103:リスバーンの村へ
「はぁー、魔力おいしー。しばらく吸ってなかったからより一層美味しいわね!」
鳥の皮を被った骨の鳥であるシンツィアが、ディードゥルに乗って荷馬車に並走する俺の肩に止まり、自分の命を繋ぎとめるため魔力を吸っていた。
彼女の本体であるがらんどうの鎧は、荷馬車の荷室にいたままである。
そんな身体のないシンツィアだったが、王都に入る前日に『王都にはいい思い出がないから行きたくない』と言い出して、スザーナやディモルとともに馬車の待機所で待っていたのだ。
『シンツィア様、マスターの魔力吸い過ぎ! ディーレの分が無くなっちゃいます!』
「ディーレのケチー。ちょっとだけしか吸ってないわよ」
「シンツィア様、魔力でしたらわたくしのでもよろしいですよ。こちらへどうぞ」
少し考え込む仕草を見せたシンツィアだったが、俺の肩から飛び立つとノエリアの肩に止まっていた。
俺たちは今、自分の生まれ故郷であるリスバーンの村に向かっている最中だった。
王都でアルフィーネが頼りそうな二人を訪問したが、アルフィーネの情報は得られなかった。一旦屋敷に戻りカサンドラたちと相談した結果、潜伏している可能性の高いリスバーンの村に行くことにしたのだ。
「それで、そのリスバーンの村まではあとどれくらいあるの? もしかしてあの山越えるとか言わないわよね?」
俺の生まれ故郷であるリスバーンの村は、王都から歩いて一日ほどの距離にある農村である。
ただ、村のある場所の周囲は、平原の多い王都周辺では珍しく険しく高い山が囲んでおり、その高い山を越えた先の盆地に村は作られていた。
大襲来の時はその険しい山がアビスウォーカーの侵入を防いでくれていたと聞いているが、その油断から密かに忍び込んだアビスウォーカーたちに気付けず大きな被害を出したと孤児院の院長先生や村の大人たちからは聞いている。
その時、俺の両親もアルフィーネの両親も戦いに巻き込まれ亡くなっていた。
その後、俺たちのように親を亡くした村の子供は孤児院に集められ、ずっと一緒に暮らしていたのだ。
スザーナの運転する荷馬車に乗るノエリアから、魔力を吸い始めたシンツィアが前方に見え始めた山を見て小首を傾げた格好をしている。
「えっと、越えた先に村があるんだ。この時期なら雪もないし、荷馬車くらいなら通れる道も整備してあるから大丈夫だと思う」
「あの山の先がフリック様の生まれ故郷なんですね……。王都の近くにこのような高い山に囲まれた場所があるとは……」
「あのエルブルス山脈は、古代魔法文明時代に地形変更魔法の実験で作られたと記憶しておりますが、それにしても私も初めて見ましたがあれが魔法で作られたとは思えませんね」
荷馬車を走らせるスザーナが目の前に見えてきた山の成り立ちを俺たちに教えてくれていた。
なんでもそつなくできるメイドだと思ってたけど、実際はエネストローサ家に仕える密偵としての訓練を受けた人だったんだよな。
戦闘はできないって言ってたけど、身を守る護身術は使える感じだよな。
それに貴族やハートフォード王国の情勢にも詳しいみたいだし、今みたいにこの土地の歴史にも造詣が深い。
メイド服に謎のこだわりを持つ、ノエリア専属メイドの素性を知って、改めて俺はスザーナに感心していた。
「そうなんですね。俺は歴史には詳しくないから知らなかった。あんな地形を魔法で作れるんですね!」
「フリック様、地形変更魔法はすでに継承者がなく失われてしまった魔法です。それに膨大な魔力を貯めた魔石をいくつも使っていたそうなので、現代だとほぼ再現不可能だとライナス師も言われておりました。ですが、魔石があれば時間と資金さえかければ、あの規模までは無理でも小規模な地形変更魔法なら復活させられるかもしれませんよ。地形変更魔法の問題は、魔法の発動者が膨大な魔力を受け取れる容量が必須なので、その器を持つフリック様ならもしかしたら……」
魔法の話になった途端、ノエリアの顔が貴族の令嬢から魔法研究者の顔に変わっていた。
頬が紅潮して、口数が増えてるから、きっと今は頭の中は、すごい勢いで地形変更魔法の文献の知識が引き出されてるんだろうな。
ノエリアは変わってると言われてるけど、好きなことに一生懸命なだけだと思うんだが。
「あたしの使うゴーレム関係の使役魔法は地形変更魔法の流れを組む派生魔法の一つだからね。案外、簡単にフリックとかが復活させるかもしれないわね。今度、暇ができたら試してみたら?」
「勝手に地形を変えたら、変えたで怒られるでしょ? 俺だってそれくらいは分かりますよ」
「父に許可をとってユグハノーツの土地でなら、実験できないことも――」
ユグハノーツならか……って、いやいやさすがにそれはマズいでしょ!
失敗してあんな地形になるとマズいし。
「んんっ! 地形変更の話は後にして、そろそろ道が細くなりますので、フリック様が先導をしてもらえますでしょうか?」
話が逸れそうになったことに気付いたスザーナが咳払いすると、俺に先導するように促してくる。
「了解、ここからは急な坂道が続くから少し速度を落としていくのでよろしく。ディードゥルも足元気を付けてくれよ」
「承知しました。危ないのでノエリア様とシンツィア様は荷室にお戻りください」
「はいはい、ノエリア戻ろうか」
「フリック様、スザーナ、お願いします」
二人が荷室に戻ると、俺はディードゥルを先行させ、細い坂道が続く村への道を先導することにした。
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