第3章 転生3回目

第7話 皆さんお先にすみません、幼馴染できちゃいました

 今回お邪魔するのは人口150人程の村、村名はアリスタ村でございます。

 なぜか城下町とか大都市とかではなく、毎回村で御座います。何故でしょうか。私にも分かりません。まぁそんなことでクヨクヨしていても仕方ありません。気を取り直して逝ってみましょう。


 今回は至って普通の両親の元に転生した。市場で働く母親と、鉱山で働く父親の下に僕は産まれた。僕は長男で、下に弟がひとり。二人は大層僕のことを可愛がってくれた。前回とは大違いだ。前回の毒親とは大違いだ。

 村に学校はひとつだけだ。この国では義務教育というものがないらしい。学校へ行くにも通常、金が掛かるので、家計に余裕のない家庭は子どもを学校に通わせることなんてできないのだ。

 だが! この村を統治している貴族様は、なんということでしょう! 「全ての子どもたちに教育を!」ということで貴族様が学費を全負担して子供たち全員を学校に通わせている。

 Welcome to this crazy time このイカレた世界へようこそ! なこの地にもそんな聖人君子のような人がいるなんて驚きだ。

 そういうことで僕も8歳から学校に通わせてもらっている。村にいる子どもは全員で28人。結構いる。そして今回奇跡的に、僕を標的にするようなやつはいなかった。もちろんちょこっとだけちょっかいをかけてくる奴はいるが、そんなもの僕にとっては屁でもない。蚊に刺された程度、いや耳に息を吹きかけられた程度だ。無問題。


 そして現在11歳! 最初に死んだのが11歳だったからこのままいけば記録更新!

 んで、な、なんと! こんな僕にも! な、なんと!! 幼馴染が! できました!! ぱちぱちぱち~!

 その子の名前はミリア、同い年の女の子だ。僕は彼女をミッちゃんと呼んでいる。この世界ではあまりあだ名というのは一般的ではないらしいが、彼女はミッちゃんと呼ばれるのを大層気に入ってくれているみたいだ。良き良き。


 ちなみに僕の名前は「コアラ」だ。


 なんだよ、コアラって!! この世界の人間どもはみんな名づけのセンスが前衛的すぎてついていけないんだよ!

 ちなみに由来はこの村の周辺に生息している「コララ」という動物だそうだ。コララはなんでもこの地域にしかいない希少な動物で、絶滅が危惧されているという。当然周辺の村々の人たちは、このコララを大変大事に扱っている。度々魔獣ハンターなんかが小遣い稼ぎにコララを狩りに来るらしく、その為に自警団まで結成している。

 まぁそんなこんなで、みんなから大事にされているコララにあやかって、僕はコアラと名付けられた。みんなから大事にされるような人になってほしいという願いが込められているらしい。

 うん、由来はいい。話は分かる。でもさ、コアラて…… どっかの芸人かよ。


 だが! そんなことはまぁどうでもいい! 驚くのはここからだ! ミッちゃんが! 僕にあだ名をつけてくれたのだ!

 一体どんなあだ名を付けられるのだろうと僕は心配していた。前回までの流れからいくと、トンズラ→ヅラ→と来ると、カツラとかかなぁ、と内心気が気ではなかったが、ミッちゃんはなんと! 僕に「ユカリー」というあだ名を付けてくれたのだった!

 なんでもコララの好物が「ユカーリー」という植物らしく、そこからあだ名を拝借したらしい。ミッちゃんセンスある!!

てかコララってやっぱコアラなんじゃね?



    ◇



「ユカリ~! おはよ~! 一緒に学校行こっ!」


「ミッちゃん! おはよう! 今日もかわいいね!」


「も~、ユカリ~ったら、そんな冗談ばっか言ってないで早く行こっ!」


 冗談じゃないのに。

 女性に全く免疫のない僕は、速攻でミッちゃんのことを好きになっていた。あのアホ女神は顔だけはいいが、中身は悪魔のようだし、他にまともにしゃべったことがあるのは母親と姉と妹だけ。姉と妹に至っては、キモい、寄るな、氏ね、消滅して、くらいしか会話したことがない。

 そんなこともあり、こんなダメクソ人間の僕にも優しく接してくれるミッちゃんをこの僕が好きになることは必然なのであった!


