sideアルフィーネ:元執事との邂逅


 ※アルフィーネ視点




「アル、もう少しで王都だから……。容姿を変えてるとはいえ、外套被って顔は隠した方がいいかもよ」


「…………」


「アルってば聞いてるの?」


「あ、うん。ええ、聞いてるわよ。お昼ご飯の時間だったわよね。どうする? あそこの木陰とかで食べる?」



 ずっとフィーンに会ったら、自分はどうするべきかを考えていたため、メイラの声が耳に入らず、あたしは適当に話を聞いていたように誤魔化していた。



「違うよー。王都に近いからアルお兄ちゃんは用心のために顔を隠した方がいいかもって話」



 荷室から顔を出したマリベルが、あたしの使っていた外套を手渡してくれた。



「え? あ、うん。そうね。ありがとう、マリベルちゃん」


「アルは、インバハネスを出てから――、いやフィーン君の正体を知ってからずっとそんな調子よね」



 マリベルが差し出してくれた外套を受け取ると、荷馬車を運転しているメイラが呆れたかのような顔をしてこちらを見ていた。



「ごめん……」



 一言メイラに謝りながら、マリベルから受け取った外套を目深に被っていく。



「別に謝る必要もないけど――ねっ!?」



 運転していたメイラが、急に手綱を思いきり引き絞って速度を落とした。



「きゃ! メイラお姉ちゃん! 急に止まると荷物が――」



 急に荷馬車の速度が落ちたため、荷室のマリベルから悲鳴のような声が聞こえてきた。



「メイラ、荒い運転は――」


「分かってるけど、田舎道から合流してくるアレを避けるためだったのよっ! あの御者、交通量の多い街道をあんな速度で飛ばすなんて何考えてるのよっ!」



 メイラの視線の先を辿ると、土煙を上げ猛烈な速度を出して王都への街道を飛ばす荷馬車の姿があった。



 あの田舎道はあたしたちの育った孤児院のあるリスバーン村に続く道だったはず。


 あの荷馬車は村に物資を持ち込んで売ってる行商人だったのかしら?



「あの狭い道をなんでそこまで飛ばしてくるのかしらね? かなり急いでるみたいだけど?」


「合流してくるのが見えたから、こっちがある程度減速してたからいいようなものの、あのままの速度で突っ込んでくるなんて思うわけないでしょ! アル、荷室の様子見てくるからちょっと運転変わって。マリベルちゃん、大丈夫?」



 荷馬車を急停止させたメイラは、相手の馬車にプリプリと怒りながら、あたしに手綱を渡すと荷室で悲鳴を上げたマリベルの様子を見に御者席を離れた。



「う、うん。マリベルちゃんの様子を見てあげて」



 手綱を渡され残されたあたしは、座り直すと駆け去っていく例の荷馬車にチラリ視線を向けた。


 駆け去っていく荷馬車の荷室の幌が風でめくれ、見慣れた白髪の老人の顔がチラリと見えた。



 っ!? あれはヴィーゴよね!? 王都でジャイルの手伝いをしているはずなのになんでこんな場所に!?


 それに奥で拘束されてるのってダントン院長先生とフィーリア先生よね!?



 チラリと見えた荷室内に孤児院でお世話になった先生たちが、外套を着た大きな男二人に挟まれるように拘束されていた姿が見えていた。



 まさか、院長先生たちを人質にして、あたしを捕まえようとか思ってるのかしら?


 その可能性はあると思ってたけど……。


 ジャイルが自分の体面を気にして、そんな強硬手段に出ることは低いと思ってた。


 そこまでして、あたしを捕まえたいということか。



 育ての親である院長先生夫妻を乗せ、駆け去っていく荷馬車を前にして、あたしは見逃すことができず、手にした手綱を動かしていく。



「メイラ、マリベル、わがまま言うけどすぐに荷馬車から降りて!」


「ちょっと、アル何言ってるの!?」


「アルお兄ちゃん?」


「早く、一緒にくると命に関わる荒事に巻き込んじゃうから! ここでお別れよ。さ、早く降りて。今まで一緒についてきてくれてありがとう。あとは、あたしだけで頑張ってみるわ」



 荷室から顔出した二人が首を振る。 



「アルをほっとくとまたメソメソしちゃうでしょ。それにもう私は色んな秘密を知ってて巻き込まれてるの。それをここで放り出す気?」


「メイラお姉ちゃんの言う通り、マリベルも本当ならもう死んでてもおかしくなかったし、アルお兄ちゃんたちに命を助けてもらったから、何でもお手伝いするって決めてるんだからねっ!」



 二人は荷馬車を降りろというあたしの言葉を頑として受け入れる気はない様子だった。



「で、でも今まで以上に危ないし」


「アルきゅんに捨てられるのに比べたら、危険な方がマシだから」



 そう言ったメイラはあたしの手から手綱を取ると御者席に座った。



「それで、アルお兄ちゃんはどうするつもりだったの? もしかして、さっき飛び出してきた荷馬車を追う気だったとか?」



 荷室から顔を出したままのマリベルが、あたしがしようとしていたことを的確に言い当てていた。



「そ、そういうわけじゃ――」


「メイラお姉ちゃん、アルお兄ちゃんがさっきの荷馬車追ってだって!」



 はっ! なんですぐにわかっちゃうの!?


 そんなこと一言も言ってないのに!?



「マリベル、頭いいわね。アルきゅんが急に降りろって言いだすから何かその馬車に乗ってたということかー。よーし、じゃあさっきのお礼をしないとね」


「ちょ、ちょっと二人とも遊びじゃないんだからねっ! あたしをはめたヴィーゴがいたんだし!」


「あー、ジャイルから仕込まれてたスパイ執事。それなら、追うしかないわね。マリベル、しっかりと掴まってね」。




 手にした手綱で馬の尻を叩いたメイラが、ものすごい速度を出して荷馬車を動かしていった

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