115:窮地
「フリック様、ご無事ですか」
「あ、ああ。俺は問題ない。問題ないが――」
俺はノエリアの問いに答えながらも、超高熱と爆風の中心地となった地点に視線を送る。
怪物がいた場所は、地表に残った熱が周囲の物を焼いて煙がモクモクと沸き上がっていた。
「さすがにあの威力でならやったか?」
「い、いえ……あの煙の奥の人影……」
「あれで生きてるって嘘だろ……!?」
沸き上がる煙の奥から巨大な体躯の人影が見えた。
やがて、煙が薄まるとその姿を現してくる。
顔の半分が吹き飛んでいるが、生命活動は停止しているようには見えなかった。
怪物は片目になった眼で俺を見つけると、漏れ出すような唸り声を上げ、こちらに向かって突進を始めていた。
「フリック様、来ますっ! 様子がおかしいんで気を付けてくださいっ!」
「ああ、分かってるが――」
魔法で障壁を張ってるとはいえ、一発で障壁砕く力を持つあいつらをノエリアに近寄らせるわけにはいかないよな。
「ノエリアは後ろから援護を頼む。ディモルもあいつらが寄ってきたらノエリアを拾い上げてくれ」
「フリック様――」
「クエェエ!」
ディモルにノエリアを任せると、俺は向かってくる手負いの怪物に向け、ディーレを構えて駆け出した。
駆け出したのはいいが、あいつらの皮膚を剣で切り裂くことはできないしな。
顔半分吹っ飛んでも生きてるやつをどうやって仕留めたものか……。
距離を詰め接敵したものの、相手の異様な生命力の高さに俺は困惑しか感じていなかった。
「ガァアアアアアアアアアっ!」
片目になり、距離感がおかしくなったのか、怪物の攻撃は最初に比べ正確さを欠き、回避はしやすくなった。
隙を見て斬撃を打ち込んでいくが、やはり皮膚は厚く、刀身は食い込ませることができず表面を滑っていく。
「くっそ、かてぇ」
「フリック様、援護しますから! 地に眠りし硬き石よ、大気と交わり螺旋となりて、我が敵を貫け!
杖を構えたノエリアが詠唱を終えると、地面から先の尖った石が浮き上がり、空気の中を螺旋の渦を描き、すごい速度で怪物の胸に命中していた。
「貫通した――!?」
「ですが、致命傷ではないですっ!」
通常の人なら即死とも思える心臓のある部分に命中したものの、怪物は緑の血を大量に流しながらもまだ動いていた。
「くそ、くそ、ジェノサイダーがっ! 囮どもなんか放っておいて、フリックを仕留めろ!」
「あーなんかうるさいのがいるわね。あっちはあたしが捕まえておくわ。たぶん、あいつが怪物を動かしてんでしょ。あたしの勘は当たるんだからねー」
ノエリアの肩に止まっていたシンツィアが緊張感のない声で、そう呟くと、俺と怪物たちが戦っている場所をパタパタと横切り、奥にいた白いローブの男の近くの木に降り立った。
「わが
地面から湧き出した土人形が、男の周囲を囲んでいた。
「ひっ! やめろ! わたしを攻撃するとあの怪物たちがお前らを皆殺しにするんだぞ! 分かってるのか?」
ジリジリとにじり寄ってくるゴーレムに男の顔色は蒼白になっていた。
あの慌てよう。
あいつ自身は強くないってことか。
ゴーレムたちの包囲の輪を縮めたシンツィアが、男に怪物たちを止めるよう迫っていく。
「今すぐにあの怪物たちを止めれば、あんたの首をねじ切らせることはさせないであげるわよ。ほらほらーどうすんのー」
怪物たちは指示者である男の危機が気になるようで、攻撃する圧力がかなり落ちていた。
「やめろ、近づくな! ジェノサイダー! わたしを守れ! まずこのゴーレムを駆逐しろ!」
「あらー、いいのかしら? あんたのかわいい怪物ちゃんよりも、あたしのゴーレムの方が先に命を奪える状況なのよー」
「人とも言えぬ化け物鳥めっ!」
男は木に止まっているシンツィアに向かって悪態をつく。
形勢として逆転したようだ。
怪物たちも動きを止めたようだし。
このまま、あいつを捕縛して――
「あ、ちょっとっ! あんたら何者っ――ってアビスウォーカー!? まだ生き残って――!?」
木の上にいたシンツィアが、一人で勝手に騒ぎ始めた。
アビスウォーカーとか言ってるが――
まさか!?
「あたしの本体に触れようなんざ、一〇〇年早いっ! 子供たちを人質とか卑怯でしょ! ご、ごめん、フリック、ノエリア。孤児院が――嘘でしょ! 魔力が吸われるぅ」
木の上で勝利を確信していたシンツィアの骨の鳥がバラバラになって散ると、男を囲んでいたゴーレムが姿を維持できずに土に戻っていた。
「シンツィア様!?」
「孤児院でって言ってたけど、本体に何かあったのか!?」
シンツィアの骨の鳥が砕け散ったのと同時に、孤児院の方から眩い光が夜空に向かって打ち出されていた。
男はその光を見つけると、常軌を逸した笑い声をあげていた。
「ひゃあははあああぁっ! ヴィーゴ様がやってくれた! これで、あとはフリックとノエリアを手に入れれば、我らの宿願が果たされるはずだっ! 邪魔者は消えた。やれ、ジェノサイダーども!」
「別動隊がいたのかっ!」
「さあな。大人しく武器を捨て、我らに降伏するなら教えてやってもいいぞ。お前らの行動次第では、もっと人死が増えるがな」
自らの身に訪れた危機が去った男は、高圧的な態度を見せる。
チラリと遠くに見える孤児院に視線を送るが、その中の様子までは見通すことができないでいた。
下手に動けば、別動隊が押さえたと思われる孤児院で人質が危険に晒されるのか。
かといって、このままやられるわけにもいかない。
俺たちは手出しができない状況に置かれてしまっていた。
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