 そうしてふたり仲良く学校へ登校する――――


 あぁ、楽しい。なんかもうこのままミッちゃんといっしょに大人になって、結婚して二人仲良く歳を取ってくだけで十分幸せな気がする。

 もうスキルとかペットとかどうでもいいかも。

 そうそう、言うのを忘れたが、ノーマルスキル「強化」だが、4歳くらいにスキルが発現したっぽいのだが、なにに使うのか全く分からん! 頼むからスキル説明とかが目の前にパッと表示されてくれよ! 不親切すぎるよ!

 自分の体を強化できるのかと思って、スーパーサ〇ヤ人のように「うおぉぉぉ!!!」と気合を入れてみたが、なにも起こらなかった。それ以来この強化は元々なかったものと思うようにしている。


「はぁ、疲れたね~、ユカリ~!」


「疲れてたならオンブしていってあげたのに。次からはちゃんと言ってよね! べ、別にあんたのために言ってるわけじゃないんだからね!」


「あはは~、変なユカリ~!」


 あぁ、やべぇ、ミッちゃんマジ天使。そして女の子にこんな軽口を叩ける僕。転生する前には考えられねぇ。僕マジ陽キャ。


「ユカリ~、今日の授業ってなんだっけ?」


「今日は計算と文字の練習だよ。あとは編み物と火のおこしかた」


「盛りだくさんだねぇ。でもほんと貴族様のおかげで私なんかが、学校に通わせていただけるんだから貴族様には感謝しかないねぇ」


 だねぇ――――


 ミッちゃんの家は母親とミッちゃん、ミッちゃんの妹の3人家族だ。ミッちゃんのお父さんは3年前にコララを密猟しようとした魔獣ハンターたちを追い払おうとして、ハンターの奴らに殺された。

 それまではミッちゃんのお父さんが一人でハンターたちからコララを守る活動をしていたらしいが、その事件があってから周辺の村々と協力してコララを守る自警団が結成されたというわけだ。

 ミッちゃんのお父さんはすごい人だ。ひとりでハンターに立ち向かっていったのだ。相手は複数で、魔獣ハンターを名乗るくらいだから、強力なスキルとか武器とかも持っていたに違いない。そんな相手にも果敢に挑んでいったミッちゃんのお父さんには尊敬の念しかない。

 もちろん村のみんなもミッちゃんのお父さんに感謝している。尊敬もしている。でも父親がいなくなって、母親だけになったミッちゃんの家は貧乏になった。稼ぎ手が一人減ったから当然だ。

 村の為に犠牲になったミッちゃんのお父さん、村の為に犠牲になったのだから、残された家族に村人のみんなは少しでも援助してあげればいいのに、と思った、思ったのだが、現実はそんなに甘くなかった。

 この村は近くにある鉱山から鉄鉱石などの資源を、少し離れた街まで持って行って買い取ってもらい、それを収入源としている。街までの道中には魔物もでて、街に行く途中で襲われることも珍しくない。そんな不安定な収入源に頼る村人たちに、他人のことを気にする余裕なんてないのだ。

 みんなできることならミッちゃんの家を少しでも助けてあげたいと思っている、でも自分たちの生活でいっぱいいっぱいなのだ。


 ――僕だけでもミッちゃんを助けてあげるんだ!


 そんなかんじでミッちゃんが近くの森に木のみやらキノコを採りに行く時は、一緒に行って手伝ってあげている。もちろん自分の家の分も採ってくが。マジ僕いい子。



    ◇



「はぁ、疲れた。今日もいっぱい勉強したね! またひとつ賢くなっちゃったよ。そうだ! ユカリ~、今日も裏の森に晩御飯の材料採りに行きたいんだけど一緒に来てくれる?」


「ミッちゃんさん、この僕が君のお願いを聞かないとでも思ってるの? ミッちゃんのお願いを聞かないなんてことがあるだろうか、いやない!」


「あはは~、変なユカリ~! じゃあ一緒に行こっ! どっちがいっぱい採るか競争だよっ!」


「うん! たくさん採ったほうが~、負けたほうに~、なんでも~、う、うへ、うへへへへ」


「どーしたの? ユカリ~? 気持ちが悪いの? 大丈夫?」


「あ、いや、なんでもないです。すいませんでした」


 はぁ、ミッちゃんマジ天使。それにひきかえ僕マジでゴミ屑。今までこういう時『キモッ!』しか言われたことがないから、そんな真っ直ぐな顔して返されると真顔になってしまうよ。



