28:空は危険がいっぱいだった
今まで一度も見たことがない光景が俺の目の前に広がっている。
翼竜の背に乗り、ありえない上空を飛んでいて、眼下に大地が広がっているという光景だ。
この高さからだと、歩いて半日かかる魔境の森も近く感じるなぁ。
ギリギリ端の方に見える森が途切れた場所、あそこがこの前ロイドたちと行った
「フリック、そろそろ魔境の森に入るから高度を落とすぞ。あんまり、高いところを飛んでると――」
ガウェインがそう言った瞬間、赤い光が俺たちの翼竜をかするように通過していった。
「今の光は!?」
「魔境の森からの歓迎の挨拶ってところだな。翼竜や空飛ぶ魔物をエサにしてる
「さっきの赤い光。あの『ドンガメ』で有名な
たまに討伐依頼が出るが、突起の多い甲羅が固いだけで、動きも鈍く大して強力な攻撃もしてこない。
なので、冒険者たちからは『ドンガメ』と言われ、討伐は容易な魔物とされていた。
「ああ、あいつら地べたからの攻撃にはめっぽう弱いが、上を飛んでるやつには最強の天敵なんだ。わたしも何度か翼竜を撃ち落とされてるしな。って、無駄話はここまで、木の高さギリギリまで降りるぞ――」
ガウェインがそう言って高度を落としていった瞬間――
地上から視界を覆いつくすように、赤い光が一斉に撃ち上がってきた。
「うわぁっ! これって!?」
まさか、ここって
光の数が尋常じゃないんだが!?
俺は翼竜の頭を下に押し下げ、急降下の意思を伝えると、ガウェインの後ろについて赤い光の中に飛び込んでいった。
「ヒャッハーーっ!! 熱烈でご機嫌なお出迎えだな!! 連中は腹が空いてるらしいぞ!!」
先行するガウェインが奇声を上げ翼竜を上手く操縦し、赤い光を避けるように錐揉みで木の高さスレスレまで落ちていく。
うっそだろっ! あんな避け方していくのか!?
でも、やるしかない!
俺は相棒となった翼竜の首をそっと撫でると、ガウェインと同じような軌道を描いて木の高さスレスレまで降下していった。
「うおぉおおぉおっ!」
錐揉みしながら落ちていく自分に迫ってきた赤い光が頬をかすめる。
ジュっと肉の焼ける音と匂いがした。
避け切れない……そうか、
魔物が放つ赤い光の中を落ちていく途中で、ノエリアに教えられていた魔法の存在を思い出していた。
魔法やエネルギー体でできた物体から身体を守る魔法があった。
「白き膜となりて、我が身を包みこめ。
魔法を発動させると、翼竜の前に白い半透明の膜が展開していく。
この様子じゃ、すぐに吸収許容量の限界がきそうだ。
「もってくれぇええっ!」
降下する速度を一段と上げると、振り落とされないようにしっかりと荒縄を掴んでいた。
一気に魔境の森の木々が迫ってくる。
ぶつかる直前で荒縄を引くと、ギリギリで翼竜が身体を引き起こした。
木の高さまで高度を下げると、
「ふぅううううっ! なんとかなった……」
「いやあ、面白かったな。
無事低空に降りてホッとしたところ、隣に並んで飛んでいるガウェインから耳を疑う言葉が聞かれた。
「え?」
「え?」
ガウェインが『あれ、なんか違った?』とでも言いたげな顔をしていた。
「まさかとか思いますけど、さっきの場所を通らなくても行けました?」
「ん? まぁ、行けるがそれじゃあつまらんだろう。せっかく翼竜に乗れるようになったんだし、あれくらい簡単に回避できるようになっておかないと、ユグハノーツの騎士たちの弓はかわせんぞ」
頭痛い……。
この人やっぱ変人だ。
それに俺はこの翼竜でユグハノーツを襲う気は全くないんですけど……。
なんでユグハノーツの騎士たちから迎撃される想定なんだろう。
まさか、昨日弓で迎撃されたのを恨んでいるのだろうか。
俺は半ば呆れながら隣を飛ぶ変人鍛冶師の顔を見ていた。
「なんだ? わたしの顔に何か変な物でもついてるか?」
「いえ、ガウェイン様があの地で工房を開いている理由が分かった気がしてきました」
「そうか、フリックもついにわたしがあの地で工房を開いた高尚な意味合いを理解できるほど馴染んでくれたか。さすがわたしが触れ合いを許した男だぞ」
古い知り合いだと言っていた辺境伯ロイドが、街でのトラブル避ける為、あの辺境中の辺境であるヤスバの狩場に工房という名の隔離施設を設けたのではと思ってしまった。
悪い人ではないから、辺境伯も街の人も扱いに困ったんだろう。
悪い人ではない、やることが無茶苦茶なだけの人なんだ。
「さて、後は採取と材料集めだ。ここが目的地だから降りるぞ」
そう言うとガウェインが翼竜から飛び降り、木を伝って魔境の森の中に降りていった。
本当に無茶苦茶だな……大丈夫かな、俺。
ガウェインと同じように隔離されたりしないだろうか。
若干の不安を残しながらも、俺はガウェインの後を追って魔境の森に降り立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます