41:異形の生物
森に消えていった人影を追って、獣道を進む。
すでに魔境の森の方へ入ってきており、俺に気付いて追跡してきている魔物の気配を周囲に多数感じ取っていた。
魔物の気配が一気に増えると、走っている横の樹木がざわざわと木を揺らし始めた。
「なにかくるぞ! 準備はいいな」
【りょ、了解!! いつでもいけますっ!】
木が揺れ始めると、周囲から一斉に俺を捕獲しようとツタが伸びてきた。
【ツタです! も、燃やしますか?】
「ああ、ドンドン燃やせ。俺も一気に燃やす。燃え盛る炎よ、わが前に壁となりて現出せよ。
【了解です!! いっけーー! ※■▲〇※■▲〇】
先に詠唱を終えた魔剣から
そして、爆風と炎がツタを焼き払っていた。
遅れて発動した俺の
ツタが焼き払われると、周囲の木々が悲鳴のようなざわめきを発した。
気配の主は、
「トレントの大群か……ちょっと、めんどうだな」
【大丈夫!! いけます! 頑張ります! バッサバッサ切り倒します! そして、因子ウマーです!】
追跡するべき人影はかなり先行しているが、まだ見失ってはいないし、ノエリアたちも追跡していた。
だとすると、後ろからトレントたちに追われたままにするのも気持ちが悪い。
ここは一気に片付けていくか……。
「おし、一気に片付ける。今回の魔法剣の発動タイミングはお前に任せるぞ」
【了解!! お任せください! バッチリ決めます! ※■▲〇※■▲〇】
魔法剣の発動は、魔法を覚えさせた魔剣に任せ、俺は剣を振ることだけに集中することにした。
刀身に炎が燃え上がるのを確認すると、俺を追ってきたトレントたちに向かって移動する。
トレントくらいなら、魔剣の魔法剣でも一撃でいけるはず。
俺は炎をまとった魔剣で迫ってきたトレントの胴体を一閃する。
【メラメラ燃えちゃえー!】
魔剣の刀身がトレントの胴体に触れると、切り口から一気に炎が噴き上がった。
魔法剣の威力によって、炎上したトレントが断末魔の声をあげた。
「一撃だな。これなら一気にいける」
【お任せです!! メラメラ燃えますっ!! ※■▲〇※■▲〇】
すぐに刀身に炎を宿した魔剣を構え直すと、迫るツタをかわして次なるトレントを血祭りにあげていた。
一体、二体、三体。
トレントたちは魔剣の発動させた魔法剣によって俺に斬られ、次々に炎を上げて燃え上がる。
そして、最後のトレントを突き刺し絶命させると、魔剣が刀身を光らせて因子を取り込んでいた。
【トレントさんの因子は魔力回復速度がちょっぴり上がるみたいです。マスターの魔力は膨大だからちょっぴり回復速度あがるだけで、かなりの量が回復しますよ! ウマー!】
「今まで一度も使い切ったことはないけどな。回復するならそれに越したことはない。さて、邪魔な追跡者は排除したし、ノエリアたちの追ってる人影を追うとしよう」
【はい! そうしましょう!】
魔剣を鞘に納めると、俺は少し遠くなったノエリアとディモルの姿を追って魔境の森の奥へと進んでいった。
魔境の森を進んでいくと、上空からノエリアたちが追っているアビスウォーカーらしき人影が近づいてきた。
人の姿をしているが、筋肉が異常に発達した身体には真っ黒な鱗が生え、なによりも顔には大きく裂け鋭い牙が生えた口と、真っ赤な目玉が一つだけの異形の生物の姿が見えた。
大人たちが話していた姿に酷似している……。
これが本物のアビスウォーカーなのか。
人の姿形こそ残しているものの、その姿は醜く魔物だと言われれば納得ができる形相をしていた。
「フリック様、詳しく観察したいので、そのアビスウォーカーを捕らえてください!」
上空から追っていたノエリアから目の前の生物の捕獲を依頼された。
本当にアビスウォーカーなのか、似た魔物なのか判断するには捕まえるしかない。
「ああ、分ってるさ。すぐに捕まえ――!?」
背中を見せて逃げていたアビスウォーカーらしき生物が急に動きを止めると、俺の方へ向かってきた。
速いっ!! ケルベロスとかと同じくらい動きが素早いぞ!!
アビスウォーカーらしき生物は拳の間から長い爪のような物を出し、俺の身体を貫こうとしてきた。
その爪先を紙一重で避ける。
嘘だろ! 速い上に正確な攻撃まで!?
攻撃を避けられたアビスウォーカーらしき生物の大きな目玉が不気味に瞬きをする。
「キシャアアアアア!!」
そして、威嚇のような声を上げると、低く腰を落とし、再び俺に向かって走り込んできた。
顔面、首、肩、ふともも、心臓。
次々に急所を狙って爪を振り回してくる。
その一撃、一撃がすべて想像以上に重い一撃だった。
身体強化してないままであれば、剣で弾けずに急所へ傷を負っていただろう。
なんとか攻撃を弾いていたが、みぞおちへの突きを払い損ねて身体の体勢が崩れた。
【マスター! 援護します! ※■▲〇※■▲〇」
体勢が崩れた俺を援護するように、魔剣は刀身から
「キシャアアアアア!!!」
俺を追撃しようとしたアビスウォーカーらしき生物は、
その隙に体勢を立て直すと、魔剣を構え直し、胴体に向けて斬撃を繰り出した。
か、堅いっ! 魔剣でも微かに傷がつけられるだけかよっ!!
【カチカチです! 身体がぎいいぃいいんってしてますぅう!!】
俺の繰り出した斬撃は、刀身がアビスウォーカーらしき生物の胴体に微かに食い込んだところで止まっていた。
そして、僅かに食い込んで斬った傷口から緑色の液体が滴り落ちてきた。
【ぺっ、ぺっ! 美味しくないです! この化け物因子持ってないです!!】
アビスウォーカーらしき生物の血液を吸った魔剣が魔石を強く明滅させる。
どうやら、アビスウォーカーらしき生物は因子を持つ魔物ではないないようだ。
「キシャアアアアア!!!」
斬撃を受け怒りを覚えたのか、アビスウォーカーらしき生物は俺の魔剣を掴むと、ものすごい力で持ち上げてきた。
そして、そのまま俺ごと木に向かって投げつけた。
投げつけられた俺の背に何本もの木がぶつかり折れていく。
そのたびに鈍い痛みが背中を打っていた。
「かはっ! いってぇ……とんでもない馬鹿力……。剣が通じないとなると……魔法か。漂う空気よ。真空の刃となりて我が敵を葬れ。
転がった地面から立ち上がると、発動させた魔法を撃ち放つ。
撃ち出された真空の刃は、アビスウォーカーらしき生物にぶつかると傷を与えることなくかき消されていた。
「ま、魔法も通じない!?」
「キシャアアアアア!!」
アビスウォーカーらしき生物は威嚇の鳴き声を上げると、一気に近寄ってきて俺の腹に蹴りを入れた。
俺は蹴りを食らったことで魔剣と一緒にさらに森の奥へと吹き飛ばされた。
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