78:困惑の会議 前編
人狩り連中を捕え、救出した周辺の村人たちを村に帰すと、俺たちはデボン村に戻ってきていた。
そして今は、村長の家で人狩りたちから得た情報をもとに、今後の行動をどうするべきかみんなで集まって協議している最中であった。
「どうも近衛騎士団が今回の件に色々と関与しているらしい。これは人狩りの連中に確認したからそれなりに信用できると思うが」
酒盛り中だった人狩りたちが漏らした情報については、奴らを連れてくる間にディモル、ディードゥルとディーレに手伝ってもらい丁寧に聞き出し真偽のほどを再確認していた。
人狩りたちはこちらに非常に協力的で、質問したことに対し簡単に口を開いてくれていた。
さすがに巨大な翼竜と巨大な馬と炎を噴き出す魔剣が一緒に威圧すると、普通の人は怯えるんだよな。
ちゃんと意思疎通ができれば可愛いやつらなんだけど。
いずれ彼らの素晴らしさはみんなに伝えていかないといけないが、今はそれどころではないな。
捕えた人狩りから情報を聞き出す時に同席していたノエリアも、半ば信じられないという顔をしながら口を開く。
「鉱山にいるという人たちと近衛騎士団が繋がっているというのはにわかには信じられませんが……。捕えた者たちが嘘を言っている様子もありませんし」
人狩りたちは鉱山の連中から依頼を受けたと喋っており、その背後の金主に近衛騎士団が関与していると自白していた。
一人だけだと信ぴょう性がなかったが、リーダー格の男以外からも数名ほど同じ情報が出てきているので、信ぴょう性はある程度あると判断した。
そんな俺たちの報告を目を閉じて聞いていたスザーナが目を開いて発言する。
「けれど、現近衛騎士団長の実家であるラドクリフ家は色々と黒い噂のある貴族家ですし。裏で何かを行っていても不思議ではない気もします」
人狩りの尋問は主に俺が担当していたため、スザーナがこの情報に接したのは今が初めてに近いが、スザーナ自身が感じていたラドクリフ家の関与の可能性を示唆してきた。
やっぱそっちの線もあるよな。
でも、このインバハネス周辺の土地はジャイルの領地だし、領民をどう使おうが、領主の彼の自由だと言われてしまえばそれまでになってしまう。
貴族家でもあまりに酷い事件であれば王国が相応の罰を与えるものだが…。相手が宰相を務めるラドクリフ家となると、余程の証拠がないかぎりどこかでうやむやにされる可能性が高いよな。
王都で散々貴族たちの横暴なところを見てきていた俺は今回の事件もジャイルや近衛騎士団に属する貴族たちからの圧力でなかったことにされそうな気がしていた。
「まぁ、俺もそう思うが……。それにしてもスザーナはノエリア専属のメイドだけど意外と世情に詳しいんだな」
ノエリアのもとで幼い時から一緒に育ってきた姉みたいな存在のメイドだと聞いてたけど。
どう見ても身のこなしがメイドとは思えないし、あの変わった武器も見事につかいこなしてたし、それに色々と情報を知っている。
一体彼女は何者なんだろうか。
「え? あ、はい。こう見えても辺境伯家のメイドなので色々と情報は入ってくるのですよ。ええ、まぁ、はい」
スザーナの素性に興味を覚えたが、彼女の目がそれ以上詮索しないでくれと訴えかけてきており、突っ込むとこちらが思わぬ反撃を食らいそうだったのでそれ以上は聞かないことにした。
彼女がこの旅に参加してるのも、ノエリアの件だけではないってことなんだろうな。
俺も秘密を抱えている身だし、お互いさまってことだ。
俺は目でスザーナに『こっちもそれ以上は追求しない』と伝えていた。
そんな俺とスザーナのことは気にせず、考え込んでいたノエリアが浮かんできたと思われる疑問を口にした。
「この件はやはりアビスウォーカーと何か関係があるのでしょうか? ラハマン鉱山はアビスウォーカーの目撃地点にも近いですし、その情報は近衛騎士団か領主のジャイル殿の圧力によりなかったことにされてましたし」
アビスウォーカーの目撃情報を確かめにきたら、こんな事態になっていたと考えると無関係とは思えないけど。
そもそも、インバハネスのギルドマスターから得た情報も領主からの圧力で捜索が止められていたし。
鉱山の連中とアビスウォーカーが繋がっているとなると……もっと大事になる気配がする。
「俺もそれが気になってたんだ。アビスウォーカーの目撃情報と鉱山の連中が何か関係があるのかどうかが」
「仮にアビスウォーカーと鉱山の人たちが繋がっているとなると……国を揺るがす大事件になりますが……」
自分の考えを口にしたノエリアが顔を青ざめさせていた。
鉱山付近で目撃されたアビスウォーカーがアビスフォールで、俺たちが戦った新型でなおかつ鉱山の連中と繋がっているとなると……。
アビスウォーカーが組織的な支援を受けて活動しているとかいう最悪の考えにたどり着くことになるな。
「そちらの繋がりも調べるべきですが、鉱山の人たちに近衛騎士団が関与してるのか、それとも近衛騎士団長でこの地の領主であるジャイル殿が関与しているのかも調べた方がいいかもしれません」
スザーナの言葉で、俺は最悪の事態が起こっているのではと勘ぐってしまう。
王の護衛である近衛騎士団か、側近と言われるラドクリフ家の嫡男ジャイルが、アビスウォーカーと繋がっているとかだと前代未聞の背信行為になると思うんだが。
こんな状況で二度目の大襲来が起きたら……。
そう考えるだけで身震いをしてしまった。
だが、まだ何も確証はない。
ただ、アビスウォーカーの目撃情報と重なっただけで二つの事柄は全く関係ないのかもしれない。
個人としてはいかにジャイルが貴族のボンボンであったとしても、王国の一員としてあれだけの被害を出したアビスウォーカーに関与しているとは思いたくなかった。
「本来の目的であるアビスウォーカーの件はしっかりと調べた方がいいかもしれない。だが、その前に鉱山の連中と繋がっているのはどっちか見定めた方がいいかもしれないな」
本来繋がらないと思っていた話が、にわかに繋がるかもしれないという事実に近づきつつあり、俺は胃のあたりが痛む気がしていた。
「フリック様の言う通りですね。アビスウォーカーの件の前にまずは鉱山の人たちの素性を確かめる方がいいかもしれません。鉱山にいる人たちは十数年前には居たと村の人たちは言ってますし。それを考えるとジャイル殿が関与してるとなると子供の時からという話になりますが……」
「だとすると近衛騎士団が元々関与してて、ジャイル殿は知らないということでしょうか?」
スザーナが言った通り十数年前から近衛騎士団の関与があったとしたら、それだけの期間、王を護り、国を守るべき貴族たちの集団が裏切っていたという話になっていく。
だが、俺にはあの軟弱な近衛騎士たちが、そんな大それたことをする連中だとはどうしても思えないでいた。
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