76:謎の集団
なんとか村人たちの誤解を解いた俺たちは、村長を務めるユージンの家を一夜の宿として提供してもらっていた。
「本当に申し訳なかった。ワシらはフリック殿たちが人狩り連中だと勘違いしていたのだ。すっかり寂れたこの地は滅多に行商人もこないし、冒険者も顔を見せることは少ないのでな。そんな時に荷馬車が来たので人狩りだと思うてしもうた」
「たしかに人は来なさそうな場所ですけど……。それに鉱山の労働者とか言ってた気が」
デボン村のある地はインバハネスから、南に通常の速度の馬車で三日ほどは下った場所なので、辺境のそのまた僻地にある村だ。
かつて傷の少ない綺麗な水晶の掘れるラハマン鉱山があったおかげで街道が整備されていたが、大襲来の際、中に立て籠もったアビスウォーカーごと爆破され廃鉱となったと聞いている。
「その鉱山というとラハマン鉱山ですよね? あそこはもう廃鉱になっているとインバハネスの冒険者ギルドで聞いているのですが?」
「いや、それが……」
ラハマン鉱山のことを聞くと、ユージンの顔が急に曇り始めた。
「十数年ほど前に爆破されて廃鉱となっていたラハマン鉱山ですが、そこへ何者かが入り込み再建をし始めていたようでして……。我々がそれに気付いた時には堅固な要塞みたいなものになっていたのです」
「要塞ですか? 冒険者ギルドからはそんな話を聞いてないですが……」
インバハネスのギルドマスターギディオンからもらった情報には、廃鉱だと書かれているし。
どうなっているんだ?
ガセの情報を掴まされてるのか?
ユージンからもたらされた新たな情報に困惑していると、こちらの表情を見た彼が補足するように言葉を続けた。
「冒険者ギルドの情報は正しいですぞ。というか、旧鉱山の入り口は未だに崩れたままなのですが、そこから山の奥に入った先に新たに掘られている新坑道の周囲が要塞化しているのです」
「新しい坑道!?」
「ええ、ですからワシらも発見するのが遅れた次第。見つけたのがだいたい五年くらい前でしたな。でも、発見当初はそこに居着いた連中に食糧などを売ったりして仲良くやってたんですぞ。それに鉱夫としてこの周辺の村の若い男たちは出稼ぎにも行っていたので」
「出稼ぎですか? 人狩りされたわけでもなく?」
「ええ、鉱山に居着いてる連中は王国の貨幣を持ってますし、働く場がないワシら辺境民からしてみるとありがたい連中だったんじゃが――」
ユージンが曇らせていた顔をより一層曇らせ、言いにくそうにこちらを見ていた。
「何か問題が発生したと」
「まぁ、そうです。ご領主様がらみになってしまうので言いにくいのですが、フリック殿であれば喋っても他に漏らすことはありますまい」
「剣に誓って、このことは他言しません」
俺はディーレをユージンの前に掲げると、これから彼が喋る内容を他言しないことを誓っていた。
「ありがとうございます。ワシらが鉱山での労働を拒否したのは、出稼ぎで鉱山に行っていた村の若い者が次々と行方不明になる事件が続いたからなのです。この村だけでも十数人、他の村も合わせれば二〇〇人近い者が鉱山から戻ってきていないのです」
二〇〇名の失踪者を出してるなんて情報はなかったが……。
本当にラハマン鉱山で何が起きてるんだろうか。
「二〇〇名近くの行方がしれないと?」
「ええ、もちろん無事に村に戻ってきてる者もいるのですが……。消える者が多くて。調べてるとどうも消えた者は鉱山に居着く連中から『もっと稼げる仕事をしないか』と持ち掛けられていたそうで」
「もっと稼げる仕事? 鉱山の仕事ではないということでしょうか?」
「それも分からぬのです。その話に乗った者が帰って来ぬので」
鉱山で働いている周辺の村の者を雇って、別の仕事をさせていると見るべきか。
「戻って来なくなる人が増えたのはいつくらいです?」
「戻らぬ者が急に増えたのがここ数ヵ月くらいなので、以来周辺の村と話し合い、村の者の鉱山への出稼ぎを禁じていたのですが……」
数か月前……。
ユージンの話だと鉱山の連中は十数年前には定住してて、五年ほど前から交流があったとのことだが。
この数ヵ月で何かが起きて態度が変化したらしいということか。
それにしても鉱山を自力で再建し、要塞化してしまえる資金力はどこから出てるのだろうか。
水晶はそれなりに高価な鉱物だけど、それだけのために投じるお金の額じゃおさまらないような気もする。
「その居着いてる連中は何者なのです?」
「さぁ、ワシらもそれは分かりかねるのですよ。鉱山に出稼ぎに行った者に聞くと連中は訛りのきつい言葉を使うようで、世間話にはほとんど応じないそうでして」
謎の集団が占拠してるということか。
アビスウォーカーの足跡を調べようとした矢先、とんでもないものにぶち当たったような気がする。
「その連中が今度は人狩りを始めたと?」
「ええ、鉱山の連中がインバハネスの自警団崩れの連中を雇って人狩りを始めました。村に押しかけ、人夫を出さないと暴れ回り強制的に連れて行くというのがここ最近何度も起きてまして、その人狩り連中とフリック殿を勘違いしたという次第です」
「自警団崩れが人狩りをしてるのですか?」
「はい、被害に遭った村の者が昔自警団にいたそうで、人狩りの連中の中に自警団の制服を着てた者がいたそうで……。栄えある自警団に属していながら人狩りなど、獣人の面汚しめ!」
ユージンは憎しみに顔をゆがめ人狩りをしていた自警団員を罵ると、床に拳を打ち付けていた。
この状況を冒険者ギルドは把握してなかったということか。
ギディオンも総会でアビスウォーカーの件を議題にしょうとして黙殺しろと代官から圧力を受けたと言っていたし。
何かきな臭さも感じる状況だな。
「フリック様……。これは、ちょっと気軽にこの地で情報収集というわけにはいかないような気もします」
話を聞いていたノエリアが事態の深刻さを察しているようで、表情を引き締めてこちらを見ていた。
でも、このまま放置ってわけにもいかないよな。
アビスウォーカーの件も調べたいけど、村の状況を聞くと助けてあげたいとも思うし。
人狩りしてる連中を捕まえてみて情報をもう少し集めてみるのも悪くないか。
「とりあえず、その人狩り連中を捕まえて情報を集めてみるか。それからラハマン鉱山に行っても遅くないだろうし」
「はぁ!? フリック様が人狩り連中を捕まえてくれると?」
「ああ、ユージン殿も物騒な連中が村の周辺から消えてくれた方がいいだろ? 捕まえてこちらが情報を引き出したら犯罪者としてインバハネスの街の冒険者ギルドに送ればいい。ノエリア、悪いけどギディオンに託す書簡を書いてくれると助かる」
「え? あ、はい。承知しました――って、捕まえるんですか!?」
「困った時はお互い様だろ。ユージン殿や村の人たちが困ってそうだし、それに俺たちはラハマン鉱山について色々と情報が欲しいところだしね」
「ま、まぁそうですが――」
俺は一旦ラハマン鉱山に行くことをやめ、この周辺で村々を襲っているという人狩り連中を捕まえることにした。
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