第45話 壊された日常

 海での楽しかった日々もすでに3か月前。今はもう11月だ。やはり北の国ということもあって、前回の転生先ラキヤよりかなり寒い。

 キサラギ家の別荘への2泊3日の旅行で、ロベリアと魔術同好会の中は多少は深まったように見える。

 アナスタシアは元々ロベリアに対してそんなに悪い感情は抱いていなかったみたいだ。どうやらイゾウ氏とロベリアの祖父ネグロム・シフィリティカは旧知の仲だったらしく、イゾウ氏はネグロム氏がそんなことをするはずがない、冤罪だ。と最後まで訴えていたそうだ。

 そういう祖父の考え方もあり、アナスタシアはロベリアへの偏見は無いように見える。

 クラウディアと部長も多分そんなに悪い感情は持ってないだろう。あの二人は基本的に能天気だし、思ってることがすぐ顔にでるからね。


 まぁどちらかというとロベリアの方が周りと壁を作っている感が強い。


 だから僕はロベリアに、僕以外の友達を沢山作ってあげるのだ。楽しいことも悲しいこともうれしいことも嫌なことも、ひとりよりみんなで分かち合うほうがいいに決まってる。


 その日も僕とロベリア、魔術同好会の皆で授業後に部室でお茶をしてお菓子を食べて、他愛のない話をして解散した。

 普通に屋敷へ帰ってロベリアとお風呂に入り、食事をとって、ロベリアとウノをしてから寝た。



    ◇



 次の日学院へ行くと部長が学院へ来ていないらしい。珍しいこともあったもんだ。たしかあの人は無遅刻無欠席だったはずなのに。

 ちなみに部長ことフィガロ・オスクローは上級貴族だ。オスクロー家は代々優秀な魔術師を多数輩出している由緒正しき家系らしい。

 どうしたんかな? 風邪でもひいたんかな。珍しいこともあるもんだ、と特に気にも留めずその日は過ぎて行った。


 ――次の日


 あれ? 今日も部長休みか? 大丈夫かな。お見舞いとか行ったほうがいいんかな。うーん、でもいきなり大勢で押し寄せても迷惑かもだしなぁ。


 ――次の日


 まだ休み? 本当に大丈夫か? 

 僕らはさすがに3日休んでいるあの元気な部長が心配になり、先生に部長の様子はどうなのかを聞いてみた。


「ええと、それが何の連絡もないんですよ。えぇ、最初にフィガロさんが休んだ日から。お相手は上流貴族、こちらから連絡するのも失礼かと思いまして……」


 はぁ? マジかよ。てことは最初に休んだ日から学院には何の連絡も入れてきてないってことかよ……


 居てもたってもいられなくなった僕らは部長の家へお見舞いに行くことにした。



    ◇



 ――御免くださーい。御免くださぁぁい!!


 なんの反応もない。なんかすげえ嫌な予感がする。


「これ絶対なんかおかしいわ。部長の家の人には悪いけどこのまま家に入らせてもらおう」


 僕がそう提案するとアナスタシアがすかさずそれはまずいと忠告をしてきた。


「レットさん、部長はああ見えて上級貴族です。下手に不法侵入などすれば後々大変な問題に発展する恐れが……」


 あぁ、分かる、言ってることは分かる。でももしこの屋敷の中でなんかとんでもないことでも起こってたらどうすんだよ! 大変な問題になったら僕が全部引き受けてやるよ。


「アナスタシア、そんなこと言ってる場合じゃねえんだよ。この家の人全員中でぶっ倒れてたらどうすんの!? いい、僕が一人で行く」


 そういうと、しょぼんとしてしまうアナスタシア。ごめんね。アナスタシアを責めてるわけじゃないから。後で謝るから。アナスタシアの立場は分かってるからね。


 アナスタシアにそう伝えて屋敷の扉に手を掛ける。すると後ろから肩に手を掛けられた。


「ちょっと! あたしも行くに決まってるでしょ! なんで一人で行こうとしてんのよ! あたしはあなたのお姉ちゃんなんだから! 一番最初に頼りなさいよね!」


 あぁ、ロベリアありがと。マジ女神。ロベリアだって上級貴族だ。責任問題に発展してもおかしくないのに…… 本当に心強いお姉ちゃんだぜ。


 ――失礼しまーす


 施錠もしていない扉を開けると中は真っ暗だ。


「誰かいませんか~? 部長、じゃねえや、フィガロさんと同じ学院の者なんですが~」


 返事はない。シーンと静まり返っている。

 こんな広い屋敷にこの時間、誰もいないなんてこと有り得るか?

 これ絶対なんかあっただろ?


 失礼しま~す、と一応声だけ掛けて中へ入る。照明も全く付いていない、真っ暗の屋敷の中。足元を気にしながら進む。


 ――んー、んー、んー!うー!


 え? なんか聞こえた。呻き声みたいな。喋れなくて口を塞がれてて、でもなんとかそこに居ることを伝えようと必死になって出している声にならない声。


 暗闇の中、なんとか転ばないように進んだ先には猿轡をされ身動きの取れなくなった人達の一団があった。


 僕とロベリアは急いで彼らを拘束している紐を解こうとする、でも中々解けない。とりあえず一度屋敷の外に行き、ハサミかなにかないか探した。

 偶然クラウディアが持っていたナイフで彼らの拘束を解く。


「ど、どうしたんですか!? なにがあったんですか。ぶ、部長は!?」


 部長がいない……


 フィ、フィガロが、フィガロが――


 なんだよ、嫌な予感しかしない。


 ――攫われた…… 奴らは、奴らは……


 ――17ガーベラだ。

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