第50話 彼の贖罪

 ――どうして女神様がここにいるんですか!?


 ロベリア、なに言ってるんだ!? め、女神? このホウライって女が? いや、こいつは魔人なんだろ? 女神なんて、そんな……


「久しぶりだね。ロベリア。人形はちゃんと動いているかな? 君にはつらい思いをたくさんさせてしまった。本当に申し訳ない」


 ど、どういうことだ? ロベリアの人形のことも知ってるのか? くそ! 頭がこんがらがる。理解が追い付かない。


 アタフタしている僕を見てホウライはなにか思うことがあったのか、ロベリアに対して話しかける。


「ロベリア、君、レット君にはまだ言ってなかったのかね? う~ん、そうか、じゃあこのことはまたあとで話そう。君も私が何故此処にこうしているのか理解できていないだろうしね。とりあえず今真っ先に話さなくてはいけないのは…… イゾウちゃんのことだろうからね」


 ロベリアはホウライの言葉にうんうんと頷く。僕としては話が全く見えない。でも確かにホウライの言う通りだ。今はイゾウ氏のことが先決だろう。


「まぁ結論から言えば彼は元の世界に戻ることに失敗した。イゾウちゃんをこの世界に転生させた女神にはもう彼を日本へ戻す力は残ってなかったんだよ」


 イゾウ氏をこの世界に転生させた女神? 僕の転生の時のエストリエさんとかみたいに、イゾウ氏にも彼を転生させた女神がいるってことか。

 で、でも戻す力が残ってなかったって、どういうことだ?


「まぁ、順を追って話そう。今回君たちが部長と慕うフィガロ君、だったかな? 彼女の持つ闇の刻印は異世界と異世界を繋ぐ中継地点、と言ったほうがわかりやすいかな、そこへ送る為の装置だったんだよ」


 ――その中継地点の名前は「ロストルーム」


「そこは何もない真っ白な部屋だ。転生者は誰しも転生前にその部屋へ通される。そしてそこから様々な異世界へ送られるわけだ。たまたま君たちは同じ異世界へ送られたわけだね」


 ん? 君たち? 僕とイゾウ氏のことを言ってるのか?


「闇の刻印でそこへ送られたイゾウちゃんは彼を担当していた女神フォルトナと会ったのだが…… まぁさっきも言ったとおりフォルトナにはそんな力はもう残ってなかったんだ」


 フォルトナって人が女神なのか? 僕の時と違う人なわけか。てか女神ってたくさんいるのか? で、でも力が残ってなかったってどういうことだ?


「レット君、先ほどロベリアが私のことを女神と言っていたが、それは本当だ。私は女神だった。だが力を失って人間に落ちたのだよ。だから今の私は人間だ。まぁ巷では絶望の魔人なんかと呼ばれているがね。どうせなら愛の魔人にしてほしかったものだ」


 はあ!? 女神が人間に落ちる!? なんじゃそりゃ…… あ、でもそれなら父ちゃんがこのホウライって人をあんなに恐れてたのも分かる話だ。

 でも話がぶっ飛びすぎてて訳わかんねえぞ。


「で、イゾウちゃん、もう気は済んだかな? いい加減諦めなよ。今回の件が成功するかは私も半信半疑だった。彼女に力がほとんど残ってないことも薄々気づいていた。それでもやると言ったのは君だ。もういいだろ? 君にはこっちに家族も、親しい友人もいるじゃないか? 何故そこまで日本へ帰ることに固執するんだ?」


 膝をついたまま項垂れるイゾウ氏が重い口を開いた。


「ワシには、ワシには、日本へ帰ってどうしてもやらなきゃならんことがあるんだ! ホウライ! お前さんには何回も言っただろうが! ワシが犯した過ちを…… もう元に戻すことは叶わんとしても…… それだけはワシが生きて向こうでしなきゃあならんことなんだよ!」


「もちろん何回もその話は聞いたさ。君が後悔し続けているのも知ってる。だがそれだけ懺悔の意識があるんだ。もう十分だろう。いい加減楽になれ。いつまでも十字架を背負う必要はないんだよ」


 一体なんの話をしてるんだ? それがイゾウ氏が日本へ戻りたい理由? イゾウ氏が犯した過ち…… 僕には全くわからない話だ。


「とにかく…… 日本へは戻れんことはわかった。たくさんの人に迷惑を掛けたな。フィガロ君にはすまないことをした。ワシの都合で彼女を傷つけてしまった。あとでちゃんと償わせてもらうよう、今頃ワシの秘書からフィガロ君の御父上へ話がいっとる頃だろう。そして、レット君、君にも色々と迷惑を掛けてしまった。同じ転生者としてもっと話がしたかったな。でも遅すぎた。ワシは罪を償う。すまん……」


 そういって彼が右手に持っていたもの――


 ――それは一丁の拳銃だった

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