第6話 すいません、あなた誰ですか?
「はい。お疲れ様でした。紫様。暖かいコーヒーをご用意致しております」
目が覚めると知らない男の人が立っていた。
「えっ? あなた誰ですか? 女神様は? え、ごめんなさい、展開についていけないんですが」
「あぁ! そうですね、突然のことでビックリされましたよね。えぇえぇ、ご説明いたしますとも! ええとですね、前回まで紫様の異世界転生の案内役を担当しておりましたエストリエは現在休暇中でして、その不在時の代わりとして、わたくしがここに参ったという次第、であります!」
は? 休暇? 女神様にも休暇とかあるんだね。初耳だよ。だよね~、やっぱ働きづめはよくないもん。一生懸命仕事したら適度に休む! これ大事だよね~。僕仕事したことないけど。
「現在エストリエは3泊4日で、ゲロというところに温泉旅行に行っております。なんでもその温泉は美肌の湯として名高く、全国から女性のお客様が、その温泉目当てに訪れるのだとか。わたくしも次の休暇には是非訪れてみたいと、思っております!」
3泊4日かよ、長げえな、おい……、――――!?
「も、もしかしてボーナスが出たからですか? 彼女が温泉に行ったのって」
「ご明察です! そのとおりです!! ですので彼女は紫様に大層感謝しておいででした。そうそう、彼女から言伝を承っております。“お土産買ってくね”だそうです。よかったですね!」
やったぜ! っておい! うれしくねぇよ! そんなもんより高ランクのスキル寄越せよ!
「そんなことより、コーヒーが入りましたよ。ささっ、冷めないうちにどうぞ」
「あ、ありがと。君あの女神より気が利くね。もうあの女神も見飽きたし、これからは君でいいよ。別に女神がいたっておぱーい揉ませてくれるわけでもないし。目の毒だし」
――ではいただきます。
「あ、甘っ! なにこれ甘っっ!!」
「お口に合いましたでしょうか?」
「いや、なんかこれものすんごく甘いんですけど。あの僕ブラックがいいんで、ブラック頂けます?」
「大変申し訳御座いません。ブラックはご用意しておりません」
「マジ?」
「こちらべとなあむコーヒーと申しまして、コーヒーに練乳が入って御座います。わたくしこの日のために、べとなあむコーヒーを研究し、おいしいべとなあむコーヒーを紫様に飲んで頂くべく研鑽して参りました。お口に合ったのなら、幸いです!」
「あ、そうなんすか? いや、なんか僕の為なんかに、なんかすいません」
くそっ、飲まなきゃいけない空気になっちゃったじゃないかよ! やばかったぞ、一口目。でも~、しゃーねー、死ぬことと比べたら屁でもねえぜ!
――ゴク、ゴク、ゴク、ゴク。
甘っ、あ~、喉に絡みつく~イガイガするぜ~。でも無理すりゃ飲めないこともない。まぁ好きな人は好きなんだろう、僕にはきついが。
「け、結構なお手前で……」
「いえいえ、紫様に喜んで頂けてなによりで御座いまます。次にお食事もご用意致しておりますので、しばしお待ちを」
そういって女神の代わりの人は部屋から出て行った。部屋の扉ってあんなとこにあるのね。初めて知りました。こっから見てもどこに扉があるのかぜんぜんわかんないけど、よく一発でドアノブ握れたね。すごい。代わりの人!
なんだろな~、食事って。さっきのくそ甘いコーヒーみたいなことはないだろう。お肉食べたいな。お刺身食べたいなぁ…… なんちゃって。
◇
「お待たせ致しました。本日のメニューで、御座います」
来た! 久々の故郷の味! 転生先の料理って味付けが薄くて物足りなかったんだよね~。どんな料理がくっるのっかな~! たのしみだな~!
「どうぞ! わたくし特製の精進料理で、御座います!」
………………
「こちらのメニュー、豆腐や野菜など、植物性の食材のみを厳選して使用して調理した珠玉の一品で、御座います。お米は玄米ご飯。わたくしこの日のためにお寺に精進料理を習いに一週間通いました! ささっ! お召し上がり、ください!」
――あぁ、こういうの向こうで毎日食べてました。
向こうでも食べてました! 大事なので二回言いました! その辺に生えてる草取ってきて食べてましたよ。肉なんて貴重品なんで、保存用の干し肉とか蛙みたいなやつの肉とかしか食べてませんでした!
だから~、お肉食べたかったのに~、
でもなんか代わりの人、すんごいニコニコして僕が食べるの待ってるから食べるしかねぇじゃねえかよ!
――い、いただきます
「どうぞ、どうぞ。ごゆっくり、お召し上がりください」
うわっ、味しねぇ。予想通りなんだけど味しねぇ。しかも冷めてる。こういうもんなのか? あ~、せめて醤油ドバドバかけてえ。
――ごちそうさまでした……
「お粗末様でした。かなり気に入って頂けたようで、何よりです! おや、まだ足りない様子。おかわりも御座いますので、直ぐにお持ちいたしますね!」
いやいやいやいや! いいから! もういいから! ほんとにいいから!