    ◇



 近くの森までミッちゃんとキノコやらなんやらを採りに来た。まだ昼を少し過ぎたばかりだというのに、森の中は薄暗い。木が生い茂ってるから、当然ちゃあ当然なんだけど。しばらく歩いて枯れ木に生えてるキノコや木になっている果物を採る。土やら木を触っていたせいか、指先がものすごく痒い。


「ユカリ~! すごいねぇ。いっぱいだねぇ。私も負けてられないなぁ。」


「ぐへへへ」


「変な笑い方! 変なユカリ~!」


 あ~、楽しい、こんな時間がずっと続けばいいのに……


 ――でもそんな楽しい時間は長くは続かなかった。


 しばらく森を歩いていると、洞穴に辿り着いた。はっ! こんなところに洞穴がっ! なんてことはなく、もちろんあるのは知っていた。

 この洞穴は鉱山の跡で、もう鉄鉱石が採れなくなったので、閉山されているというわけだ。僕はこの時、はぁ、こんな人けのないところで幼馴染と~、二人きり~! などとアホなことを考えていた。


 ――その時


「ごほっ、ごっ、おほっ……ぜぇぜぇ、ごっ、ごほっ…………」


 男の咳き込む声だろうか、洞穴の少し奥のほうから聞こえてきた。男がいる場所は光が届かずその姿を窺い知ることはできない。


「ユカリ~、な、なんか人がいるみたいだよ……」


「う、うん」


 ミッちゃんが不安そうな顔をして僕を見ている。だ~いじょうぶ! 僕に任せなさい! 君には僕がついているのだ・か・ら!!

 謎の自信を覗かせて、ミッちゃんにここで待っていてとお願いすると、僕はその男の様子を見に、洞穴の中へ入っていくことにした。


 これが間違いだった。いや、間違いだったのか…………


 洞穴は真っ暗で目が慣れないと何も見えない。「光よ~!」とか言って明かりを照らせればいいのだが、僕にはそんなすごい魔法はない。使い道のわからない強化と、まだ発現してもいないファイアボールがあるだけだ。

 とりあえず目を慣らして男のところに近づいていく。ただの怪我人ならいい。とりあえず応急処置をして、大人を呼んでこればいいだけだ。ちなみに僕は現世で親に応急処置の講習に行かされた過去があるのだ。泣き叫んで嫌がる僕を、無理やり親は引っ張っていった。僕は泣きながら応急処置の講習を受けた。泣きすぎて頭の中がスッキリしたのか、意外と教えてもらった応急処置の方法は身についている、ような気がする。

