sideノエリア:すれ違う想い
「熱もなさそうだし、熱中症という感じではない気が」
「へぇ、顔色が酷いみたいだけど。他の病気?」
木陰で外套を外し、薄着になって寝てもらっているフリック様の様子を確認しているが、特に病気と思われる所見は見られなかった。
回復魔法もかけてみたけど、効果を発揮してる様子は見えないし。
体調的には特に問題がないとしか。
だとすると、問題は精神的な方かしら。
「わたくしも専門家ではないので詳しくは分かりませんが、精神的なものかもしれません」
「精神的?」
「強いストレスとかが引き金になり、意識を失う方がいるとか聞いたことが――っ!?」
自分でそう口にした途端、ある考えが脳裏をよぎってしまった。
まさか、わたくしがはしゃぎすぎてフリック様との買い物を楽しんでいたのが彼の負担になっていたのかも。
フリック様のことを考えずに自分だけ楽しんでしまっていたのが、とっても負担だったのでは……。
わ、わたくしは自分の立ち位置を忘れて、何という愚かなことを
脳裏をよぎった考えが、自分の中に自己嫌悪感を湧き上がらせてくる。
最近、気軽に話をできるようになったから忘れかけていたけど、彼に親しく近づきすぎるのは自分のした行為から考えても厚かましいことだった。
「わたくしのせいかも……。ど、どうしましょう。シンツィア様」
今のフリック様の状態が自分のしたことかと思え、急に身体が震えて、目の前の視界が滲み始めた。
「いや、ちょっとよく分かんないんだけど。なんで、ノエリアのせいなの? ほら、この前スカート短くしたらフリックもまんざらでもない感じだったと思うけど」
「違うんです。違う。わたくしはフリック様の優しさに付け込んでただけなんです」
「そうなの? でも、フリックはノエリアを嫌ってるようには見えてないし、嫌ってたら今日だって一緒に買い物になんてきてないでしょ? 男と女ってノエリアが考えてるよりわりと簡単な原理に則って動くもんよ」
ローブの中から顔を出しているシンツィアが泣き顔のわたくしを慰めるように優しい言葉をかけてくれた。
でも、きっとわたくしとフリック様とはそういう簡単な原理には則ってない。
フリック様はずっと我慢してるんだ。
さっきの買い物の時も婚約者と言われたら否定していたし、やっぱりそう見られるのは彼にとって嫌なことなのだろうし。
そう思うと無性に悲しくなって、こらえていた涙がポツリとフリック様の顔に雫となってこぼれてしまった。
「ん……。んん!? ノエリア……? ノエリアか、あれ俺なんで寝てるんだ……。なんで、泣いてるんだ?」
「フ、フリック様!?」
意識を取り戻したフリック様が目を開けると、わたくしの顔を見ていた。
泣いている姿を見られてしまった!
また、彼にいらない心配をさせてしまう。
ご、誤魔化さないと!?
わたくしはすぐに涙を拭って誤魔化そうと理由を考えだそうとしたが、いい考えが思いつかずオタオタとしてしまった。
そんなわたくしを見かねたのか、シンツィア様が口を開いていた。
「フリックが死んじゃうーってノエリアが騒いで泣いてただけよー。あんたも倒れるなら、倒れるって言いなさいよー」
「え? 俺、倒れたの? そんな記憶全然ないんだけど。たしか市場でノエリアと果物を食べようとしてたはず――」
起き上がったフリック様は倒れた際の記憶があいまいな様子だった。
精神的な負荷で短期的な記憶が飛んでいるのかもしれない。
「それは迷惑かけたな。急に倒れるなんて恥ずかしい姿を見せた。護衛としても失態だな。次からは気を付けるよ」
フリック様は頭をかきながら照れた顔をされていた。
フリック様は悪くない……。
原因はきっとわたくしだから……。
そう言いたいけど、言ったらこの関係すらも壊れそうで怖い。
今の関係すら壊れた時を思うと、自分の心臓が潰れるのではと思うくらいキュと締め付けられる気がしていた。
「い、いえ。お気になさらずにわたくしも少々はしゃぎすぎておりました。今後は気を付けます」
それだけ言葉として出すのが今のわたくしの精いっぱいだった。
我ながらかなり自分勝手としか言えないセリフである。
そんな自己嫌悪に晒されながら、その後も体調を回復したフリック様と買い物を続け、駐屯地に帰ることにした。
だが、帰る道中も彼が倒れた原因が自分にあるのではとの思いから、足取りは行きに比べて異常に重く感じていた。
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