156:明かされた秘密
こっちの動揺を見透かしたように、ヴィーゴは顔をゆがめて笑みを浮かべる。
「でも、お一人だけ当時の関係者が残っておられるので、真偽のほどを確かめてみましょうか?」
ヴィーゴは何もなかった空間を操作すると、俺たちの目の前にシンツィアの命をつなぎとめている鎧の姿が映し出された。
「フリック、アルフィーネ、ヴィーゴの言うことは嘘よ! 信じたらダメ! あんたたちは普通の子だから!」
シンツィアには先ほどのヴィーゴの話が聞こえていたらしく、ヴィーゴの嘘を信じるなと叫んでいる。
やっぱり、ヴィーゴの吐いた嘘だよな。
嘘なんだよな。
ヴィーゴは、映し出されているシンツィアに向かい、ダントンの手記を突き付ける。
どうやら、シンツィアにもこちらの映像が見えているようだ。
「類まれな身体能力を持ち、剣を持てば何者も触れることができない剣聖アルフィーネが、普通の人間の子だと?」
「そうよ! おかしなことなんて一切ないわ!」
「人が貯め切れないほどの魔力を体内に宿し上級魔法を杖なしで連発でき、剣を持てば剣聖に迫る剣術を使う真紅の魔剣士フリックがただの普通の子だと?」
「そうよ! 二人は努力によって今の実力を得たの!」
そうだよな……。
アルフィーネだって、死ぬほど剣の練習をしてあの腕前にまで到達したんだし、俺も同じような練習を積んで剣も魔法も使えるようになったんだ。
けして、最初からそうなるように与えられた力を付与された、人外とも言える化け物なんかじゃない!
俺たちは普通の人間だ!
シンツィアの言葉に励まされ、俯きそうだった顔を上げ、ヴィーゴを再び睨みつける。
「シンツィア殿は強情な方だ。これではフリック殿たちを納得させられない。では、話を変えてノエリア殿のことにも触れさせてもらいましょう」
こちらの視線を受けたヴィーゴは、ふぅとため息を吐くと、ダントン院長の手記のページをまた一枚めくった。
ノエリアのこと? なんだよ、それ。
「やめなさい! やめろ! それ以上口を開くな! 黙れ!」
ページに記された文字を見たシンツィアの態度が、さきほどとはうって変わったように慌てたものになっている。
「辺境伯令嬢、無限の魔術師の二つ名を持ち、膨大な魔力量をも持つ、魔術師として百年に一人の逸材と称されるノエリア様。ご母堂フロリーナ様からの素質を受け継いだとされているが……」
「それ以上、その薄汚い口を開いて喋るな! フリック、アル、ノエリア! その男の話を聞かないで済むように倒しなさい! すぐに!」
半ば狂乱したようにシンツィアはヴィーゴを討てと、喚き散らしていく。
「ご親友が行った凶状をその娘に知られるのが、そんなにお嫌ですか?」
ノエリアの話になってからのシンツィアの態度の豹変ぶり、本当に今までの話はヴィーゴの嘘なのか?
俺の中で、もしかしたらヴィーゴの喋っていることが本当のことなのではという想いが生まれてきた。
「ただ、私としては事実をお伝えして交渉に臨みたいので、喋らぬわけにはまいりません。ダントン氏の手記によれば、辺境伯ロイドと恋仲だったフロリーナは、『超人計画』のもう一つ試案だった複製人間に頼らない人類強化案を自身の腹に宿った子に対し行ったと記されていますな」
ヴィーゴの視線が、俺の隣にいるノエリアに注がれる。
フロリーナ様の子は……ノエリアだけだな。
自分の子にそんなことを本当にしたのか!?
嘘だろ……。
「フロリーナ氏の子は、ノエリア殿しかおらぬゆえ、胎内にいる間に魔力量を強化され魔法を扱うのに最適化された身体にされ、生まれたと思われます。こちらに関してはライナス殿の手記にもそれらしい記述が残っておりますが、読みますかな?」
「っ!? 嘘、ライナス師匠の手記に……そのような記述があるなんて嘘です!」
母が自分に対し行ったことと、そのことを師匠として尊敬してたライナスも知っていたらしいと知り、ショックを受けたノエリアは、その場に立っていることができず、崩れ落ちるように地面に座り込んでいた。
「違うわ! ノエリア、フロリーナはそんなことしてない! 全部そいつの嘘よ! 信じたらダメ……ダメなの! お願いだから信じないで……お願い」
シンツィアの声音は勢いを失くし、最後は震えるようにか細い声になっていた。
どうして、そんなに声を詰まらせているんだ。
嘘だって大きな声で否定してくれ……頼むから……。
シンツィアのか細い声音に、俺の中でヴィーゴが暴露したことの信ぴょう性が増していく。
「私は科学者の端くれですので、この場では事実に基づいたことしかお伝えしませんよ。フリック殿、アルフィーネ殿、そしてノエリア殿は大襲来で狂乱状態に陥った魔術師たちによって産み落とされた戦闘能力を強化された人類だ。つまり、私たちが産み落としたアビスウォーカーとなんら変わらぬ存在だということですな」
「俺たちがアビスウォーカーと同じだと……?」
「方法こそ違えど、人の手によって創り出された怪物なのは同じ! 御三方は怪物なのですよ! ハハハ!」
ヴィーゴは俺たちを指差しながら、大きく口を開け哄笑していた。
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