60:空中戦


「クェエエ!!」



 ディモルが羽ばたき、小雲鯨スモールクラウドホエールの上に出る。


 視線の下には攻撃色を示す黒く染まった雲をまとった小雲鯨スモールクラウドホエールが、その体躯から毒や痺れる成分を含んだ煙を垂れ流し始めた。



「ディモル、あの煙は吸うなよ。ダメージを受けるし、最悪痺れちまうからな」


「クェエエ!」



 ディモルは俺の言ったことを理解したようで、小雲鯨スモールクラウドホエールから一定の距離を取って飛んでいた。



 さてと、あの煙をまずはどうにかしないと。


 ノエリアがケルベロス戦で風魔法を使って毒霧を飛ばしてた方法を真似してみるか。



「ディーレ、突風ゲールウィンドであの煙を飛ばしてくれるか?」


【了解です! ■▲〇※■▲〇※!】



 ディーレが突風ゲールウィンドを発動させた風が小雲鯨スモールクラウドホエールの発生させた煙を吹き飛ばしていく。


 だが、圧倒的な煙の量に対し、吹き飛ばせる量は微々たるものであった。



 さすがにあれだけの量は、突風ゲールウィンドだけじゃ吹き飛ばせないか……。



 煙を吹き飛ばされた小雲鯨スモールクラウドホエールは、その大きな身体を俊敏に動かし、浮上してくると俺の乗っているディモルに対して尻尾を振り上げてきた。



「クェエエっ!」



 小雲鯨スモールクラウドホエールの尻尾がディモルの身体を掠める前に、ギリギリで回避を成功させた。


 デカい図体の割に素早い動きを見せた小雲鯨スモールクラウドホエールは、さらに追い打ちをかけるように頭頂部にある穴から大量の黒い煙を噴き上げ、俺たちの視界を奪っていた。



 視界を覆った煙には、身体から出ていたのと同じように毒と痺れの成分が混じっていた。


 俺はすぐさま覆った煙を吹き飛ばすための魔法を詠唱する。



「ディモル、ちょっとだけ空気が震えるからしっかり飛んでくれよ」


「クェエエ!」



 視界を奪われて、毒や痺れの成分の混じった煙を吸っても取り乱さずに落ち着いて飛んでいるディモルに魔法を放つことを一言伝えると、元気よく返事をしてくれた。



「漂う大気よ。凝縮し我が示す先で解放せよ! 大気爆発エアリアルブロークン



 詠唱を終えると、剣先で示した先の空間が揺らぎ始める。


 一定範囲内の空気を圧縮し終えると、爆発的な勢いで解き放っていた。



 奔流のように溢れ出した空気が、周囲を覆っていた黒い煙を吹き飛ばしていく。


 さすがに突風ゲールウィンドよりも範囲も効果も高い魔法なので、周囲の煙は一気に晴れた。



「クェエエ!」


【わわわ! 揺れてる! ディモルちゃん、頑張って!】


「すまん、ちょっと範囲がデカすぎたな」



 溢れ出した風にあおられて、ディモルが激しく上下に揺れて風を捉まえるのに苦労していた。


 だが、周囲を覆っていた煙を排除できたことで、視界は明瞭になっていた。



「けど、もう一発行くぞ。俺が魔法を放ったら急速離脱してくれ」


「クェエエ!」


【ディーレも突風ゲールウィンドを撃ちます】



 何も言わずに意図を察してくれたディーレが、すぐにサポートに入ってくれる。



「任せる。漂う大気よ。凝縮し我が示す先で解放せよ! 大気爆発エアリアルブロークン



 詠唱を終えるまでにディモルがある程度距離を取ってくれたので、今度は小雲鯨スモールクラウドホエールの本体に向けて大気爆発エアリアルブロークンを解き放つ。


 ディーレの突風ゲールウィンドも加わり、圧倒的な暴風が小雲鯨スモールクラウドホエールの身体である雲をバラバラに引き裂いていくのが見えた。



【効いてます。裂けた場所から白い煙がドンドン漏れてます!】



 身体の一部を暴風によって引き裂かれた小雲鯨スモールクラウドホエールは怒りを見せて、尾ひれや胸ひれを使い器用に俺たちをはたき落そうとしてきていた。


 ひれがディモルの近くを通るたび、ものすごい風切り音が聞こえる。



 一発でも当たれば、ディモルでも気絶するくらい威力がありそうだ。



 雲鯨は高密度の雲をまとった生物で、本当の本体はそう大きくない。


 だが、構成しているのが雲であるとはいえ、高密度なので当たれば重い鈍器で殴られた以上のダメージを負うのだ。



 地上から戦っている時も弓や魔法を撃つ後衛の冒険者に向かって上空から体当たりしてくる厄介な相手だが、空中戦でもやはり厄介な相手であった。



「油断するなよ。毒と痺れの煙を吹き飛ばしたから、接近して仕留める」


「クェエエ!」


【了解ですっ! ご飯の時間!】



 ディモルが小雲鯨スモールクラウドホエールの繰り出す攻撃をかいくぐり、背中の見える場所へ出た瞬間――


 俺はその背中に向けて飛び降りていった。



「よし、着地成功! ディーレ、いくぞ!」



 俺はディーレを握り直すと、身体強化魔法を一気に全部詠唱し発動させ、戦闘態勢を整える。



【承知です。■▲〇※■▲〇※!】



 同時にディーレも魔法剣を発動させて刀身に炎を宿していた。



 そんな小雲鯨スモールクラウドホエールの背中に降りた俺たちのもとに、サメのような生物が現れていた。

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