68:インバハネスへの帰還
巨馬をインバハネスへ連れて行く説得に成功した俺は、外で待っていたノエリアたちのもとに戻ってきていた。
「ブルフィフィーン」
「でっかいわね。中々骨太で加工しがいのある骨をしてそうな――」
「シンツィア様、コイツの骨はあげませんよ!」
俺は巨馬から降りると、骨の鳥の前に立ちはだかった。
「フリックのけちー。まぁ、いいわ。あたしは世界最高の美骨を作れればいいんだし」
シンツィアは巨馬の骨をすぐに諦めたようで、パタパタと飛ぶと、ノエリアの方に向かっていた。
「フリック様、無事にその巨馬を説得できたようですね。これで、インバハネスのギルドマスターもほっと胸を撫でおろせるでしょう」
「ああ、こいつはちゃんと俺の言うことを理解して、自分から捕まることを了承してくれたんだ。やっぱり、頭のいいやつだぞ」
俺は足元の草を食みはじめた巨馬の身体を軽く叩いてノエリアたちに紹介していた。
「街道で戦った時も思いましたが、本当にただの軍馬とは思えないほど、この子は大きい身体ですね。
ノエリアも巨馬に興味津々らしく、巨馬に近づくと傷だらけの身体に触れていた。
巨馬を連れて戻ってきた時から気になっていたのだが、ノエリアの服装が行く前と変わっていた。
インバハネスは南の方でも湿気が少なくカラッとしたユグハノーツと違って、蒸し暑い気候だからローブも薄手に代えて、スカートも短くしたのかな。
道中もけっこう暑かったし、汗もかいたからな。
この土地で行動するなら、ノエリアみたいに薄着の方がいいかもしれない。
本当ならインバハネスの街で服を買って着替えた方が良かったんだが、ディモルの件でゴタゴタもあって駐屯地で自粛してたからなぁ。
街に戻ったら俺もインバハネスの気候に合った服を買い揃えるとするか。
一人旅なら気にしないでもいいが、外套も衣服も汗だらけになっているし、女性が一緒だし身だしなみくらいは整えておかないとまずいよな。
ノエリアの服装を見て、ふと自分が汗だらけなのを思い出し、俺はクンクンと外套の匂いを嗅いでいた。
アルフィーネと一緒に冒険者をしていた時は、別に気にしなかったけど、ノエリアやスザーナもそうとは限らないだろうし。
やっぱ街に戻ったら替えの服を買いに行くとしよう。
「フリック様、どうかされましたか?」
「あ、いや。何でもない」
自分に視線を向けられていたことに気付いたのか、ノエリアの頬が少し赤く染まっているのが見えた。
ちょっとジロジロと見すぎたな。
変なやつって思われないようにしないと。
俺は視線を巨馬に戻すと、これからのことについて自分の考えを語ることにした。
「いちおう緊急の依頼はこれで片付いたことだし、一旦街に帰ろうと思うんだ。アビスウォーカーの目撃された場所の情報はすでに手に入れてるし、準備を整えたらすぐに探索もしたいがどうだろうか?」
「それでよろしいかと思いますが、その前に一点だけ確認を。その巨馬を冒険者ギルドに引き渡して、その後脱走の手引きをされるつもりでしょうか?」
黙っていたスザーナが今後の予定について語った俺に質問をしてきた。
脱走の手引きか……。
こいつなら、俺たちが手引きしないでも普通に脱走できそうな気もするが。
それに俺がいる場所も帰る前に寄って教えておけば来てくれそうな気もするし。
足元の草を食んでいる巨馬を見て、俺はそう思っていた。
「たぶん、こいつに手引きはいらないと思うからしないよ。これ以上、インバハネスの代官と揉めるのもノエリアたちに悪いし」
「ブルフィフィーン」
巨馬も『手引き無用』と言いたげに鳴いていた。
「承知しました。では、フリック様のご提案通り、一旦街に戻りましょう。シンツィア様、雲鯨の骨ゴーレムも街の近くになったら解体してくださいね」
「はいはい、分かってるわよ」
「じゃあ、一旦インバハネスの街に戻るとしよう。ディモルー、駐屯地に帰るぞー!!」
「クェエエ!」
上空を飛んで警戒していたディモルに帰還することを伝えると、街のある方へ向けて先行で偵察に出てくれた。
「ブルフィフィーン」
話がまとまったと察した巨馬は、俺の外套を咥えると再び背に乗せてディモルのあとを追い始めた。
「あ、フリック様! スザーナ、シンツィア様出発しますよ」
「あ、はい! すぐに出ます」
「みんなせっかちねー。ゴーレムを動かすのも結構手間なのよー」
背後に残ったノエリアたちが慌てて、荷馬車に乗り込み走り出した俺たちの後を追いはじめていた。
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