116:遁走
人質を取られ手出しができない状況だったが、相手もこちらが反撃の意志を捨てていないと見て無言の時が流れていく。
しばらくにらみ合いが続く中で、ディモルが俺の隣に降りてくちばしで袖を引っ張ってきた。
普段なら、ディモルから俺の服の袖を引くなんてことしないが。
いつもと様子が違うな。
普段見せたことのないディモルの行動に戸惑っていると、脳内に声が響いた。
『あたしよ。あたし。シンツィアよ。今はあたしの親友のディモルの身体借りてるの。竜種の身体は
ちょっと、シンツィア様! 勝手に大事なディモルに変な魔法かけないでくださいよ!
『変な魔法とはなによー。ディモルの意志をちゃんと確認したうえで使役魔法をかけたわよ! 失礼ねー』
いやだけど、ほら
『使役魔法程度の
そうですけども……。ディモルの件はあとでちゃんと説明してもらいますからね。
『あーこれだから動物フェチ君には困るわー。そんなことよりも、あたしの本体がダントンとフィーリアと一緒にアビスウォーカーを引き連れた老人によって攫われてる最中なの。そっちの方が大事件でしょ!』
院長先生夫妻が!? 無事ですよね?
『気絶してるけど無事よ。あたしもゴーレムで防戦したけど孤児院の子を人質に取られて降伏したわ」
孤児院の子たちや避難した村人は無事ですか!?
『ええ、老人の狙いはあたしとダントン、フィーリアだけだったみたい。こっちが素直に捕まったら手出しせずに手際よく建物を離れたわ。子供と村人たちはスザーナに任せてるからきっと大丈夫よ』
それで、シンツィア様たちは今どうなっているんですか?
『ダントン、フィーリアは気絶中、あたしの本体は大半の魔力を封じられてて身動きできず。今は視界だけ共有できてる感じね。縛り上げられて、アビスウォーカーとともに村の出口になるトンネルに向かってる感じかしら』
逃げ出すつもりですかね?
『きっと、そうね。あたしたちを誘拐する目的は分からないけど』
トンネルか……。
チラリと村で唯一の出入り口であるトンネルがある方へ視線を向けた。
まだ、人影はないか……。
『っと、そろそろ仕込んだ魔力も尽きそうね。あたしはたぶん鎧が頑張ってくれるから死にはしないけど冬眠よ――あとは任せた。死んだら化けて出るからねー』
それはちょっと夢見が悪すぎなんで、全力でなんとかしてみます。
袖を咥えていたディモルがいつもの自分に戻ったのか、袖を放して頭を下げていた。
「ディモル、ありがとな」
「フリック様、どうしますか?」
隣にいるディモルの頭を撫でてやっていると、近寄ってきたノエリアがどう行動するかを問いかけてきた。
相手も一体が手負いになったうえ、指示者を攻撃すると怪物たちの動きが鈍る弱点を見つけられてうかつに動けないみたいだし。
指示者を行動不能にするか……。
怪物たちの行動が乱れた隙を突いて移動して、トンネルから離脱しようとする連中から三人を助けるしかないな。
俺は隣に来たノエリアに耳打ちをする。
『悪いが、あの若い男に向けて
ノエリアがコクリと頷くと、魔法の詠唱を始めていた。
「武器を捨てるつもりはないということか。ジェノサイダーどもやれ」
ノエリアが魔法の詠唱を始めたのを見た男は、こちらが降伏する気がないと悟り怪物たちをけしかけてきた。
「地に眠りし硬き石よ、大気と交わり螺旋となりて、我が敵を貫け!
近寄ってくる怪物に向け、
隙を突いて、ノエリアが発動させた
その最中、男の顔を覆っていたマスクが蔦草に絡まり千切れ飛ぶのが見えた。
「マ、マスクがっ! 放せ! くっそ、ジェノサイダーどもわたしの身体を拘束するこの蔦草を引き剥がせ! クソっ! こんなところで死ねるかぁ!」
マスクが千切れた男は、それまで以上に焦った様子を見せ、使役している怪物たちに自らの身体を拘束する蔦草を引き剥がすよう指示を出した。
しめた! 相手はこれでしばらく追ってこないはず。
俺はノエリアを抱き抱えると、そのままその場からトンネルに向けて駆け去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます