外伝 序章 剣聖アルフィーネの日記

※外伝はアルフィーネ視点でのお話となります。


幼少期、少年期、冒険者時代、剣聖就任から絶縁までのお話なる予定(未定)


アルフィーネが主人公になるため、アルフィーネ絶対許さない派の方は読むことはお勧めしません。WEB版でしかも外伝のなのでオマケのオマケのみたいな話です。本編とリンクするかと言われれば書籍化しない限り、リンクしない独立の話です。


ヒロインと正妻はノエリア派の方は書籍版を追ってもらうと、彼女が正妻とヒロインポジションをしっかりとこなしてくれるよう改稿改編してあります。


注意点が長くなりましたが、それでも読みますという方はお楽しみください。






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 孤児院を出て、一介の冒険者として駆け出しから始め、実力を高め、王都の民が常にその存在を恐れていた魔竜ゲイブリグスを討伐し、陛下臨席の御前試合で並みいる剣士たちを叩き伏せ、ハートフォード王国第三代剣聖に就任し、貴族の地位を与えられることとなった。


 近衛騎士団長を務めるラドクリフ家の嫡男ジャイルによって、近衛騎士団の剣術指南役も与えられ、冒険者時代とは生活が激変している。


 剣聖や貴族としての責務と、剣術指南役としての責務もあり、このところバタバタと忙しい日々が続いていた。

 そんな日々の中、久しぶりにまとまった休みがとれ、ずっと一緒に生活してきているフィーンには、一切内緒にしてる日記帳の整理をしながら、過去の日記調の内容を読み返していた。


 あたしの中にある一番古い記憶は、三歳になった時、孤児院で一緒だった子に言われた言葉だ。


 名前も顔もよく思い出せないけど、彼女が言った言葉だけは、今も夢の中で別の生物を見るような蔑んだ目と声だけが再生される。


『アルフィーネちゃんって、黒目黒髪だし、きっと大昔に王族だった人の血を継いでるんだね。村の人たちが総噂してたよ。フィーン君やアルフィーネちゃんは「私たちとは違うんだ」って』


 それが、あたしの中に残る最古の記憶であり、一番古い日記帳の一番最初のページに書かれた言葉だ。


 彼女の無邪気な一言で、自分とフィーンはどこか村の人たちや孤児院の子たちとも違うのではという、漠然とした不安感があたしの心に植え付けられた。


 その一言を聞いてから、あたしは不安感から常に周囲の人からの視線に怯え、人の眼を見て喋ることができなくなった気がする。


 おかげでずっと一緒に育ってきたフィーン以外に、心を許せる友達と呼べる存在は片手もいない。


 ダントン院長、フィーリア先生、鍛冶師のニコライ、あとは今はちょっと疎遠になっちゃってるけど、冒険者のソフィーくらいしか、心と顔に鎧を着こまずに喋れない。


 他の人と喋っていると、どうしても夢の中に出る別生物を見るような蔑んだ目と、孤児院の子が放った一言が脳裏をかすめ、緊張を強いられてしまう。


 フィーンからは貴族との席上では、言動には細心の注意を払ってくれと言われているが、人の眼に晒される不安感が不快感に変わっていくため、どうしても言葉がきついものになってしまうのを止められないでいる。


 そのことで、貴族になったあたしとフィーンは諍いになることも多くなってきてもいたが、同じ黒目黒髪で長年一緒に暮らしてきた彼には、あたしがずっと抱き続けてきた不安感をいつか共有してもらえるはずだと思っている。


 フィーンが近くにいてくれなかったらと思うと、今の剣聖アルフィーネとしてのあたしは存在してなくて、すでに不安感で気が狂って死んでいていてもおかしくなかったと思う。


 だから、彼にはずっとそばにいてもらって、あたしが抱える不安感を少しでも和らげて欲しい。


 自分勝手な願いだと思うけど、フィーンもきっと分かってくれるはずだ。


 その代わりといってはなんだけど、彼の生活も全てあたしが面倒みられるくらいの財産は貴族になったことで築けた。


 まだ冒険者稼業を続けているフィーンだけど、そろそろ引退してもらい剣聖アルフィーネの補佐役として、公的な地位に就けてもらえるように働きかけないと。


 あたしは読んでいた一番古い日記帳を閉じると、仕掛けを弄り屋敷の自室に作った隠し書棚の奥にしまい、最近書いた日記帳の整理を再開することにした。

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