43:対抗策
声のした方に駆け付けると、俺が森で戦った例のアビスウォーカーが、騎士たちを相手に棒状の筒を振り回して大立ち回りをしていた。
すでに五〇人近い騎士は傷を負い、気絶しているか、地面に倒れ伏して絶命しているようである。
「これは……ひどい状況だ……。わしの家臣は近衛の軟弱騎士とは違って、皆冒険者上がりの手練れの騎士だぞ。それがいともたやすくやられているとは」
一緒に到着したロイドも惨状を見て、息を呑んでいた。
その間も、二体のアビスウォーカーは騎士たちの群れを相手にして圧倒的な強さを見せていた。
「ロイド殿、魔法で援護させてもらいますぞ。騎士たちを一旦下げてくだされ」
「ライナス師が魔法を……皆の者下がれ! 援護魔法が飛ぶぞ!」
ライナスが杖を構えるのと同時にロイドの指示を聞いた騎士たちは、死んだ仲間や傷を負った仲間を引きずりながら、アビスウォーカーから一斉に距離を取った。
「燃える大気と火花に成りて、我が敵を爆砕せよ!
ライナスが詠唱を終えると、アビスウォーカーたちの足元からもやが立ち昇り始める。
そして、火花が散ったかと思うと二体のアビスウォーカーが爆炎に包まれていた。
噴き上がった爆炎の中、アビスウォーカーは何事もなかったように動き出していた。
「全く魔法の影響を受けていない……フリック殿やノエリア嬢が言ったことが証明されてしまったな」
「ライナス師の魔法ですら効果を発揮してないのか……あれは本当にわしらが戦ったアビスウォーカーなのか……いや、今はあれを止めるのが先決だ」
炎の中を悠々と歩くアビスウォーカーを目にしたロイドが自らの剣を引き抜くと、アビスウォーカーに向かって斬りかかっていった。
「辺境伯様!? 危ないですよ」
「父上! 歳をお考えください! 相手は腕利きの騎士たちを倒しております」
「二人してわしを年寄り扱いするな。まだ、現役のつもりだ」
ロイドはアビスウォーカーの攻撃を剣でいなすと、そのまま反撃を繰り出していた。
だが、やはり剣の刃はアビスウォーカーの皮膚によってはじき返されていた。
「か、硬すぎる。わしの体力が落ちたとはいえ、二〇年前のアビスウォーカーの比じゃない硬さだぞ」
剣を弾かれたロイドに別のアビスウォーカーの棒先が迫る。
とっさに俺はロイドとアビスウォーカーの間に入って、その棒先を弾き返した。
「ノエリア、辺境伯様を援護するぞ」
「はい! 障壁を出します。不可視の盾となりて、周囲に顕現せよ。
ロイドに迫っていたアビスウォーカーの前に不可視の障壁が発生する。
だが、発生した障壁はアビスウォーカーの持つ棒状の筒で一突きされると、簡単に叩き割られていた。
「一撃で!?」
「だが、わしの方の体勢は整った。ノエリア、よくやった」
一息つけたロイドが剣を構え直す。
その間も俺はもう一体のアビスウォーカーに斬りかかっていた。
このままだと、被害が拡がっていく一方だ。
早いところ魔法剣を叩き込まないと。
「キシャアアアアア!!!」
威嚇の声を上げたアビスウォーカーが、棒状の筒を構え直すとすごい速さで突きかかってくる。
速い……が、かわせない速度ではないな。
一度戦ったことで、相手の技量の想像はできていたため、素早い攻撃にも対処ができていた。
一突き、二突き、三突き。
身体は上手く反応して、棒先を避けていた。
「燃え盛る炎よ、わが剣に宿りて敵を焼き尽くせ。
隙を見て、今の俺が放てる最大級の威力を込めた魔法剣を発動させる。
魔剣から紅蓮の炎が噴き上がるのを確認すると、敵の突きを回避しながら、すり抜けざまに胴体に斬撃を加えた。
魔剣の刃はアビスウォーカーの身体に食い込むと、刀身に貯め込んだ魔法を解放していく。