 話が逸れたが、問題はただの怪我人じゃなかった場合だ。犯罪を犯して逃げてきたやつ、どこかで戦闘があって、追ってから逃げてきたやつ、最後は魔獣ハンターだ。

 どうする……

 考えても仕方ない、目の前であんな呻き声出されて、見て見ぬ振りできるほど僕は人間腐っちゃいない。それにこのまま死なれたら夢見が悪しね。

 意を決して男の近くに駆け寄る。


「お、お、お、お、おじ、おじさん、だ、だ、だいじょぶ、ですか~?」


 ヘタレてしまった。もっと『おっさん! 大丈夫か!? 俺に任せろっ!』ってやりたかたのだが、人には持って生まれた器量というものがある。僕には無理でしたすいません。


「あ、あ、ご、ごほっ! こ、子どもか? ご、ごぼっ! 近くにお、大人は、いるか……」


 おいおい、なんかめっちゃ血でてない? やばくないこれ? おっさんは肩から首の辺にかけて、魔獣に爪で切り裂かれたみたいだ。肩当てのところが爪の形に抉れてる。


 ――この人魔獣ハンターだ


 くそ、どうしよう、村まで行って間に合うか…… いや、その前にこの人魔獣ハンターだ。村の人たちは当然魔獣ハンターを目の敵にしている。ミッちゃんだってそうだ。

 村の近くに人に害をなす魔獣がでた時は街のギルドまで行ってギルド公認の魔獣ハンターを呼んでくる。公認の魔獣ハンターは見た目でわかる。前に来た時に見たから覚えてる。

 このおっさんは違う。野良の魔獣ハンターだ。大方コララを狩りに来て、本物の魔獣と遭遇して仲間とはぐれたんだろう。

 あぁ、どうしたらいいんだよ、なぜか胸の奥が熱くなる。そう思っていた矢先に、洞穴の出口のほうから声が聞こえた。


「ユカリ~!どうだったの~?大丈夫~?私もそっちに行くよ~」


 ミッちゃん! 僕は急いで一旦ミッちゃんのいる洞穴の入り口まで走っていった。


「ユカリ~、心配したよぉ。どうだった? 誰かいたの?」


「う、うん、おじさんがね、怪我してて、ね……」


 ――クソなんて言おう


「え、嘘っ、それじゃあすぐに助けないと…… ユカリ~、どうしたの? そんな顔して……」


 え、僕どんな顔してた? わかんない、けど、僕は意を決してミッちゃんにおっさんの事を打ち明けることにした。


「あのね、ミッちゃん、落ち着いて聞いてね。中にいたおじさん、たぶん魔獣ハンター、みたいなんだよね。そ、そんでさ、たぶん、たぶんだよ、コララ狩りにきて他の魔獣に、襲われたみたい、なんだよね」


 ミッちゃんの顔が一瞬真顔になる。こんな顔のミッちゃん初めて見た。いや、そりゃそうだよね。ミッちゃんのお父さんを殺した奴らとおんなじ魔獣ハンターだもん、仕方ないよ。

 ミッちゃんは口元をグッと噛み締めている。そして目もギュッと瞑って、今にも泣き出しそうな、怒っているような、悲しいような、苛立っているような、なんて形容していいのかわからない顔……

 僕はどうしていいのか分からずオロオロしていた、でもミッちゃんは強かった。僕より強くて大人だった。なんでだろ、胸がギューっと締め付けられるみたいだ。


「ユ、ユカリ~、た、助けなきゃ、ね。だって、そのおじさんにも、子ども、いるかも、しれない、もんね」


 肩を震わせながら目に涙を浮かべながら、一生懸命話すミッちゃん。君はすごいよ。僕にはできない、うん、君みたいにできない。僕は君を心から尊敬するよ。


「よしっ! ミッちゃん! 急ごう! おっさん血を流してたんだ。だからとりあえず止血しないと! この辺に血が止まる薬草生えてたよね? ミッちゃん採ってきて!!」


「う、うん! わ、わかった!!」


 そう言ってミッちゃんは森のほうへ走っていった。

 もうなるようにしかならないね、これ。結果がどうであれ、目の前で人が死ぬのは嫌だもんな。

 僕は急いで洞穴のおっさんのところへ駆けつける。おっさんはさっきより呼吸が荒い。てかどうすればいいんだ、これ。止血して助かるレベルなのか?

 今から村にもどっても多分間に合わないだろう。なぜか直観でそう思う。

 死にそうなおっさんの目の前でオロオロすることしかできないでいると、止血の薬草を採ってきたミッちゃんが僕に薬草を渡してこう言った。


「ユカリ~! これ! 薬草、止血のっ! これ潰して! その辺の、石かなんかで! 急いで!」


 ――う、うん、わ、わかった!


 僕はミッちゃんに言われるがままに薬草を一心不乱にすり潰した。森でキノコとかを採ってた時から指先が痒くて、掻き過ぎて今度はものすごく痛くなってきたが、そんなことお構いなしですり潰す。ミッちゃんは走りながらすり潰してきたのか、すでに潰した薬草を傷口に塗り込んでいる。


「ぐ!ぐあぁっ!!!ぐごぉおあぉおっ!!!ゲ、ゲゥエェ!!」


 おっさんの悲鳴が洞穴内に響き渡る。そりゃ痛いよな。傷口に薬草練りこまれてるんだもん。でもちょっとくらい我慢しろよ。おっさんの自業自得だろ。

 汗をダラダラ垂らしながら、傷口に薬草を塗り込むミッちゃんにすり潰した薬草を渡す。僕だったら人の血を触るのでも抵抗がある。ましてや傷口なんて以ての外だ。でもミッちゃんは違う。ミッちゃんはすごい、僕の幼馴染はすごいんだ。


「お、おじさん、が、頑張って! 目ぇつぶっちゃダメ! 死んじゃダメ!!」


 涙を流しながら懸命に薬草を塗る。でも明らかにおっさんの状態はやばそうだ。さっきまでゼェゼェ聞こえてた呼吸も小さくなっちゃって、叫び声もほとんどしなくなってる。


「やだ、やだ、なんで、なんで! 私がもっと早く、ユカリ~ばっかに押し付けないで一緒に来てたら、私が怖がってたから。おじさん、お願い、がんばって……」


 ――お願い、頑張って!! 諦めないで!!!


