64:シンツィアの申し出
革の袋から出たシンツィアは、再びノエリアの肩に止まると、ズレた骨を直していた。
「つまり、シンツィアさんはすでに肉体を失って、あの鎧に魂を繋ぎとめておられるということですか?」
「ええ、まぁ、そうね。死にかけた時、近くにあった人に似た器がアレしかなかったからしょうがないでしょ。仮初の魂を繋ぎとめて動かしたはいいけど、ただの鎧だから目玉がないから視界が無くてね。仕方なしに使い魔を視覚代わりにしてるの」
シンツィアは『あたしなにか変なことしたのかしら』と言いたそうである。
えっと、ガウェインの時も思ったのだが、魔術師の人たちって結構突飛な考えをしてる人がいっぱいいるんだろうか。
ノエリアも魔法に興味を持つと、行動がかなり変になったし。
このシンツィアも死にかけていたとはいえ、鎧に自分の魂を繋ぎとめるなんて突飛な方法で生きることを選択して実行しちゃってるしなぁ。
俺はノエリアとシンツィアの話を隣で聞きながら、魔術師たちの考え方と自分の考えにかなり隔たりがあるのではと思っていた。
「えっと……。肉体が無くても生きてるということは、シンツィア様は不死の存在?」
「不死じゃないわよ。魂を魔力で無理矢理に鎧に繋ぎとめるから、魔力が枯渇すればあたしは死ぬし。普通の魔術師は魔力の枯渇は昏倒で済むけど、あたしはきっと消滅ね。試そうという気はないけど」
シンツィアは魔力が生命力という形に変化しているらしい。
魔力が枯渇して魂を繋ぎとめてる死霊魔法が解除されると存在が消滅してしまうようだ。
「前は魔法を行使してたような気が」
反抗した
シンツィアが使ったのは普通の魔術師なら一発放てば昏倒しておかしくないほどの魔力を消費する魔法であったはず。
しかも、その後、倒した魔物の骨を使役する魔法も発動させていた。
「そりゃあ、フロリーナくらいとは言わないけど人並み以上に魔力はあるからね。それにあの鎧や外套には魔力を吸収しやすくする付与を知り合いに付けてもらったから。回復も早いの。それで魔法も使えるし、あたしの命ももってるのよ」
そう言ったシンツィアの視界役である骨の鳥が、自分の身体である全身鎧に戻っていた。
その鎧や外套をよく見ると、薄っすらと紫の光をまとっているのが見えた。
「魔力吸収ですか……」
その光を見たノエリアが、光の正体を呟いていた。
なるほど、生命維持のため、その身体代わりの鎧や外套を使って周囲から魔力を吸収して枯渇しないようにしてるのか。
けど、そんな説明を聞いたおかげで、シンツィアの存在に対してかなり怪しさが倍増した気がするのは気のせいだろうか。
怪しい光を放つ、中身のない鎧を目の前にして、ため息が出そうになるのをグッと堪えていた。
「ええ、ちなみにノエリアもフリックはいっぱい魔力がありそうね。近くに居ると元気が漲ってくる感じ。フリックは剣士みたいだし、あたしを着てみる? 全身鎧だけど、意外と軽いわよ。それに堅いし、勝手に魔法も使うし。最近、魔力を維持するのが面倒でね。それにさっき見た通り勝手に頭が落ちるし、だから美骨探しを手伝ってくれるいい宿主探してもいるのよねぇ」
半ば呆れながら話を聞いていた俺に対し、シンツィアが宿主として自分を装備しろと言い出していた。
正直、怪しい存在すぎて、あの鎧を装備する気にはなれない。
それに俺は軽装鎧派なので、動きを阻害する全身鎧は今まで一度も着たことがなかったのだ。
なので、シンツィアの提案は丁重にお断りすることにした。
「ええ!? いや、それはちょっと……。俺はもうこいつがいるし」
【マスターの魔力はディーレが使ってますから!】
ディーレをシンツィアに向けると、ディーレは自分の魔石を強く明滅させていた。
「いいじゃん、けちー。その喋る魔剣のお嬢ちゃんが使うくらいでフリックの魔力は枯渇しないでしょ。無駄に多い魔力は周囲に還元するべきよ!」
怒ってる感じのディーレの様子を見た、シンツィアは骨の鳥を飛ばして俺の肩に止まってきた。
たしかに俺の魔力は多いらしいし、シンツィアは魔力が命と同じだから、欲しいのは分かるけども。
着るのはないわー。
ただでさえ、ディーレの剣のフォルムで色々と物議を醸しだしてるのに、シンツィアの鎧まで着たら、絶対に呪われてるとかの噂が立ってしまう気がするぞ。
「
一方、シンツィアの魔法に興味を示したノエリアが、鎧を近くから観察して色々と手帳に書き留めていた。
死霊魔法の効果に興味がわいているらしいが、あまり触れて良い魔法でもないような気もする。
「元々、あたしは物体に仮初の魂を与えて使役する魔法を研究してたんだけどね。それを人体に反転応用したのが、死霊魔法ってことかしらね」
「使役魔法ですか……。ゴーレムを創り出したりしたり、使い魔を操ったりする魔法でしたね。派生して創り出されたのが死霊魔法という形ですか」
「死霊魔法を使えるからって別に人様に悪さをするつもりはないわよ。あたしは、美骨で構成した骨格を手に入れて肉を盛りつけた身体さえ手に入れば満足だもの」
魔法の説明をしながらもシンツィアは、自分の肉体の受け皿になる骨が欲しいと言っていた。
悪い人ではなさそうだけど、行動や発言が危ないんだよなぁ。
俺の肩から飛び立った骨の鳥をチラリと見ながら、俺はどうするべきか迷っていた。
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