sideアルフィーネ:野営地の跡
フォレストウルフを倒したあたしたちは、しばらく荷馬車を走らせると、目的地であるアビスフォールの近辺にある野営地の跡に到着していた。
野営地の跡には多くの冒険者たちがキャンプを張りたむろっている姿が見えていた。
「すごい人の数ね。ユグハノーツ辺境伯が、各都市の冒険者ギルドから白金等級の冒険者たちを高給で呼び集めたって噂は本当だったわね」
「そうね。さっきみたいな魔物がウロウロしてる場所だと、ある程度腕の立つ冒険者じゃないと餌にしかならないもの」
「アル、ここはもう人目があるから言葉遣い注意!」
荷馬車を運転していたメイラが、あたしの鼻先に指を突き付けていた。
しまった! そう言えば今のあたしは、メイラの異母弟である駆け出し冒険者アルだった。
しばらく、誰にも会わない旅だったから油断していつもの言葉遣いに戻ってた。
「そんなこと、メイラ姉さんに言われなくても分かってるさ。それよりも余所見運転は危ないから前見て」
「それで、よろしい」
あたしが口調を直したことで、メイラは満足して運転に集中してくれた。
幸いなことに、集まっている冒険者たちはあたしたちのことを気にしてないようで、武器の手入れや仲間と雑談に興じている者が大半だった。
ユグハノーツから離れたとはいえ、こういった場所にも近衛騎士の追手が紛れ込んでないとも限らないからね。
用心に用心を重ねないと。
そうしている間も荷馬車は野営地の跡を進み、臨時で開設されているユグハノーツ冒険者ギルドのテントの前に到着していた。
荷馬車を停め、テントの中に入っていくと中にも冒険者たちがたくさん並んで列を作っていた。
「ここで依頼の受託と完了報告ができるらしいから。レベッカが言ってた通りやっぱり混んでるわね」
メイラが行列を見てげんなりとした顔をしていた。
ずっと運転してもらいっぱなしだったし、メイラも疲れてるだろうから休んでてもらおうかしらね。
捜索範囲を教えてもらえばいいだけだし、難しいことを聞かれることはないはずだしね。
「メイラ姉さんは荷馬車で休んでていいよ。ここはボクが並んでおくから」
「アル……」
あたしの言葉を聞いたメイラが目を潤ませてこちらを見ていた。
そんな目を潤ませるほどの大層なことは言ってないと思うんだけど。
メイラって本当に感情がすぐに顔に出てくる人よね。
「アルきゅん! しゅきいいいっ! 抱いてー。お姉ちゃん、その優しさでもうメロメロよー!」
目を潤ませていたメイラが、急にあたしに抱き着いてきた。
たぶん、こうなるだろうと思ってたけど予想通りの行動をしてくるわね。
メイラには悪いけど、ここで目立つわけにはいかないから静かにしてもらうしかない。
抱き着いたメイラの手を振りほどくと、額に手刀を撃ち込む。
「あぅ! これが弟からの愛のカタチなのね。お姉ちゃん、ハマっちゃいそう」
額を抑えてもだえるメイラの姿を見て、周りの冒険者たちがざわざわとし始めた。
「おい、アレってアルとメイラだよな。あいつら、選抜されたのか?」
「お前知らねえのか? アルのやつはものすごい剣の使い手らしいぞ。誰もあいつの剣先が見えないそうだ」
「銀等級のやつを一瞬で黙らせたのは知ってるが、そんなすごい剣の腕なのか?」
「じゃなきゃ、この場所には居ねえよ」
他の都市の冒険者に混じり、ユグハノーツの冒険者が居たらしく、あたしたちの姿を見てヒソヒソ話をしていた。
そのヒソヒソ話に他の都市の冒険者たちの視線も集まってきていた。
「姉さん、人前で騒ぐのはなし。大人しく馬車に戻ってて。皆さんがこちらを気にしてるじゃないか」
「アルきゅん、早く戻ってきてね」
「はいはい、すぐ戻るから大人しくしててね」
あたしはメイラをテントの外に追い出すと、再び列に並んだが、みんなからの視線を浴びてものすごく居心地の悪さを感じていた。
やがて行列は進み、自分の番になる。
危険地帯に設置されている臨時の窓口には、男性のギルド職員しか来ていなかった。
職員にユグハノーツの冒険者ギルドで発行してもらった受諾証を差し出す。
「アル様ですね。担当の捜索地域はこちらになります。アビスフォールに一番近い場所なので、魔物はあまりいないと思いますが、くれぐれも穴の中には降りないようにしてくださいね」
男性のギルド職員は、受諾証の代わりにこの辺りの詳細な地図を差し出してきた。
その地図には、あたしの名前と捜索範囲を示す赤い丸が付けられている、
「分かってます。アビスウォーカーの捜索のみでいいんですよね?」
「ええ、その地図にアビスウォーカーの詳細な姿も描かれていますので、もし見つけたらすぐに報告をしてください。あと、捜索中に退治した魔物に関しては高価買い取りしますので、ここにお持ちください」
「分かりました」
あたしは、地図を受け取ると先に荷馬車に戻っているメイラの元へ戻ることにした。
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