 ミッちゃんが洞穴の奥深くにまで届きそうな大声でおっさんに叫んだ時、予想外のことが起こった。


 ――――――うるせぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!


 え?


「さっきから黙って聞いておれば、人のうちでギャアギャアうるさいんじゃあ! クソガキどもはさっさと出て行かんかい!!」


 シリアスな展開から一変、なぜか突然怒られた。


 ――あ、あの~


「あ!? なんじゃ! わしゃ寝とるんじゃ! この時間はわしはお昼寝タイムなんじゃ! わしは寝起きが悪いんじゃ! さっさと帰れ! 石にすんぞ!!」


 ――あ、あの~


「だからなんじゃ! あ? ん? なんじゃ? そいつ」


 やっと怪我人に気づいてくれた。しかしなんなんだ、この人。頭からつま先までスッポリ布みたいなの被って。変人かな? いや、でも大人だ! なんとかならない、か……

 もう今にも息を引き取りそうだし、今大人が一人来たってなんの役にも立たないよな。


「なんじゃ、怪我しとるんか。ちょっと待っとれ」


 布の人はそういうと胸の辺りに手を突っ込んでなにか紙のようなものを取り出した。


 ――ハイ・ヒール


 布の人がなんか言うと、おっさんの周りが眩い光に包まれた。するとおっさんの傷口が見る見るうちに塞がっていく。


「ほれ、もういいじゃろ。さっさと帰れ! わしゃ機嫌が悪いんじゃ! あ、そいつ傷は治ったけど、体力落ちとるから休ませんとポックリ逝ってしまうからの。用が済んだら帰れ!」


 機嫌が悪いと怒りつつ、おっさんの傷を治してくれた。笑いながら怒るどっかの芸能人みたいな器用さだなぁ。


「あ、あぁ、ありがとう、ありがとうございます!」


 ミッちゃんは泣きながら布の人に何度もお礼を言っている。僕も一緒になってお礼を言った。布の人はわかったから! わかったから帰れ! と面倒くさそうな顔をしながら奥のほうに帰っていった。

 あ~、行っちゃった。

 とりあえずおっさんをどこか休めるところに連れていくか。でもそんなとこ思い当たらない。しゃーない、村の大人に理由を話して、なんとかしてもらうしかない。

僕たち子どもだけではどーにもならないこともあるのだ。

 そしてミッちゃんと二人でおっさんを引きづって、洞穴の外まで出た。


「ミッちゃん、僕村に行って誰か大人連れてくるから、ここで待ってて!」


「うん…… 早く戻ってきてね」


 あ~、不安になってるミッちゃんも可愛いよぉ。いや、こんなこと言ってるばやいじゃない! 急がないと! もうすぐ日も暮れてしまう。

 村に帰った僕は、村一番のご長寿おばあさんキャロルに理由を話し、他の大人の手を借りれるように話をしてもらうことにした。多分子どもの僕が直接他の大人に話しても、話を聞いてもらえないだろうし、魔獣ハンターだってことで余計ややこしくなりそうなのは目に見えてる。

 その点キャロルばあちゃんは子どもの話もちゃんと聞いてくれる。突拍子もないようなことでも真剣に、だ。

 案の定キャロルばあちゃんは親身になって僕の話を聞いてくれた。森に木の実やキノコを採りに行ったこと、洞穴を見つけたこと、洞穴の中に魔獣ハンターが魔獣に襲われて怪我をして横たわっていたこと、でも、布の人のことはとりあえず黙っておいた。

 あんな洞穴で人知れず隠れて住んでるんだ。多分筋金入りの引きこもりだ。僕がそうだったからわかるのだ。あの布の人からは僕と同じおいにーがした。


「コアラや、あの洞穴に、だれか住んどりゃせんかったか?」


 ――!?


 マジ? ばあちゃんなんか知ってるの? 思わずめちゃくちゃキョドる僕を見て、キャロルばあちゃんは、「そうか、そうか」とだけ言って笑った。



    ◇



 そこから先はトントン拍子に事が運んだ。

 もちろん魔獣ハンターってことで、そのまま雨曝しにしとけという人もいたが、大多数の人が人の命にいいも悪いもないと言って、おっさんを運ぶのを手伝ってくれたり、寝床を手配してくれたりした。

 おっさんは教会の一室で休ませてもらうこととなり、一先ず一件落着になった……


 ――――ように見えた。



 でも一人だけ、どうしても許せない、という人がいた。



 ――――それはミッちゃんのお母さんだった。





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