79:困惑の会議 後編



 今後の対策を考える会議は結論を出せぬまま続いていた。


 デボン村の村長であるユージンも人狩りの連中が領主か近衛騎士団と繋がっていると聞いて顔を青くしている。



「フリック殿……どうされます? 話が自警団の連中ならご領主様に訴え出ようと思ってたのですが……」



 訴えようとしている領主が今回の悪事に加担している可能性もあると知り、ユージンは苦悶の表情を浮かべていた。



 確定情報ではないものの可能性はゼロじゃないからな。


 とはいえ二〇〇名近くが行方不明となると……放っておくこともできないし。



 俺はこの事態をどうするべきか迷いに迷っていた。


 そんな俺の表情を察したのかスザーナが口を開く。



「どちらにせよ。アビスウォーカーの目撃情報の捜索をするうえで、この地の領主であるラドクリフ家のジャイル殿との間に騒動を起こすことは得策ではないと思われます。慎重に調査を続けることこそ大事かと」



 今の俺たちに出来るのはやはりスザーナ言った通り情報集めくらいか。


 幸い、今は鉱山から作業者が外に送られることは止まってるみたいだしな。



「悔しいが現状だとそうするしかないな」


「けど、わたくしたちが人狩りを捕まえてしまいましたが、その方たちの処遇はいかがします? このまま解き放つと、また村に押しかけてくる可能性もありますし」



 話を聞いていたノエリアが捕らえた人狩りたちの処遇を口にしていた。



 今はこの村の家に縛って転がしてるけど……ノエリアの言う通り、解き放つわけにはいかないよな。



「まぁ、それは善意の第三者として村人たちを助けたと言い張れますので大丈夫かと。相手がラドクリフ家の紋章を掲げていたわけでもないので。村に対し不法行為を働いたと書状付きで自警団に引き渡せば、向こうは元自警団員の不祥事という形にしてくるかと思います」



 返答に困った俺を助けるようにスザーナが捕まえた者たちの処遇案を提示してくれた。



 なるほど、そうか。


 相手はラドクリフ家の紋章も近衛騎士団に関係するモノも所持してなかった。


 全部、彼らの証言でしかないか。



 人狩りしていた連中が鉱山の連中と繋がっていることは明白だが、領主や近衛騎士団との繋がりは彼らの自白しかない。


 スザーナは人狩りから得た情報を知らぬふりして、普通の犯罪者として自警団に引き渡すべきだと言っていた。



「それで押し通せると思うか?」


「それでいけるかと。貴族家から依頼された汚れ仕事に失敗した時の代償は、しっぽ切りと決まっておりますので」



 そう言ったスザーナの目が少しだけ冷たく光を放つように見えた。


 

「なら、俺たちは通りがかった村で村人に狼藉を働いていた連中を捕まえただけということにしよう。ノエリア、自警団の連中に渡す書状を書いてくれるか」


「承知しました。村の方も相手が自警団では突き出しにくいでしょうし、わたくしが重要なところはぼかして彼らの所業を記した書状を用意いたします」



 ノエリアはそう言うと、テーブルに紙を広げて書状を書き始めていた。



 辺境伯の令嬢であるノエリアの添え書きを持っていけば、自警団の連中も門前払いということはないだろう。


 犯罪者を取り締まるのも王国軍から移管を受けた彼らの仕事でもあるし。



 ノエリアの書状を見て、青い顔をしていたユージンもいちおうの安堵の顔を見せていた。



「英雄ロイド様のご令嬢たるノエリア様に添え書きを頂き助かります。捕まえた連中はワシが責任をもってインバハネスの自警団に叩き返してきますのでお任せください」



 貴族やそれに準じる組織を相手にする時は、一介の冒険者にすぎない俺よりも辺境伯家令嬢のノエリアの方が話が通じやすい。



「ユージン殿にはご足労をかけるがよろしく頼みます」


「ワシらにできるのはこれくらいですので気にせずにおいてください。それと調査を続けて頂けるなら村には遠慮なく逗留して頂いてけっこうですぞ。食事も宿も提供いたしますので」


「それはありがたい。調べるにも日数がかかりそうなので」



 俺たちは村を襲っていた人狩りたちの処遇を決めると、更なる情報収集のためデボン村を拠点にすることにした。

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