sideアルフィーネ:王国の重大事
自分の知っている情報を言うべきか迷っていたが、やはり黙っているのはマズいと感じ、隣にいるメイラに視線で話を合わせてくれるように頼んだ。
メイラは少しびっくりした顔をしていたが、あたしの意図に合点がいったのか無言で頷いてくれていた。
「辺境伯様……実はご報告したいことが一つだけありまして……できれば、お人払いをしていただけると助かるのですが……」
「アルか? わしに報告したいことだと? アーノルドにもしてない報告か?」
辺境伯ロイドの問いかけに無言で頷く。
「その顔と人払い……重要な報告と考えるべきだな。よかろう、護衛の者は崩落区画から出よ。ここにはアルとメイラとわしと……あと、マイスも残す。それでよいな?」
あたしのただならぬ様子を察したのか、彼は表情を引き締めると彼の片腕であるマイスのみを残し護衛の騎士たちを部屋から退去させた。
「ありがとうございます。本来ならもっと早くご報告するべきでしたが、報告をすればボクに罰が及ぶと思い出来ずにいました。ですが、この事態を見て黙っておくべきではないと判断しました」
「……情報を明かせばアルに罰が及ぶか。内容次第ではそうなるやもしれぬが、最大限配慮はしてやるつもりだ」
「ご配慮ありがとうございます。では、ご報告を……実は、ボクは王都においてアビスウォーカーかもしれない者と戦ったことがありまして……」
あたしの報告を聞いたみんなの顔が一斉に固まっていた。
やっぱりそういう反応になるわよね。
王国の一番安全な場所と言われている王都でアビスウォーカーと戦ったとか言われたら。
あたしも自分が戦ってなかったら狂人の戯言だとしか思えないし。
「アル殿、いったい何を言っておるのだ? 王都にアビスウォーカーなどいるわけが――」
「では、黒い鱗肌を持っていて、緑の血を流す人型の生物が他にいるということでしょうか? ボクはこれまで色々な魔物のことを調べてきましたが、そんな魔物がいるとは聞いたことがないもので……」
顔を確認できていれば、アレが魔物だったのか、それともアビスウォーカーなのか判別できただろうけど。
戦うので必死だったし、生憎と顔の全面を覆う形の兜を被ってたしなぁ。
だから確信があるかと言われるとまだ迷うけど、仮にも剣聖と言われた自分の全力の剣を受け止めた能力は、並みの剣士ではあり得ない腕前だったし。
「黒い鱗肌……緑の血……だと……本当かそれは」
「はい、ボクが戦って確認してます」
「それは王都のどこだ?」
辺境伯ロイドの顔が一層険しさを増していた。
これであたしが嘘だと言おうものなら、即座に剣が首筋を襲いかねないほどの気迫がこもった声音であった。
「それは……」
「「それは?」」
マイスと辺境伯ロイドの声が被っていた。
早く結論を言えと急かさる圧力があたしに向けられる。
その圧力から脱するようにあたしは口を開いた。
「こ、近衛騎士団長ジャイル様の別宅です! ボクがそこで二体のアビスウォーカーらしき生物と戦闘をいたしました」
あたしの口から出た名前にロイドとマイスの表情が固まった。
二人は、王国の大貴族の嫡子であり、王の側近でもある近衛騎士団長ジャイルの名が出てくるとは予想もしてなかったようだ。
「なん……だと……それは本当か」
「まさか……」
「偽りは申しておりません」
近衛騎士団長と繋がりがあると知ると、二人の目にあたしが何者なのかを探る色が浮かぶのが見えた。
その気配を察したメイラがあたしの間に立ち、事情の説明をし始めていた。
「あ、あの! アルと私とは血が繋がっていない姉弟でして、アルは本当は王都のとある貴族の私生児なのです。認知はされておりませんが…。ですが、どこからかアルの素性が知られたらしく、ラドクリフ家のジャイル様が小姓に欲しいとのお話が舞い込みまして屋敷にお勤めしていたのですが……。その一件で追われておりまして、辺境に身を隠そうという話になりこの地に参りました」
あたしが知らない話をメイラが勝手に筋立てて話していく。
王都のジャイルの別宅から飛び出してきて、彼から追われてることは知っていたので、それを巧妙に使ってあたしが剣聖アルフィーネと思われないように話を創ってくれていた。
そんなメイラの弁明を聞いていた二人の目からあたしの素性を探る色が消えて行くのが見えた。
「そのようなことがあったのか……。アルの素性は承知した。こちらも素性については詮索はせぬ。が、しかしアビスウォーカーの件についてはしっかりと話を聞かせてもらうぞ」
「はい、承知しました」
「ロイド様……これは重大事かもしれませんぞ。もし、アビスウォーカー暗躍に近衛騎士団長が関与していたら……」
「マイス、軽々しくそのようなことを口にするな。証拠を固めねばこちらも手を出せぬ。まずはアルからの情報を吟味するのが先だ。だが、まずはこの部屋にある遺体を丁重に弔うため地上に引き上げさせよう」
辺境伯ロイドはそこで話を打ち切ると、外にいた騎士たちを呼び集め、遺体の収容を始めるように指示を出していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます