85:ラハマン鉱山
重傷を負って戻ってきたマルコが居なくなったことで村の中は騒然としていた。
「フリック様、馬が一頭おりません。きっとマルコが持ち出したのかと」
「行き先はきっと鉱山……」
「たぶん、そうだと思います」
村人に周辺の捜索をさせていたユージンが広場に居た俺のもとに報告にきていた。
馬に乗って行ったとすれば、もうかなりの距離を進んでいるな。
ディモルで追った方がいいか。
俺は上空から捜索していたディモルに向けて口笛を吹いた。
「ノエリア、悪いけど君は、辺境伯様が派遣した人がいつ来ても良いように、ここに残って対応してくれ。マルコ殿は俺が連れ戻してくる。彼は重要な証言者だしね」
降りてくるディモルを見て、一緒に行こうとしていたノエリアの動きが止まった。
「そ、それはスザーナがいますし。わたくしも一緒にお手伝いいたします」
「いや、ノエリアを連れて行って万が一、鉱山の連中とひと悶着あれば、辺境伯家とラドクリフ家の大戦争になりかねない。その点、俺だけなら一介の冒険者だから、ひと悶着起きても大きな波紋にはならないはず」
「ノエリアお嬢様。フリック様の言う通りです。ここは自重して頂く方がよろしいかと」
スザーナも俺と同意見のようで、ノエリアには行って欲しくないと思っているようだった。
俺とスザーナに止められたノエリアはしばらく考え込んでいたが、やがて諦めたかのようにため息を吐いた。
「承知いたしました。ですが、フリック様……絶対に無茶なことはしないでくださいね」
「ああ、しないから大丈夫さ」
「本当にですか?」
心配そうに見上げるノエリアのアイスブルーの瞳に、俺の顔が映り込む。
「ああ、本当だ。剣に誓って無茶はしない」
「分かり……ました。ご無事のお帰りをお待ちしております」
「行ってくる」
俺はそれだけノエリアに言い残すと、降りてきたディモルに飛び乗り、マルコが向かったと思える鉱山に向けて飛び立った。
しばらく飛んでいると、村の方からディードゥルがシンツィアの本体である全身鎧を背中に乗せて、後をついてくるのが見えていた。
「面白そうだから、暇してたディードゥルも連れてきてあげたわ」
魔力が多いからと俺の外套の中を寝床にしているシンツィアは、パタパタと飛ぶと俺の肩に留まった。
「遊びに行くわけじゃないんですよ。絶対に大人しくしててくださいね」
「はいはーい。分かってるわよー。あたしだって大人なんだから、時と場所を選んでふざけるわ」
「その言葉、信用しますからね」
「りょーかい」
俺はシンツィアの軽い返事に一抹の不安を抱えながらも、ディモルの速度を一段と上げることにした。
やがて前方に土煙をあげて走る馬の姿が見えてきたが、すでにラハマン鉱山の旧廃坑の近くまで近づいてしまっていた。
「マルコ殿!!」
ディモルを急降下させ、馬で駆けていたマルコに声をかけると、彼は無言で一層スピードを上げた。
止まる気はないということか。
だが、このまま行かせるわけには……。
「クェエエ!」
その時、ディモルが何かを発見したようで、警告の鳴き声を上げていた。
急いでディモルが見ていた方へ視線を向けると、旧廃坑の入り口には武装した獣人たちがたくさん並び、こちらの様子を窺っているのが見えた。
「何者だ! ここは関係者以外立ち入り禁止に指定されている! それ以上近づけば警告なしで射殺するぞ!」
巨大な翼竜であるディモルの姿を見て、武装した獣人たちは若干の怯みを見せているが、戦闘意欲を喪失しているようには見えなかった。
「分かっている。こちらも争うつもりはない。ただ、その馬を走らせている人物を捕えたいだけだ」
潜在的な敵であるとはいえ、今は争うべき時ではないため、マルコの保護さえできれば立ち去るつもりであった。
「私は争うつもりだ。同胞ども、そこをどけ! ここに居る連中は獣人を人とは思っておらんぞ!」
馬を走らせたマルコは手にしていた剣を引き抜くと、弓を構える獣人たちの方へ突き進んでいく。
「不法侵入者だ! 馬のやつは射殺せ!」
獣人たちは突入してきたマルコに向け、引き絞った矢を次々に放つ。
放たれた矢は全てマルコに向かって飛んできていた。
「マルコ殿よせ!! 見えざる空気よ。堅き障壁となって周囲に発現せよ。
矢がマルコに刺さる寸でのところで、俺の
「フリック殿、ご助力はありがたいが……。私に関わらずにお下がりください。これは私怨でしかありません」
「無謀だ。俺はこんなことさせるために助けたわけじゃないんだぞ」
「分かっております。ですが……これだけは止めないでください」
マルコは俺の制止を聞かず、馬をさらに走らせ旧廃坑の片隅にある細い通路の奥へ消えていった。
「突破したやつを先に追え! 新鉱山には入れるなと厳命されておる!! 見つけ次第殺せ!」
旧廃坑の入り口にいた獣人たちは、マルコのあとを追って通路の奥へ向かおうとしていた。
「さて、あたしの出番ね。わが
追いついてきたディードゥルに乗っていた本体にシンツィアが戻ると、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます