第2章 転生2回目
第5話 異世界転生第ニ回目 打突王に俺はなる!
さぁ、いよいよ始まりました。世紀の大レース。今回のわたくしの転生先は、なんと!
貴族のお宅です! やりましたっ! これは当たりです!
いや、トンソクママン、トンジルパパン、ごめんよ、木こりの家だって、二人のことは大好きだよ、ちゅっ。
だがっ! 貴族だ! これは勝った。多分貴族だから小さい時から剣術やら魔法やら、英才教育をしてもらえちゃうパターンでしょうこれは!
そして僕はスキルをふたつ持っている! 一個はクソだが、もう一個はレアスキルだ! このレアスキル『打突』と、できたら、厳しい鍛錬の果てにかっちょいい魔法なんかもゲットして魔王を倒しに行ってやる!
◇
とかなんとか思っていたのだが、当家はなんと! 下級貴族でした~ 僕は下級貴族の次男坊で、4つ離れた長男がすでに家庭教師をつけていて、僕にまで家庭教師を付ける余裕が我が家にはなかったのだ。
うちの領地は人口15人足らずの小さな村のみ。この村の安全を守る代わりに、対価として小麦やミルクなど食料を徴収している。だが統治しているエリアが小さすぎて、村人もほとんど家族みたいなものだ。村人はしょっちゅううちの屋敷にやってくるし、数少ない村の子どももなんにも言わずに屋敷の敷地で遊んでやがる。
「お父様、僕にも家庭教師をつけていただきたいのですが……」
「ふんっ! そんな金がうちのどこにあるというのだ! しかもお前みたいなクソスキル持ち、家庭教師なんぞ付けても金の無駄だ! 成人したら村へ行って作物でも作っておれ!」
彼は僕の父親エドワード。こいつは先代当主が残した遺産を、屋敷の装飾品や使用人を雇うために使い果たした無計画のダメ人間だ。
だが本人にダメ人間の自覚はなく、自分がダメなのではなく、周りが自分の才能に気づかないのが悪いんだ! と思うような、責任転嫁しまくりのクソったれ人間なのでたちが悪い。
僕は3歳の時に、適正検査とかいうスキルの判定式を受けさせられた。そこで判明したのは、まぁ分かってはいたが、『ノーマルスキル打突』持ち。当然この世界でもノーマルスキルの打突はクソスキルだ。
エドワードは当てが外れたのか、大層落胆して、それ以降僕にきつく当たるようになった。くそっ、僕にはもう一個スキルがあるんだよ! それも『レア』なスキルがなっ! はっはっはっ!
見返してやる! レアスキルを駆使してギャフンと言わせてやる。だが、一向にそのレアスキルが発現する兆しは見えなかった。
そして6歳の春――――
目が覚めると左手が蒼く光っているのに気付いた。ついに、ついに来ましたよ。僕とうとう覚醒しちゃいます。新しいスキルに目覚めちゃいます。
顔も洗わずに木剣をとり、庭に行く。今日まで毎日ついてきた庭の大木だ。毎日ついてたのに、ほんの少し木の皮が捲れてるだけだ。
「よっしゃ、やったる、ここから僕のざまぁ人生が始まる!」
なんでかはわからないが、レアスキル打突を打つ方法が感覚でわかる。でもどうせならステータス画面とかつけといてくれてもいいんじゃない? なんて不親切なの?
「イメージだ。イメージしろ、
――発動! レアスキル『打突』!!
剣先が蒼く光る! これは! これは絶対強いスキルだ! だって光ってるもん! これもしかしてビームとかでちゃう系のやつじゃね? やべ、木の向こうに屋敷があるぞ! 屋敷吹っ飛ばしちゃうかもしんない! まぁしゃーない! やっちゃったらやっちゃったで、そん時はそん時だ! あとでゆっくり考えよう!
――おりゃっ!!
ぽんぽん!
――高速の剣撃が二回連続で繰り出された。
おっ! 一回剣を突き出したのに、二回突いたぞ! 連続剣ってことか。でも……
地味だ。
しかも威力はノーマルの打突とあんま変わんないんじゃないかなこれ。
いや、待て。でもこれはレアスキルだ。もしかしたら鍛えたらどんどん連撃の回数が増えるタイプのあれかもしれん!
鍛えに鍛えたら16連撃くらいいけちゃうようになっちゃって『〇ターバースト・ス〇リーム!!』みたいなことになっちゃうぞ、これ!!
僕はそれから必死でこのレアスキルを磨いた。毎日毎日、晴れの日も、曇りの日も、雨の日はたまに休んだが、死に物狂いで磨き続けた。
そして10歳になったその日。僕は父に申し出た!
「お父様、お願いがあります。内緒にしていたのですが、実は僕にはノーマルスキル『打突』の他にもうひとつ、スッペシャルなスキルがあるのです。それで、今から兄上と一対一で剣術戦をさせていただきたいのです。それで、もし、僕が勝ったら――」
――家庭教師を付けていただきたいのです!!
よっしゃ、決まった! かっこよくね? 僕。
「ほぉ、ふたつのスキルを持っているというのか、にわかには信じられんが、もし本当なら、ピーターに勝てたのならだが、考えてやらんこともない」
よしっ、言質とりました! ごめんよ、兄上。僕は兄上の屍を乗り越えて強くなるよ!
「おいクソ弟。お前いい度胸してんじゃねーかよ。なんかクッソむかつくから手加減はしてやんねーからな。死んでも化けてでてくんじゃねーぞ」
うわっ、野蛮ね。いやだわ。ふん、ほざいてろ! 僕のレアスキルでお前なんか田んぼの肥やしにしてやるぜ!