僕の言葉が彼に届く前に、代わりの人はおかわりの精進料理を取りに部屋から出て行った。
代わりの人が再度持ってきた精進料理をなんとか平らげ、食後のコーヒーです、と出されたべとなあむコーヒーを吐きそうになりながら一気に流し込む。
なんだろこれ、嫌がらせ? 拷問?
「ささっ、前置きが長くなってしまい、大変申し訳、ございませんでした! 早速第三回目のガチャガチャタイムがやって、参りました! あっ、そうだ、紫様に朗報が御座います。前回のガチャ終了後に搾取君(仮)の大幅な改修が執り行われまして、今回からなんと! スーパー搾取君(仮)にバージョンアップ致しました!!」
「へ、へぇ、すごいね……」
「紫様のご期待も当然です! 紫様のボルテージが沸々と湧き上がっていること、わたくし見逃しては、おりません! さぁ、早速なにがどう変わったのかご説明して参りましょう!」
彼に見えているのは一体なんなんだ。この死んだ目をしている僕のどこをどう見たらテンション高めに見・え・る・の・さ!!
まあいい、ツッコんだら負けだ。スルースキルもしっかり育てていかないとね。
「なんとこのスーパー搾取君(仮)は、な、なんと! 前回から、大幅に! パワーアップして、おります!」
いや、もうそんな引き延ばすことでもないでしょ、どーせ。もう早くしてお願い。
「紫様、もう我慢ができないといったご様子! 気になって気になって仕方がないのも当然です。ですが、ご安心ください! 紫様のご期待に添えること請け合い!」
うんうん、わかったわかった
「まず見た目から! 改修前は武骨なデザイン、カラーリングは黒一色となんとも味気ないものでした。ですが今回から! 美しいお花を各所にあしらってみました! その季節季節に合わせた旬の花をご用意致します! 今回の花は現在紫様の転生前の世界では夏ですので、大胆にひまわりをあしらって御座います。どうですか? 紫様、気に入っていただけましたでしょうか?」
「搾取君(仮)がどんな色しててどんなデザインだったのかすら覚えてないよ! そんなの、もういいから! お願い! お話先に進めて! お願い!!」
「紫様も大満足のご様子! この改修、紫様が転生なさっている間に進めていたのですが、改修期間二年! 改修費用、日本円にして二億! かかっております!」
「え? 二億? え? どこにそんなお金かけたの? ひまわりぶっ刺しただけじゃない。いやそもそも二億もあるなら僕に二億渡して現世に戻せ!! おかしいんだよ! 金の使いどころが!」
「100名余りのスタッフが弛みない努力と、昼夜を問わず悪戦苦闘しながらも頑張り抜いて作り上げたこのスーパー搾取君(仮)! いよいよここからが本題です! 紫様が一番気になっているところだと、思います!」
「やっとだ。頼むよ、僕これからまた転生するんでしょ? ここでこんなに疲れちゃったらダメじゃないの。わかるでしょ? 君女神の代わりの人なんでしょ? あのアホ女神でももっとテンポよかったよ」
「ミュージックスタート!!」
どこからともなく壮大なBGMが流れ出す。
「今回新たに追加された新機能、それはなんと~!!!」
――ごくり……
「なんと~!!!」
…………
「ガチャがっ! ガチャできる回数がっ!! なんとっ!!! 三回に増量、されま・し・た!!」
「マジで!? これは予想外にうれしい機能じゃねぇか!」
「紫様も大満足のこの機能! どうです? 喜んでいただけましたか?」
「うん! これはすごいうれしい! いや、あのアホ女神よりお兄さんのほうがいいよ!」
「あぁ~! なんとっ! なんという有難いお言葉! 今わたくし、感動で震えております!」
ほんと大げさだね、この人。まあいいや、早速ガチャ逝ってみよう!
「紫様も待ちきれないご様子! 涎をダラダラと垂らして今にもスーパー搾取君(仮)に襲い掛かりそうな雰囲気!」
いや、涎なんて垂らしてないし。僕を狂犬みたいに言うのやめてくんないかな。
「ではそろそろ、ガチャ、逝かせて、いただきますっ!」
がちゃん、がちゃん、がちゃん――――
ごろごろごろごろごろ~
ぽろん、ぽろん、ぽろん――――
頼むっ! 頼むからいいの来て! もうノーマルは嫌なの! レア以上でお願い!
「さぁ、一つ目のガチャから見て参りましょう! 一つ目は~!!」
――ノーマル
いや、薄々わかってた。多分ノーマル来るんじゃないかな~って。そんなもんなんだよ、きっと。確率がわかんないからね。
「え~、今回からスキルランクを先に一斉に見てから、スキル名を発表していくスタイルに変更致しましたので、ご了承、ください!!」
はいはい、いいですよ~。進めて進めて。
――レア
「おぉ! 二個目でレア来た! まぁとりあえず一つはいいの確保したから、あと一個だ。頼むできたらでいい! レア以上来てくれ!」
――ピロリロリーン!!!
