04:出来損ないの俺にあった隠れた才能


「はーっくしょい! さっぱりしてちょっと首元がさぶいな。あー、あった、あった。さっきの女の人が教えてくれたとおりだ。辺境だからもっとこじんまりしてるかと思ったけど意外と大きい」



 床屋でさっぱりすると、この辺境都市ユグハノーツで生活の糧を得るため冒険者ギルドに来ていた。


 初めての街だったでどこにあるか分からなかったが、通りを歩いていた女性に場所を聞くと親切に近くまで連れてきてくれていた。



 さてと、この白金冒険者徽章はもう使わないから捨てるか。これからは駆け出し冒険者フリックとしてゼロからの出直しだ。


 しばらくは受けられない依頼が多いから稼げないかもしれないけど、これまでの経験を総動員して白金まで一気に上がれるよう依頼をこなしていくとするか。


 よし、行こう。



 俺は手の中にあったフィーンとしてアルフィーネとともに積んだ実績で手に入れた白金等級を示す小さなバッジをゴミ箱に捨てると、冒険者ギルドのドアを開け中に入っていった。



 冒険者ギルドの中は、酒と簡単な軽食がとれる酒場兼待合室と依頼を受ける受付窓口が設置されており、王都で俺たちが使っていた冒険者ギルドと同じ作りをしていた。


 俺は迷わずに新規冒険者登録受付窓口へ向かう。



「いらっしゃいませ。冒険者の新規登録の方ですか? 今なら待ち時間なしでご対応できますよ」



 お揃いの青い冒険者ギルド制服を着た若い受付嬢が応対をしてくれた。


 王都では対応が悪いと評判の冒険者ギルドの受付嬢だが、辺境のユグハノーツではどうやら違うらしい。



「ありがとうございます。冒険者登録お願いできますか」


「承知しました。そちらの席にお座りください。すぐに書類を準備いたします」



 受付嬢が勧めた椅子に腰を掛けると、準備をする彼女を尻目に俺はギルド内を見回していた。


 昼過ぎの冒険ギルドの中では、待合室で酒を飲んでいる者や窓口で受付嬢と世間話を喋っている者などしかいなかった。



 辺境は強い魔物がうろついているって聞いてたから、もっといかつい人たちがいっぱいいるかと思ったんだけどな。


 今いる人たちは、王都の冒険者たちよりも弱そうな人ばっかだ。


 昼も過ぎてるからみんな依頼を受けて外に出ちゃってるのか。



 王都であれば昼を過ぎてても冒険者の依頼受注で窓口はいつも混んでいたし、待合室も常に人で溢れていた。



「お待たせしました。書類の準備ができましたのでご説明をさせてもらいますね」



 何年も前だけど同じ説明は受けているので、ふんふんと聞き流し、登録に必要なことを書類に書いていく。


 年齢は弄らず、名前と出生地は変え、鉄等級の新米冒険者フリックとして登録をすることができていた。



「フリック様、本日よりこのユグハノーツ冒険者ギルド所属の鉄等級の冒険者として登録を完了いたしました。こちらの徽章は見える場所に身に着けてくださいね」



 冒険者ギルドは成人して犯罪歴さえなければ、身分の貴賤を問わず誰でも登録できる。


 冒険者の格を示す徽章バッジは鉄から始まり、青銅、銀、金、白金と五つの等級に分けられ、冒険者が受ける依頼には能力不足による未達成を防ぐため、冒険者ギルド側が設定した等級制限がかけられてもいた。



 そして、徽章の意匠は冒険者ギルドの街がある場所によって違っていた。


 王都は鷲が羽ばたく形をしていたが、このユグハノーツはドラゴンが炎を吐いている意匠だった。



 俺は受付嬢から徽章をもらうと襟元に差して留めた。



「これで大丈夫かい?」


「はい、大丈夫です。フリック様、なにかお困りのことがありましたら、私にでもお気軽にご相談ください。冒険者ギルドが空いてる時間はここに居ますので」



 名札をチラリと見ると『レベッカ』と書いてあった。


 王都の受付嬢たちと違い、とても親切な子なので、困ったら色々と相談してみるとするか。



「あ! そうだ! フリック様、今ユグハノーツの冒険者ギルドでは新規登録者の方へ魔力測定の無料チェックを推奨してるんですがやってみませんか?」



 登録作業を終えたレベッカが、ずいっと俺の前に魔力を計測する水晶玉を出してきた。


 冒険者になる前から剣術に天賦の才を見せていたアルフィーネによって、魔法は邪道だからと今まで一度も魔法適性は測定してなかった。



 魔法かー、試してみるのもいいかな。


 適性がなくても剣でなんとかなるだろうし、適性があるなら魔法も使ってみたいしな。



「ん? タダならチェックしようかな。これに触れればいいの?」


「はい、手を触れて頂ければ、潜在魔力量によって色が変化しますので」



 アルフィーネに邪道だと止められていた魔法への興味が湧いた俺は、レベッカの勧めに従い水晶玉に手を触れた。



 パキンッ!



 触れた途端、一瞬強く光って水晶玉が割れた。


 壊してしまったかと思い、レベッカの顔をチラリとうかがう。


 彼女は目が点になって固まっていた。



「えっと、これ弁償とかしないといけない?」


「ひゃあ!? あ、いえ、ちょっと壊れてたみたいですね。新しいの出しますから……お、お待ちください」



 レベッカが窓口の下に隠れゴソゴソとしたかと思うと、別の水晶玉を出してきた。


 彼女が自分で触れ、水晶玉が淡い緑に染まったのを正常に動作しているのを確認していた。



「さ、さぁ、こちらで測定どうぞ。こちらは新品の水晶玉――」



 先ほどと同じように水晶玉に触れると、同じように一瞬強く光り割れた。



「なんか、ごめん。また壊しちゃったみたいだ」


「ま、まさか……この水晶玉を割ったのは『無限の魔術師』と言われてるノエリア・エネストローサ様だけ……ですよ。まさか、フリック様も彼女と同じくらいの魔力量が……」



 一連の騒ぎは、窓口のいたほかの受付嬢や冒険者たちにも知られたようで、野次馬が続々と集まってきていた。



 まさか、剣の才能も中途半端な俺にそんな大それた魔力があるわけないじゃないか……。


 きっと何かの手違いだろ。



「そんなわけないでしょ。二つとも不良品だったんですよ。いやー、びっくりした」


「ちょ、ちょっとお待ちください。すぐにギルドマスターに掛け合って精密な測定をしてもらいますから」


「あ、いや。魔力があることだけは分かったし、それに俺はこっちで食おうと思ってるからね。大事にしないでくれるとありがたい」



 慌てるレベッカに、俺はこの街に来て最初に買った安物の剣を見せていた。


 アルフィーネの剣才にはとうてい及ばないけども、少なくとも白金等級で受けた魔物討伐の依頼をこなす腕はあるのでなんとかなるはずだった。


 そう言って俺は受付から立ち去ろうとした―――



「そこの御方、少しお待ちになってくださいませんか?」



 受付から立ち上がった俺に誰かが声をかけてきた。

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