このピーターも本当に性格が悪くって、ちょっとレアスキルがあるからって、調子に乗りやがって、僕のことをいつも虐めてくる。
来る日も来る日も僕もことを顎で使って、なんか機嫌が悪いことがあると、すぐに僕でストレス発散をしてくるのだ。
だがこんな日々も今日で終わる。鍛えに鍛えた連続剣レアスキル『打突』でやってやんよ! あ、ちなみに現在四連続まで出せちゃえるようになりました。
立ち合いに使用人ボブを置き、剣術試合が開始される。
――両坊っちゃま、よろしいでしょうか。では
――はじめっ!!
先手必勝!! レアスキル打突!!
ポンポンポンポンッ!!!!
――うぉっ!?
よしっ、効いてるぞ! 前回のゴブリンみたいになったらどうしようかと内心ドキドキしていたが、こいつには効果あるみたいだ! このまま連続で攻撃して早いとこ負けを認めさせてやる!
くらえっ! 打突!!
――ぐっ、クソ雑魚の分際でっ
もう一押しか。もう一回、今度は急所に当ててやればぶっ倒れるだろ……
「あんまり調子に乗ってんじゃねぇぞ! おりゃっ!!」
クソ兄上の斬撃が僕の左脇腹近辺に襲い掛かってくる。だが既の所でなんとか躱す。
危ねぇ、マジで間一髪! だが当たらなければどうということはない!
そんなことを考えながら次の打突を打つ体制を取っていたその時……
――――――苛烈なる火の精霊よ、我が求めに応じ、敵を焼き尽くす深き紅の火球をここに顕現せしめよ……
――ファイアボール!!!
一瞬のことだった。クソ兄上の剣先から直径10センチ程度の火の球が、僕目掛けて飛んできた。突然のことで身動きが取れず、僕の左肩の辺りに直撃した。
「ぐおっ! あ、あっつ! あちちっ!!」
おい、魔法もありなんか? 聞いてないぞ。あ、でも魔法はダメってのも聞いてないや。
てかこいつ魔法使えたのかよ。知らなかったぞ。僕からこいつに話しかけることなんてなかったし、こいつが剣術の訓練をするのは家庭教師が来た時だけだったから訓練の様子を見たこともなかった。くっそ、侮ってた……
「おらっ、くたばれやっ!!」
クソ兄上は石畳の上でのたうち回る僕にこれでもか! と執拗に剣撃を浴びせてくる。やばい、建て直さないと。でも剣撃を受けたとこが、なんかやばい感じで腫れあがってるし、そもそも火が――――消えない――――
「だんな様、奥様! お二人をお止めにならないと! ヅラぼっちゃまが死んでしまいます! どうかご慈悲を!」
ありがとう、ボブさん。あなただけだ。僕の味方は。いや、ボブさん含め使用人の皆さんは本当に優しい。みんなの休憩時間なんかには、僕が作ったお手製トランプなんかで一緒にゲームを楽しんだものだ。
そうだ、今更だが、僕のここでの名前は『ヅラ』だ。
何故だ? 何故どうでもいいところだけ前回のデータを継承している? しかも微妙に短くなって、意味もちょっとだけ変わっているし。ちなみに僕はヅラではない。念のため。
こんなことを説明している場合ではない、僕のライフはもうゼロ寸前よ。やばい、助けて……
「ふん、結局こんなものなのか! 大して期待はしていなかったが、多少なりとも善戦すれば冒険者なりでもやらせようと考えていたのだが。もういい! こんな獄潰し当家にはいらん! ピーター! そのまま引導を渡してやれ!!」
マジかよ、クソ親父。クソだクソだとは思っていたけど、ここまで非道いとは思ってなかったぜ。マジでこいつだけは絶対忘れねぇ。この恨みは絶対忘れねぇ!!
「奥様! もう奥様しかおりません! なにとぞ! なにとぞ! お二人をお止めになってやってくだせぇ!!」
ボブさ~ん、マジ感謝。でももういいよ。たぶんこの人はダメだ。クソ親父のいうことに右に倣えしかできないお人形さんなんだもの。この人がいいそうなセリフは容易に想像つくよ。
「かわいそうですが、主人が決めたこと。わたくしにはどうすることもできません。ヅラ、脆弱な肉体と貧相なスキルの子に産んでしまったわたくしをお許しください」
うわ~、なんか悲劇のヒロインぶってるし、こいつもこいつだな。自分がない癖になんか知らんがプライドは高い。良いとこ出のお嬢様なんか知らんが、箱入りで育てられた世間を知らないお姫様だぜ。
兄上は……もういいや。なんでだろうなぁ。なんでそんなに僕のこと目の敵にしてたんだよ。僕のなにがそんなに気に食わなかったんだよ。まぁ僕も兄上のこと嫌いだったけどさぁ。だからできるだけ関わらないようにしてたじゃないかよ。
終わらない剣撃、僕に攻撃を入れ続ける兄上の目は血走っている。完全にハイになってるんだろう。我を忘れて一心不乱に剣を打ち込む。
僕はといえば上半身を炎に包まれて、あと数秒で絶命する。
最後に考えた、消えそうな意識の中で考えた。
なにがいけなかったんだろう。剣の練習は頑張ってスキルもなんとか扱えるようになった。兄上に一矢報いることもできた、けど……
そういうことではないのかな。こんな決闘みたいなことになる前になにかできることがあったのかな。
そういや、僕あの人たちのこと全然知らないや。嫌な奴らとしか思ってなかったしな。
もっと普段から会話して、仲良くしとけば、彼らのことをもっと分かろうとしていたのなら、なにか変わってたのかな……
――結局僕もこいつらとおんなじだ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます