第51話 最悪の結末

 彼の右手に握られているもの、当然実物なんて見たことはないけど、多分、いや、間違いなく本物だろう。

 何故この世界に拳銃があるのか、全く理解不能だが、現にイゾウ氏の右手にはそれがある。


「イゾウちゃん、それは何だい? なにかは分からないけど、よくないものだってことは分かるよ。フォルトナにもらった力で作ったんだね」


 フォルトナにもらった力? なんだ、それは。


「あぁ、これは拳銃といってな、まぁ魔法みたいに人を殺せる武器だ。ニューナンブだったかな。朧気なイメージで作ったものだが、まあ殺傷能力は十分だろう」


 イゾウさんそんな物騒なもん持って、一体どうする気なんだよ。

 頭の中に最悪の結末が浮かんでくる。


「レット君。すまんかったな。もっと早く君と会えていたら色々と話をしたかった。じゃが少し時間が足りんかったわ」


「そんな! 時間なんてまだたくさんあるじゃないですか! イゾウさんお元気そうだし、もっと日本のこととか、こっちの世界のこととか、聞きたいことがたくさんあったのに!」


 イゾウ氏はすまん、じゃが無理だ、と言って銃口をコメカミに当てる。


「レット君、君の生まれるずっと前の話じゃから知らんかもしれんが、ワシが死んだのはある列車事故が原因だったんじゃ。ワシは当時列車の運転士をしとった。事故当日ワシは寝不足でな、まぁそれで居眠りをして…… ワシの運転ミスが原因でたくさんの乗客が犠牲になったんじゃ」


 イゾウ氏はその事故を生涯悔やんでいて、事故で犠牲になった人たちの弔いをするために日本へ帰りたかったそうだ。でももうそれができないと分かった今……


「ホウライ、すまん。子どもたちに汚いもんを見せたくない。皆を外に連れて行ってやってくれんか?」


「イゾウちゃん…… 本当にいいんだね? 君の決意は固いようだから私は止めない。でも最後によく考えてごらん。いいのかい?」


 イゾウ氏は黙って頷いた。そして一言……


 ――決意は変わらんよ


 そう、とホウライが答えると、僕らは部屋の外へ連れ出された。何故か抵抗する気にはなれなかった。

 自死を肯定する気なんてさらさらないけど…… 彼に僕がなにか言う資格があるのか…… わからなかった。


 部屋を出て暫くして、イゾウ氏と17ガーベラの3人を残した部屋から


 ――パーンという乾いた音が聞こえた。



    ◇



「ごめんね、君たち。こんな結末も想像はしていたんだが…… 実際なってしまうとなんて言ったらいいか…… 言葉がでないね」


 ホウライがそう言ってタバコに火をつける。


 ホウライは暫く黙った後、イゾウ氏のことを教えてくれた。

 彼は前世で死んだ後、この世界に来た時に女神フォルトナにスキルをもらった。

 そのスキルは想像したものを作り出す力。回数は10回。

 彼はこの世界に来てすぐに列車事故の犠牲者を追悼する慰霊碑をスキルで作ったそうだ。列車事故で亡くなった人達の名前は当然分からないから名簿もなにもないまっさらな慰霊碑。

 彼は2度目の人生でこの世界にそれまでなかったものを色々と作り出した。女神からもらったスキルを使って。

 そしてある時この世界から、元いた世界へ戻れるかもしれない方法をどこかから聞いたらしい。その方法を詳しく調べる為には資金が必要だった。だから彼は自分が興した企業をどんどん大きくしていった。

 でも結局その方法に必要なものはすぐ近くにあって、しかもそれはもう手遅れだったわけだ。

 彼は残しておいたスキルの最後の1回で拳銃を作り出した。

 多分彼はこうなることをある程度は想像していたのだろう。


 なんだろう。この後味の悪さは。

 僕になにかできたんだろうか。多分なにもできなかったんだろうけど……


 ――歯がゆさだけが残った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る