sideノエリア:共同戦線
※ノエリア視点
フリック様が例の巨馬がいると思われる森へ向かう後姿を見送る。
やはり、あの巨馬のことがかなり気になられているご様子。
見送っている背中も、心なしか嬉しさを見せておられるようだ。
フリック様はディモルを始め、知的な動物を見つけると非常に興味を引かれるらしい。
その姿をスザーナが評すると、普通の男性が気になる女性のもとに行く時の姿に似ているとのことだ。
「フリックのやつは恋人にでも会いに行く気なの? ノエリアは浮気する旦那でも許す派なのかしら?」
シンツィア様の目の代わりをしている骨の鳥が、わたくしの肩に止まってそう囁いていた。
その言葉に思わず自分が、フリック様の妻となった姿を想像してしまう。
わたくしがフリック様の妻……。
浮気はできればして欲しくないですが、あのご容姿では女性の方が放っておかないはず。
ああ、でもやはり浮気は……って、違う!
わたくしはまだお付き合いもしてないのに何を先走っているの!
はしたない想像をした自分を恥じて、顔が一気に火照るのが感じられた。
「シンツィア様、わたくしとフリック様とはそのような関係では……」
「あらー、そうなの? フロリーナって許嫁がブ男過ぎて気に入らなかったから実家を飛び出し、外でいい男を見つけて猛アタックして婿にしたやつだから、その娘のあんたも肉食系だと思ったけど。これは、フロリーナの旦那であるロイドの悪いところを受け継いだのね」
ライナス師匠の弟子であるシンツィア様は、母フロリーナと一緒に机を並べて、魔法を学んでいた期間があり、母が実家を飛び出した理由ももちろん知っていた。
「は、母は母です。わたくしはフリック様とは師弟の関係を――」
「へー、外から見てるとノエリアがフリックにぞっこんなのは見え見えなんだけどねー。へー、師弟関係なのかー。へー」
シンツィア様がわたくしの周りを飛びまわり、からかうように言葉をかけてきていた。
その時、骨の鳥に鉄の薄い板がヒットしてバラバラになり地面に落ちた。
「そこの骨! いくら魔法の師匠とはいえ、それ以上ノエリアお嬢様をからかうと容赦いたしませんよ」
「ちょっと、もう先に手が出てるけど! あたしが骨とがらんどうの鎧だけの存在だから怪我しないけど、人なら大怪我よ!」
「だからやっています! 私も人と人でない者の判別くらいはできる」
薄い鉄の板を指の間に挟んだスザーナが、シンツィアと争いを始めようとしていた。
「スザーナ、控えなさい。わたくしは大丈夫ですから。シンツィア様、すみません。我が家のメイドが失礼をいたしました」
「ノエリアお嬢様!?」
「今のは完全にスザーナが悪いと思います。シンツィア様に謝罪を」
そうスザーナを叱責すると、二人の間に入り、地面に落ちたシンツィアの骨を拾い集める。
「……シンツィア様、先ほどの非礼をお許しください」
一瞬の間があったが、スザーナは膝を突き、頭を垂れるとシンツィアに謝罪をしていた。
「まー、いいわよ。あたしは怪我してないからねー。それにしても、ノエリア大好き武装メイド付きだとフリックもおちおち告白もできないわね」
鳥の姿を復活させたシンツィアが、今度は謝罪しているスザーナの肩に止まり囁き始めていた。
「シンツィア様は何か思い違いをされているようですが、私はフリック様こそ、ノエリアお嬢様の婿にふさわしいと思っております。魔法オタクだったノエリア様に女性であることを思い出させたうえ、虜にしておられる御方なので」
「ちょ、ちょっと! スザーナ!」
フリック様と出会うまで恋愛とか全く関心なかったのも事実だし、魔法オタクなのは間違いない。
だけど、それを面と向かって言われると恥ずかしさを感じて身体中から変な汗がにじみ出してきた。
「あー、やっぱフロリーナの血はそっちに出ちゃったのねー。奥手なロイドと魔法オタクのフロリーナの血を絶妙に引いてる娘ね。なるほど、これはちょっと面倒な感じがするわ。ここはあたしも手助けした方がいいかも」
「シンツィア様も、ノエリアお嬢様がフリック様を射止められるようご協力いただけると?」
シンツィアの言葉を聞いたスザーナの目が鋭く光った気がした。
こ、これは何か話がまずい方向に向かっている気がする。
ふ、二人をこのままにしておいていいのだろうか。
止めるべきか迷い、わたくしはおろおろと二人の様子を見ていることしかできなかった。
「いいわよー。面白そうだし」
「では、一旦休戦をして、ノエリアお嬢様の婿ゲットの共同戦線ということで同志にお迎えいたします」
スザーナが肩に止まっていた、骨の鳥に握手を求めていた。
一方、シンツィア様も骨の羽根を差し出しており、いちおう争いは収まっていた。
「あ、あの……。二人とも……。くれぐれもフリック様にご迷惑だけはかけないようにお願いしますね。くれぐれも、くれぐれもお願いします」
「大丈夫。大丈夫。ノエリアはおっぱいないけど顔は可愛いし、やり方次第でフリックもイチコロよ。こう見えてもあたしも生身があった時は、インバハネスの美魔女と言われた恋愛常勝の大人の女だったからねー。任せといて」
パタパタと飛んできた骨の鳥がわたくしの肩に止まるとそう囁いた。
「そ、そうなのですか? シンツィア様にご指南を受ければ……フリック様も……」
「そうねー。まずは着てる物から変えないと。スカートは短めにして、胸はないけど胸元はチラリと見えるくらいに――」
本体である全身鎧が動き出したかと思うと、わたくしのスカートをたくし上げ、骨の鳥が胸元を引き下げてきた。
「そ、そのように肌を見せるのですか!? そ、それはちょっと――」
「晩餐の時のドレス姿にはフリック様も反応されておりましたからね。派手にならない程度に色気は――」
「ひ、ひゃあ……こんな格好……」
その後、使役魔法の魔法理論の講義時間は変更され、スザーナも交えたフリック様の攻略会議になり、色々と案が出てきたがどれも自分が実行するには、まだまだ勇気がいるものばかりであった。
そんなことをしている間にフリック様が例の巨馬に乗って森から戻ってきてしまい、会議は自然解散となった。
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