳥が喋るわけが――」
「もしかしてその鳥は使役魔法の使い魔か?」
「かもしれないわ」
シンツィアの鳥を見た二人の表情は緊張感を帯びた物に変化していた。
二人ともそんな険しい顔をしなくても……。
「ん? そっちの二人どっかで見たことあるわね……うーん、どこだったかしら……最近、記憶があいまいなのよねー」
シンツィアの方も二人のことが気になったのか、周囲をパタパタと飛んでその姿を確認している様子だった。
「シンツィア様、ちょっと落ち着いてくださいって!」
俺は思わず飛び回るシンツィアに向かって声をかけていた。
「「シンツィア!?」」
「あーーーーーーっ! 思い出した! 二人とも老けてて分かりにくかったけど、ダントンとフィーリア! なんで、こんな田舎臭い場所にいるの!?」
飛び回っていたシンツィアはダントンの肩に止まっていた。
三人の様子を見る限り、知り合いのような感じだけど……。
シンツィアはたしかライナス師の弟子だった人だったよな。
院長夫妻とどこで知り合いになったんだろうか。
俺は三人の組み合わせを見ていて首をひねるばかりであった。
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