剣聖の幼馴染がパワハラで俺につらく当たるので、絶縁して辺境で出直すことにした。
シンギョウ ガク
01:俺は彼女の付属品
「フィーン! 剣の振り方はそうじゃないって何回も言ってるじゃないの! なんでこんな簡単なことができないかなー」
宿の外で剣を振っていたら、背後から怒気を含んだ声をかけられた。
声の主は俺の幼馴染で恋人として付き合っているアルフィーネだった。
見る者を虜にする漆黒の瞳、男を惑わすような肌理の細かい肌、耳に心地よい声を発する唇は妖しく光を帯びる。
剣術によって鍛えられたしなやかな身体には、たわわに実った胸と艶のある黒髪が腰まで伸びていた。
男が見れば十人中十人の鼻の下を伸ばすであろう絶世の美女がアルフィーネだった。
しかも彼女は世界に三人しか持っていない剣聖の称号を持つ凄腕の剣士にして、王国の騎士として叙任を受けた貴族でもあったのだ。
完全無欠の剣の女神――それが、アルフィーネに贈られた一般の人たちからの評価であった。
けど、それはアルフィーネの表の顔しか知らない人の評価である。
幼馴染にして恋人である俺からすれば、そんなのは対外的に猫を被ったアルフィーネの姿でしかない。
本来の彼女は容姿の美しさとはかけ離れた、性格の悪いワガママで自己中心的な考えを持つ面倒な女だったのだ。
「アルフィーネ……君の指導の仕方だと俺は理解できないんだって言っただろう」
「フィーンの癖にあたしの指導に意見するの、マジであり得ないんですけど!? 自分の立場理解してる?」
俺は冒険者をしている。
もちろん、アルフィーネもだ。
同じ村で幼馴染として生まれ育ち、一緒に街に出て冒険者になったあともパーティーを組んで一緒に冒険をして、そして今は恋人同士でもあった。
けれど、何をしても俺はアルフィーネにはかなわず、その度になんでもできる彼女から上から目線の罵詈雑言を浴びる始末。
それが苦痛であったが、これまではずっと心の内に納めて我慢してきた。
彼女は自分が言いたいことを吐き出し、こちらが低姿勢に謝ればすぐに機嫌が良くなって、それまでのことが無かったかのように上機嫌になるのだ。
それでも子供の頃や、冒険者になりたての頃は今よりも幾分が口調も穏やかだった記憶がある。
だが、それも剣聖の称号と貴族の地位を手に入れたことで、彼女のストレスは増大していて、最近では俺を日に三度はストレス解消役にして罵詈雑言を浴びせうっぷんを晴らしてないと爪を噛む。
爪を噛むのはやめろと何度も注意したが、その度に『フィーンの分際であたしに意見をするな』と言われ、より一層不機嫌さがヒートアップするのだ。
『何をやってもうまくできない使えないやつ』、『幼馴染としてフィーンと一緒にいるのは恥ずかしい』、『でも、あたしの恩情で付き合ってあげてるんだから、感謝とともに絶対服従しなさいよね』
そんな言葉を毎日投げつけられ、気付けば俺は冒険者としても、男としても、人間としても自信を喪失していたのだ。
俺は気付かぬうちにアルフィーネの隷属物として日々を生きていた。
彼女の機嫌を取り、生活全般の世話を行う恋人という名を持つ世話係。
それが、今の俺であった。
「分かってる。俺はアルフィーネの恋人兼相棒だ」
途端にアルフィーネの顔に嘲笑が浮かぶのが見えた。
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