解き放たれた魔法効果がアビスウォーカーの身体の中を駆け巡る。
黒かった皮膚の鱗が内部に発生した火炎の影響で赤熱し赤く色を変えている。
それまで軽快に動いていたアビスウォーカーは動きを止め、もがき始めていた。
「き、効いてます。効いてるようです」
「フリック殿の魔法剣は新種のアビスウォーカーに効果を発揮しておるようですな。刀身に魔法をまとわせる魔法であればアビスウォーカーに傷を負わせることはできるかもしれんな。刀身に魔法を宿らせる感じで……」
俺の放った魔法剣の効果を見たライナスが詠唱を始めていた。
「燃え盛る炎よ、武器に宿りて敵を焼き尽くせ。
次の瞬間、ロイドの剣が俺の魔法剣と同じように炎をまとった。
「おぉ! これは……」
「フリック殿の魔法剣を流用して作ってみた。効果も継続時間もなにもかも未知数だから、安全性は保証しかねるが」
「非常時だ。安全性など無視してよい」
ロイドは炎をまとった剣でアビスウォーカーに斬りかかる。
炎をまとった剣がアビスウォーカーの胴体に食い込むと、俺の魔法剣と同じように周囲の鱗が赤熱し赤く染まった。
「フリックほどではないが効いておるな。これなら、いけるかもしれん。ライナス師、次を頼む」
「心得た。燃え盛る炎よ、武器に宿りて敵を焼き尽くせ。
再び、ロイドの剣に炎が宿る。
傷を負ったアビスウォーカーの動きは鈍っていた。
「フリック、生け捕りは諦めて、とどめを刺すぞ。これは生かしとくと危険な生物だ」
「俺もそう思います。倒しましょう」
「私もノエリア様に
マイスも自分の剣に炎を宿らせて加勢にきた。
一方アビスウォーカーたちは傷を負いながらも、戦意は失っていなかった。
「燃え盛る炎よ、わが剣に宿りて敵を焼き尽くせ。
俺も再び剣に魔法を込めると、自分が傷を負わせた方のアビスウォーカーに向かって斬りかかった。
動きの鈍っていたアビスウォーカーは、俺の斬撃をかわせずに胴体に刀身が食い込んだ。
さきほどと同じように黒い鱗が真っ赤に赤熱していくたびに、アビスウォーカーが一つしかない目をせわしなく瞬きさせ、苦悶の声をあげていた。
【マスター、援護します。※■▲〇※■▲〇】
「助かる!」
アビスウォーカーの胴体に食い込んだままの刀身から、魔剣が追撃で発動させた魔法剣の効果が乗る。
やがて、鱗の赤熱は全身に及びきった。
「ギャアアア!!!!」
断末魔の叫びとともに、大きな目玉が溶け落ちると、アビスウォーカーは地面に倒れ込んだ。
「やったか……」
【多分、やりました。動きません】
隣ではライナスとノエリアから魔法の付与を受けた騎士やロイドたちがもう一体のアビスウォーカーに斬りかかっていた。
俺の魔法剣ほどの傷は負わせられていないものの、あきらかに動きが鈍っていた。
「トドメだ」
「ギャアアアアア!!!」
炎を宿したロイドの剣がアビスウォーカーを一閃すると、俺の時と同じように目玉が溶け落ちると、絶命して地面に倒れた。
「ふぅ、なんとか倒したな……それにしてもこの強さ……早急に王へご報告をあげねばならんな」
「ですな。これは今までの魔法も効果を発揮せぬようですし……このアビスウォーカーが大勢這い出して来るかと思うと悪夢ですな。早急に王国でも対策を立てねば」
ロイドとライナスが地面に倒れたアビスウォーカーを見て、今後の対応を話し合っていた。
この二体が大襲来の先触れなのか、二〇年前に這い出した者が隠れ潜んでいたのか分からないだけに不気味さを感じていた。
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