61:寄生鮫

【な、なんか出てきました!】


「こいつは小雲鯨スモールクラウドホエールの身体に寄生する寄生鮫パラサイトシャークだ。雷を飛ばしてくるぞ」



 大きく口を開けて、飛び込んできた寄生鮫パラサイトシャークたちが、その口から雷を放ってくる。


 寄生鮫パラサイトシャークの大きさは人と同じくらいだが、その口は人を丸呑みできそうなほど大きく開いていた。



【■▲〇※■▲〇※!】



 飛び込んできた寄生鮫パラサイトシャークの雷を避けていると、ディーレが火球ファイアボールを食らわせていた。


 火球ファイアボール寄生鮫パラサイトシャークの群れの中心で爆発を起こし、小雲鯨スモールクラウドホエールの身体に叩き落していた。



「魔法で倒すと、因子が食えないけどいいのか?」


【はっ! つい、マスターを守らないとって思って忘れてました】


「まぁ、まだいっぱいいるみたいだぞ。というか、この量……絶対に小雲鯨スモールクラウドホエールに住んでる量じゃないよな」



 俺の前には小雲鯨スモールクラウドホエールの身体の中から、新たな寄生鮫パラサイトシャークが現れていた。


 飛びかかってきた寄生鮫パラサイトシャークの牙を避けると、ディーレの刀身を叩き込んだ。



 発動した魔法剣の効果が強すぎて、寄生鮫パラサイトシャークが爆発四散してるな。


 これくらいなら、普通に斬ってもいける。



【因子が美味しいです。雷系が若干強化されました。むふぅー、幸せです】



 刀身で魔物の因子を吸収したディーレが、強化された項目を報告してきているが、俺はまだ寄生鮫パラサイトシャークの攻撃をかわしながら、叩き落して斬っている最中だった。



「ディーレ、味わっているところ悪いが、援護を頼むぞ」



 寄生鮫パラサイトシャークの放った雷を避けると、仕事を忘れて因子を味わっているディーレに声をかけていた。



【はっ! すみません。すぐにお仕事します! ■▲〇※■▲〇※!】



 ディーレは、飛び込んでくる寄生鮫パラサイトシャークに向けて火球ファイアボールを撃ち込むのを再開する。


 そして、あらかた周囲の寄生鮫パラサイトシャークを片付けた時にそれは起こった。



「ボォオオオオオオオオ!!!」



 小雲鯨スモールクラウドホエールが鳴いたかと思うと、俺の立っている小雲鯨スモールクラウドホエールの身体がぐるりと回転し始めていたのだ。



「おわっ! 回り始めたっ!」



 小雲鯨スモールクラウドホエールが空中で身体を回し、俺たちを振り落とそうとし始めたので、すぐに口笛を吹き、近くで飛んでいたディモルを呼ぶ。


 一旦、離れるため空中に飛び出した俺の身体をディモルがサッと咥えて拾ってくれた。



「ありがとな。今度は頭の方に回る! トドメを刺させてもらうぞ!」


「クェエエ!!」



 ディモルの背に乗り直すと、俺は小雲鯨スモールクラウドホエールの頭部に向けて飛ぶように指示を出す。


 大空でゆっくりと身体を回していた小雲鯨スモールクラウドホエールの頭部に回り込むと、再びディモルから飛び降りて頭部に降り立つ。



「ボォオオオオオオオオ!!!」



 頭に降りた俺を嫌がった小雲鯨スモールクラウドホエールが頭頂部の穴から、もう一度毒と麻痺の煙を出そうと動かし始めていた。



「させるかっ! 大気に漂う数多の雷よ、わが剣に宿りて大いなる稲妻となれ。稲妻剣サンダーソード



 俺は雷属性の魔法効果を乗せた魔法剣を発動させると、煙を出そうとしている穴の近くに向かってディーレを思いっきり突き立てていた。


 小雲鯨スモールクラウドホエールの身体に突き立ったディーレから発せられた稲妻が、全身に向けて次々に迸って行くのが見えた。



「ボォオオオオオオオオ!!!」



 稲妻剣サンダーソードのダメージを、高密度の雲の奥に隠された本体にまで受けた小雲鯨スモールクラウドホエールが悲鳴を上げていた。



【追撃します! ■▲〇※■▲〇※!】



 ディーレが再び光ったかと思うと、もう一度小規模な稲妻が小雲鯨スモールクラウドホエールの身体を迸っていた。


 突き刺したディーレを引き抜くと、大量の白い煙が噴き上がっていき、ドンドンと小雲鯨スモールクラウドホエールの身体が縮んでいくのが見えた。


 だが、さすがに巨大な魔物なので魔法剣一発で沈むほど、貧弱ではなかった。



 さすがに小雲鯨スモールクラウドホエールも、受けたダメージに驚きなりふり構わず寄生鮫パラサイトシャークたちを操り、俺を倒そうとけしかけてきた。



「ディーレ、寄生鮫パラサイトシャーク退治は任せる! 俺は小雲鯨スモールクラウドホエールを仕留める!」


【了解! お任せください! ■▲〇※■▲〇※!】



 ディーレは高速詠唱を使い、火球ファイアボールを次々に撃ち出すと、俺に迫る寄生鮫パラサイトシャークを叩き落していく。


 雑魚をディーレに任せ、俺は再び最大威力の稲妻剣サンダーソードを発動させる呪文を唱えた。



「大気に漂う数多の雷よ、わが剣に宿りて大いなる稲妻となれ。稲妻剣サンダーソード



 ディーレの刀身にバチバチと雷光が宿るのを確認すると、俺は再び小雲鯨スモールクラウドホエールの身体にディーレを突き立てた。



「ボォオオオオオオオオ!!!」



 稲妻が全身を駆け巡った小雲鯨スモールクラウドホエールが断末魔の叫びをあげると、全身から白い煙を大量に噴き上げ始め、墜落を始めていた。



「仕留めた! 手ごたえがあったぞ!」


【でも、マスター落ちてますよっ!】


「大丈夫、俺たちにはディモルがいるだろ!」



 地上に向けて落ち始めた小雲鯨スモールクラウドホエールから脱出するため、ディモルを口笛で呼んだ。


 近づいてきたディモルに飛び乗ろうとする。


だが、残っていた寄生鮫パラサイトシャークが寄生主を退治した俺たちを逃がすまいと襲い掛かってきた。



「しつこいやつらは嫌われるぞ! 漂う大気よ。凝縮し我が示す先で解放せよ! 大気爆発エアリアルブロークン



 ディモルに向かってこようとしていた寄生鮫パラサイトシャークの群れに向け、俺は大気爆発エアリアルブロークンを放つ。


すると、爆発的な風の奔流によって寄生鮫パラサイトシャークの群れは吹き飛ばされて、小雲鯨スモールクラウドホエールと一緒に地上に向かって落ちていった。



「これで討伐は完了だな。あとは、地上に落ちた小雲鯨スモールクラウドホエールから因子と討伐の証を手に入れるだけだ」


【むふー、小雲鯨スモールクラウドホエールの因子が楽しみです!】


「身体を覆ってる高密度の雲が消えるまでしばらくかかるから、解体はノエリアたちと合流してからだと思うぞ」


【えー! お預けですかー! そんなー!】


「まぁ、ちょっとの我慢だ」



 俺はお預けをくらってショックを受けているディーレを鞘に納めると、小雲鯨スモールクラウドホエールが落ちていくと思われる地点へ先回りすることにした。

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