126:再会
「ライナス師匠!」
身体が消え去ったライナスを見て、ノエリアが悲鳴のような声をあげた。
「師匠をよくも!」
師匠であり、身近な存在であったライナスを目の前で殺され、殺意のこもった視線でジャイルを睨みつけたノエリアが、杖を構えて詠唱に入ろうとする。
「詠唱をやめろ。フレデリック王の命はいらないのか? 忌々しい辺境伯の小娘!」
「くっ! 卑怯な男!」
フレデリック王を人質に取られていたことを思い出したノエリアは、声を震わせ詠唱を止めた。
「英雄ロイド、英雄ロイドって皆が持ち上げているが、元冒険者の成り上がり貴族のくせにデカいを面をして、近衛騎士団長を務めるわたしに意見書を送ってきやがって! うぜー老害だ! 自分がポンコツ剣士だって思い出せっつんだよっ!」
「我が父は王国とその民のために剣を振るい続けている立派な方です。貴方のように近衛騎士団長という重職にありながら、自己の欲望のために動いてはおりません!」
父を侮辱されたと思ったノエリアが、ジャイルに対しきっぱりと言い切っていた。
「父娘ともに小うるさいやつらだ! ジェノサイダー! あの小娘も消せ!」
ジャイルの背後で青白い光が発生すると、ノエリアに向かい放たれた。
「ノエリア!」
「大丈夫です!」
事前に展開していた障壁が数個砕け散るのが見えたが、ノエリアはジェノサイダーの攻撃を防ぎきっていた。
「おい、どうなっているんだ! 人が粉微塵になって消えたぞ!!」
「さっきの青白い光はなんだ!」
「そんなことよりも陛下をすぐに助けなければ!」
「オ、オレは命が惜しいから逃げるぞ!」
目の前でライナスが肉体ごと消え去ったことで、現場には更なる混乱が広がっていた。
「クソ忌々しい小娘は後回しだ! 今度はアルフィーネを消せ! わたしに楯突く者は全て殺せ! くひひ!」
再び青白い光がジャイルの背後で光ったと思うと、アルフィーネの姿にした幻影体の一人が弾け飛んだ。
ただし、周囲にいた騎士や兵士を巻き込んだ形であった。
「なんでオレたちまで!?」
「ここにいたら剣聖かあの青白い光に殺される! 逃げるが勝ちだ!」
「ジャイル殿が乱心された! 乱心されたぞ!」
自身に危険が及ぶと見た騎士や兵士たちは、フレデリック王の救出を忘れ、広場から一目散に逃げだし始めた。
「ジャイル! やめろ!」
俺はディーレを引き抜くと、隙を突いてフレデリック王の首に剣を突きつけたジャイルに向かい距離を詰める。
あと少しでジャイルの剣を弾き飛ばせる距離に詰めたところで、ソレは急に姿を現した。
普通の人の数十倍はある太い腕がディーレの剣先の軌道をそらしていた。
「フヒヒ、お前もわたしの邪魔を散々してくれたな。真紅の魔剣士フリック! お前がアビスウォーカーに気づかなければ、わたしの計画は成功していたのだ! ぶち殺せ、ジェノサイダー!」
「くっ! ジャイル!」
何もないところから姿を現したジェノサイダーが、俺に向かい殴りかかってくる。
堅いし、速い。
一体でも魔竜クラスの強さだろ、こいつ。
空気を切り裂き繰り出される拳を何とか避け、ジャイルに囚われたフレデリック王の救出を狙うが、ジェノサイダーはその隙を与えてくれなかった。
「クエェエ!」
ジェノサイダーの攻撃を避けていた俺に聞き覚えのある鳴き声が聞こえてきた。
ディモル?
まさか、ここは王都だから入るなって言ってあったのになんで?
広場から逃げ出していた兵士や騎士たちもディモルの姿を見つけたようで、混乱に更なる拍車がかかっていた。
「で、でけぇ翼竜だ! 喰われるぞ!」
「バケモンみてーなデカさだぞ! まさか魔竜か!」
「正体不明の怪物とか魔竜クラスの巨大な翼竜とか出るなんて、王都はどうなっちまったんだ!」
上空に現れたディモルは俺の姿を見つけたらしく、一気に急降下してくる。
その背にシンツィアの本体である全身鎧とは別に、若い金髪の冒険者が乗っている姿が飛び込んできた。
「フリック! 待たせたわね! 派手にぶちかますわよ! アル、あんたはフリックを助けてきなさい」
シンツィアの作り出したゴーレムが、暴れるジェノサイダーを押さえにかかる。
同時にディモルから降りた若い金髪の冒険者が、俺の前に降り立った。
金髪で碧眼の若い冒険者。
ユグハノーツの冒険者ギルドですれ違ったあの冒険者だ。
「アル……フィーネか?」
「今はあの怪物を倒す方が先決。色んな話はあとでさせて。真紅の魔剣士フリックさん」
金髪の冒険者の発した声に黒髪のアルフィーネの姿が重なった。
自らの心臓の鼓動が早くなるのを感じていく。
自分の中で色々な思いが混じり合っていた。
「アル様……」
「ノエリア様、今は冒険者アルとして真紅の魔剣士フリックさんに助太刀させてもらいます。お話は後で聞いてください」
「……承知しました」
アルはそれだけ言うと、腰の二振りの剣を引き抜き、剣聖アルフィーネになる前の彼女が戻ってきたかのような目の覚めるような速度でジェノサイダーに向かい駆け出していた。
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