120:フリックの思い



「会ってたかも……」


「はい?」


「俺はアルになったアルフィーネにユグハノーツで会ってたかも。今まで全然気が付かなかったけど、ノエリアから聞いた情報からすると会ってた気がする」


「どこでです? デボン村ではわたくしと対面しただけですし。その後、アル様たちはすぐに鉱山にいた獣人たちを連れてユグハノーツにたたれましたが……」



 俺がアルに会ったことがあると言うと、ノエリアはとても不思議そうな顔をした。



「インバハネスに向かうためユグハノーツの街を出る時、冒険者ギルドで待ち合わせしただろ?」


「え、ええ。わたくしたちの準備が遅れ、フリック様をお待たせした覚えがあります……」


「あの時、若い金髪碧眼の青年冒険者とぶつかって、一瞬アルフィーネに見えたんだ。見間違いかなって思ったけど、ノエリアが教えてくれた通りなら、きっとあれがアルになったアルフィーネだったと思う」


「そう……でしたか。すでに一度お会いになられてたのですね……」



 不安を示すようにノエリアのアイスブルーの瞳が揺れるのが見てとれた。


 その不安を打ち消すためか、彼女は俺の手をしっかりと握ったままである。



「アルフィーネを保護するために散々探し回ったけど、無事に王都を脱出してたってわけか……。なにやってるんだろうな、俺はノエリアまで巻き込んで」



 殺されたって噂が流れてきたから、心配して王都まできたら、殺されたのは替え玉で本人は辺境のユグハノーツで俺を探してたとか、なんの冗談だろうか。


 ともあれ、アルフィーネは健在で近衛騎士団の追手からも上手く逃れてるってことだよな。



「フリック様、まだお伝えするべきことが残っております。聞いてもらえますか?」


「あ、ああ。すまない。続けてくれ」


「アル様は父と面会し、フリック様がフィーン様であるという情報を与えられたそうです。そして、フリック様の後を追いインバハネスの地に向かわれたということです」


「……そうか、俺の正体を知ってるのか」



 最初は正体を隠したままアルフィーネをエネストローサ家に保護してもらおうと思ってたけど……。


 すでに正体を知られてしまったか。


 アルフィーネのやつ、容姿を変えてまで俺を自分のもとへ連れ戻すつもりか。



 正体を知られたと知って、俺を罵倒するアルフィーネの姿が脳裏浮かびあがってくる。


 王都で色々と俺が見えてなかったアルフィーネの本当の気持ちを聞いたけど、未だにアルフィーネから与えられたトラウマが俺の記憶から拭いされないでいた。



「フリック様、顔色が――やはり、アルフィーネ様のことで心労があるのでは?」


「あ、いや問題ないよ。俺自身の心の弱さの問題だから。本当ならアルフィーネともっとちゃんと向き合うべきだったのに、俺は逃げたんだ」


「そのようなことは……。お話を聞いてわたくしが思うのは、お二人の間に起きたことはどちらにも責任はないように思えます……」



 心配そうに俺を見つめてくるノエリアの手のぬくもりが、心を締め付けられる苦しさを軽減してくれた。


 彼女がいなければ、逃げ出してきたアルフィーネのことに真正面から向き合おうと思えなかった存在だ。



「アルフィーネのことは、ちゃんと向き合うつもりだ。そうしないと、俺もフリックとして生きていくことが難しいと思うし」


「では、インバハネスへ会いに行かれるのですか?」


「ヴィーゴに連れ去られた院長先生たちを救い出したあと、色々とケリをつけるためにもアルフィーネに会いに行こうと思う」



 ノエリアは無言で俺を見つめていた。


 彼女にとって、アルフィーネと俺との関係はとても気になることだと思われる。


 フリックとして彼女とともに今後の人生を生きると決めたからには、ちゃんとアルフィーネとのことは清算しておくべきだと考えていた。



「そう……ですか。承知しました。連れ去られたダントン様やフィーリア様のことも心配ですしね。道が開通したら急いで王都に戻りましょう」


「ああ、アビスウォーカーやジェノサイダーを操ってたヴィーゴの言っていたことも気になるし、院長先生たちを救い出さないと」


「やることは決まったみたいね。フリック、ノエリア、アルフィーネの件はきっと万事上手くおさまるわよ。たぶん、ね。それと、色々とごめん。先に二人には謝っておくわ」



 話を聞いていたシンツィアはそれだけ言うと、部屋から羽ばたいて飛び出していった。


 その後、魔力を回復した俺はシンツィアと一緒にゴーレムを多数動員し、崩れたトンネルのガレキを大急ぎでどけ、道を開通させるとラドクリフ家の屋敷に逃げ込んだと思われるヴィーゴを追って王都に戻ることにした。

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