07:魔物討伐してたら視線が消えた
討伐依頼を受けた俺はマッドゴーレムとフォレストスパイダー、それにマンイーターがいそうなポイントに到着していた。
一週間、ユグハノーツ近郊の討伐依頼を受け続けたことで、周辺の地図はだいたい頭の中に入ってきている。
マッドゴーレムの湧く沼地も近く、フォレストスパイダーが巣を作るのに適した木々も適度に生え、マンイーターが自生しやすそうな日当たりのいい場所もある絶好のポイントだった。
依頼を受けた魔物たちは鉄等級では強敵に分類される物たちだが、コツさえ掴めば倒すのに苦戦する相手ではない。
ガサガサ――
到着して早々、背後の草むらが揺れていた。
魔物か!? って、なんだノエリアか……紛らわしいやつだな……。
草むらを揺らしたのは、俺の監視を続けているノエリアであった。
ちょっとだけ悪戯心が湧いて、森に侵入した時点で駆けだし、そのまま彼女をまいていた。
そのノエリアが使い魔などを使って、俺を見つけて追いついてきたようだ。
ふぅー、追跡をまくのは失敗か……。
今日も彼女の熱視線に見守られての魔物討伐となりそうだな。
俺は落胆した気持ちのまま、まずはマッドゴーレムの湧きそうな沼地へ足を向けた。
沼地に着くと、すぐにマッドゴーレムたちのお出迎えがあった。
沼地に堆積した
俺は安物の剣を抜くと、こちらに向かってくるマッドゴーレムたちの群れから外れたやつに狙いを定め動き出す。
剣聖となったアルフィーネの付属物だった俺だが、並みの剣士よりは剣を扱えると思えるまで自尊心は回復していた。
集団から外れたマッドゴーレムに駆け寄ると、首と胴体のつけねを一閃して斬り飛ばした。
頭が切り離されない限り、マッドゴーレムは永遠に身体を復活させてくる。
それを防ぐには頭と身体を切り離すしかない。
俺は動きを止めず、走りまわると集団から外れ孤立したマッドゴーレムを急襲し数を減らしていった。
そして、最後の一体の胴体と首が離れ、マッドゴーレムの討伐は問題なく完了する。
一八、一九、二〇体ちょうどか……依頼は五体分だったからちょっと倒し過ぎかもしれない。
真面目に討伐数を報告したらレベッカにまた怪しまれるだろうか。
ソロで鉄等級の新米冒険者がマッドゴーレムを狩ったにしては少し数が多かった。
俺は討伐の証であり、買い取り品となる泥人形の頭を五個だけ回収しておいた。
冒険者の等級は早く上げたいが、レベッカに怪しまれて身バレしては辺境で出直す意味がなくなるのだ。
「ノエリア、見てるならこれは黙っておいてくれると助かる」
背後で俺の戦いを覗いていたノエリアに向け、独り言のように口止めを依頼した。
もちろん返事はない。
だが、視線は背中に向けられているので、了承してくれたと思っておこう。
俺は泥人形の頭を
森に戻ると、木々の密集した場所をくまなく探し、フォレストスパイダーの巣を見つけた。
強靭で粘着性の高い糸で木々の間に大きな巣を作り、鳥や大型動物、そして人間を強力な顎で捕食するクモの魔物だ。
巣を形成する糸に触れ動きを阻害されると、熟練の冒険者でも危険な魔物だった。
とはいえ、巣を張っている木を切り倒してやれば巣は効果を失う。
動きを阻害する巣がなくなれば、タダのデカいクモなのだ。
巣を形成する糸に振動を与えないよう、連続居合斬りで木の幹を分断する。
そして、木を少し押すと一斉に倒れ始めた。
急に地上に放り出されたフォレストスパイダーは、何が起きたか理解する前に俺の剣によって眉間を貫かれ絶命していた。
まだ、ビクビクしているフォレストスパイダーから討伐の証である森林クモの脚をもぎ取ると、
ふと、気が付くと常に俺の背中に向けられていたノエリアの視線を感じられなくなっていた。
さっきまで視線が来ていた方を見ると、ガサガサと草むらが揺れている。
ノエリアの真っ白な肌をした足が草むらからチラリと見えたかと思うと、なにかに引きずられるように消えていった。
「お、おい! ノエリア! どうした?」
だが、返事はなかった。
彼女が引き摺られていった先は日当たりのいい場所に通じていたはずだ。
まさか、マンイーター!?
俺は嫌な予感にとらわれ、すぐさまノエリアが引き摺られていったと思われる方へ駆けだした。
森を抜け、日当たりのいい開けた場所に出ると、ノエリアがマンイーターのつたに絡めとられて捕まっていた。
本人も一生懸命に抵抗しているようだが、肝心の魔法を発動させるための杖はなく、口もマンイーターのつたで封じられているのが見えた。
「ノエリアっ! すぐに助ける」
「!? んーー!」
ノエリアが俺の姿を見て何か言いたそうにしている。
視線を追うと、地面が盛り上がり俺の背後から新たなマンイーターが現れた。
勢いよく飛び出してきたつたが俺を絡めとろうと迫るが、剣で薙ぎ払う。
返す刀で花の部分を真っ二つに斬り分けてやった。
だが、さらに新手が地面から一斉に出てきた。
「んーー!?」
一方、囚われているノエリアは、マンイーターのつたが出す捕食に邪魔な物を溶かす溶解液によって服が溶けだし始め、危機的な状況がいっそう深刻化していた。
「ノエリア、すぐ行く! 少しだけ我慢してくれ」
一刻の猶予もないと判断した俺は、新手と戦闘するのを諦め、ノエリアを捕らえているマンイーターに向かい一直線に駆けだした。
そんな俺の背中へ、新手のマンイーターたちが種子を一斉に撃ちだしてきた。
俺は種子が背中に当たる痛みを耐え、ノエリアを拘束しているマンイーターに一気に近づくとつたを斬り飛ばし、彼女の拘束を解いてやった。
「ぷ、ぷはっ。あ、ありがとう……ございます……。あ、あ、あの」
「今はちょっと余裕ないから、とりあえず俺に抱きついてて。あいつらの縄張りからいったん離れる」
反発されるか逃げ出されるかと思ったノエリアだが、俺の指示に大人しく従い、お姫様抱っこをすると首に手を回して抱きついてきた。
「は、はい……でも、わたくしが魔法で燃やせますから」
「そ、そうか。じゃあ、頼めるかい?」
「は、はい。すぐに退治します」
抱きついたノエリアが、種子を飛ばしてくるマンイーターへ向け魔法の詠唱を始める。
「燃えたる槍で我が敵を貫け、
初めて彼女に会った時のように抑揚のない声で詠唱を終えると、撃ちだされた特大の炎の槍がマンイーターたちを貫き焼き尽くしていた。
「すげえ……やっぱ魔法って便利だよな」
ノエリアの発動させた魔法で焼け焦げた場所を見て、俺はあらためて魔法の威力のすごさを感じていた。
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