「なになに!? なにこの音!? これってもしかしてすんごいやつ来ちゃう合図なんじゃないの!?」
「お~っと! これは高ランクスキルをお知らせするアラームです! 現在はこのアラーム一曲だけですが、次回からは季節にあった素晴らしい楽曲をご用意する予定ですので、楽しみにお待ち、ください!」
「いや、なんですでに次もある前提で話進めてるんだよ! もう今回で終わらせるんだよ! 僕は!」
――――UR
「え、なに? なに? URってなに? いいやつ? いいやつなの?」
「おめでとう御座います!! ウルトラレアを引き当てましたよ! さすが紫様! 運も実力の内! で御座います!」
ついに、ついに来た! ランクはわからんが、かなりいいのを引き当てたっぽい!
「ちなみにウルトラレアって何番目にいいやつなの?」
「え~、下から数えて6番目、上から数えて5番目、で御座います!」
かなりいいやつじゃん! これは当たりだ。やっとだ、やっと異世界転生らしくなってきた。苦節異世界転生3度目、ここからだ! 俺はまだのぼりはじめたばかりだからな。このはてしなく遠い異世界転生坂をよ!
「さぁ、では引き続いて、スキル名チェックへといざっ! 参りましょう!」
あぁ、そうだ、まだそれが待ってるんだった。いかんいかん、浮かれすぎてた。
「まずノーマルランクのスキルから――――」
ごくりっ
――強化
ん? だ、打突じゃないだと? 絶対打突がくると思っていたのに。またおまえか~い! ってやるのが様式美になっていくものだとばかり思っていたが、いやうれしい誤算だぜ!
でも強化ってなんだ? パワーアップとかすんのか? え、これめっちゃ強そうじゃね? これこそノーマルスキルなのに実はめっちゃ有能なスキルでした! ってやつじゃね!!
「さ、続きまして、レアランクのスキルは~――――」
「頼む! いいの来て! お願い!」
――ファイアボール
おぉ! 来た!! とうとう僕のところにも魔法が来た! あぁ、ファンタジーの風が僕に吹いてきた。これぞ異世界転生。打突なんて現実世界でもやれたじゃん! やっぱ時代は魔法だよ!
「そして~! 最後に~!! ウルトラレアランクのスキルは~~――――――」
――――ペット
は? は?
「以上! 今回のガチャ結果でした! 紫様! お目当てのスキルは出ましたでしょうか?」
「いや、あのお兄さん、ちょっと聞いていい? ペットってなに?」
「え~っと、本当はスキルの説明はダメ、なんですが、特別ですよ」
え、マジ!? 教えてくれんの!? マジでアホ女神よりこの代わりのお兄さんのほうがいいやつやん! お願いします! 教えて、偉い人!
「えっとですねぇ、基本、高ランクのスキルは異世界転生時にすぐに使えるわけではなく、年齢を重ねる、なにかのイベントをクリアするなどして解放されるシステムになっております。今回紫様が引き当てられましたペットも、すぐには手に入らないかもしれません。こればっかりはわたくしにも分かりかねます。申し訳御座いません。」
なるほどね、だからレアランクの打突はすぐに使えなかったわけね。得心いたしました。でも疑問がひとつ解けてよかったぜ。
でもペットってあれだろ、なんか強力な攻撃とか出しちゃうめっちゃ強い仲間だろ。なんかのラノベで読んだフェンリルとかああいうやつだろ。これもう無双しちゃうの確定なんじゃね?
「名残惜しいですが、そろそろ異世界転生のお時間がやって参りました。紫様、楽しいひと時、わたくしこの場にご一緒させていただけて感無量、で御座います!」
「いやいや、アホ女神の代わりのお兄さん、こちらこそいろいろありがとう! あなたが淹れてくれたべとなあむコーヒーの味、一生忘れません! もう二度と会うことはないでしょうが、体調を崩されませんよう、どうぞご自愛ください!」
「それでは! 異世界転生第三回目張り切って参りましょう~!!」
代わりのお兄さん、ありがとう! それじゃ僕逝ってくるよ! アディオス!アミ~ゴ!
◇
「今回女神エストリエに代わりまして案内人を務めさせてさせていただきましたのはルシフェル、ルシフェル、で御座いました! ではまたお会い、しましょう!!」
◇ ◇ ◇ ◇
※当作品を見つけていただき誠にありがとうございます。
もし当作品を面白っ! 続きはよっ! と思っていただけましたら♡で応援、レビュー、ブクマ、ひとつでも構いませんので、★をぽちっと、などなどしていただけますと作者の今後の執筆意欲につながります。
→https://kakuyomu.jp/works/16817330668100636316#reviews
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