第52話 ホウライからの贈り物

 別荘の外にあったベンチにロベリアとふたりで座る。

 外に出ると空は曇天模様。今にも雪が降りだしそうだ。


「私達なんにもできなかったね」


 ――うん


 ロベリアが言う。返事しかできない。なんて言ったらいいか分からない。しばらくの沈黙の後……


「あ、そういえばさ! レットも転生者だったの?」


 ロベリアの突然の質問に驚く。あ、そっか、イゾウ氏が僕を転生者って言ってたの聞いてたんだな。

 あ! そういえばロベリアはホウライと知り合いだったんだっけ。てゆうかレットも、ってことは……


「え、もしかしてロベリアも転生者なの!?」


「う、うん、実は…… そうなの。で、でもこんなこと話しても信じてもらえないって思ってて…… いつか言おうと思ってたんだけど……」


 僕だってそうだ。転生なんて普通信じてもらえる話じゃない。僕なんて多分今回のことがなかったらロベリアに僕が転生者だなんてきっと言わなかっただろう。


「あたしね、向こうでは溝隠みぞかくしルリって名前だったんだ。そんでね、向こうでもね、友達とかひとりもいなくってさ、本当にレットと友達になれてうれしかったんだぁ」


 それから僕らは向こうでどうやって暮らしてたのかとか、転生してきたときのこととか色々話した。

 ふたりがどうやって死んだかとかも……


「うち親がおかしくってさ、ま、あたしも普通じゃなかったと思うんだけどさ、世間体ばかり気にする家庭で、でも家の中はめちゃくちゃで、いっつもヒステリックに怒鳴ってくる母親と外面はいいのに家の中ではめちゃくちゃ殴ってくる父親でさ」


 ある日ロベリアが母親に反抗した時に母親は「失敗した」と言って、その日の夜なにかしらの薬物を盛られて母親は無理心中を図ったそうだ。

 父親と母親がどうなったかは分からない、別に知りたくもないし顔も思い出したくもない。彼女は寂しそうな顔をして言った。


 なんだよ、それ。そんなんあんまりだろ……

 ロベリアの話を聞いて、自分がどんだけ甘えてたか、自分がどんだけ矮小な人間なのか思い知らされた。


「ロベリア! ずっとつらいことばっかりだったんだね、でもこれからは僕がいる! 楽しいこともこれからたくさんある! 魔術同好会のメンバーだっている! ロベリアはひとりじゃない! 僕がずっと一緒にいるから!」


 そう言うとロベリアは大粒の涙を流して泣き出した。人目もはばからず、大きな声を出して、僕に抱き着いて……


 泣いたらいいんだよ。今まで我慢してきたんだもんね。涙が枯れるまで泣きなよ。僕はずっと君の隣にいるから。



    ◇



 しばらくしてロベリアは落ち着いて、「ごめんね~。こんなに泣いたの初めて」と言って笑った。本当に強いな、この子は。


「ロベリア、泣いてすっきりしたかい? つらい時は誰かにその気持ちそのままぶつければいい。君の女神だったのにその役割を全うできずすまなかったね。でももういいかな? 君のことを理解してくれる友達もできたみたいだし」


 ロベリアの頭を撫でながら優しく語り掛けるホウライ。


 笑いながら「うん!」と頷くロベリア。やっぱり彼女には笑顔が一番似合う!


「じゃあなんかあれですけど、屋敷に帰りますか?」


「そだね、悲しくてもおなかは空くしね。屋敷に帰ってなんか美味しいもんでも食べよう!」


 ふたりで右手を天高く上げてお~! と声を上げる。

 屋敷へ帰る準備をしようとしているとホウライが僕に近づいて来た。


 そして僕の顔と彼女の顔はほんの30センチ程度の距離になる。


「え、え? なに? 僕の顔になにかついてる?」


 ホウライの真っ黒くて輝きのない瞳に見つめられ、思考が停止する。 

 次にホウライの口から出た言葉に、僕は彼女がなにを言ってるのか理解ができなかった。


 ――君魂が混じってるね。


 は? なにいってんだ、この人。


「私は魂の形が見えるんだ。君の魂は何人もの魂を寄せ集めたみたいになってる。なんなんだこれ? こんなの初めて見たよ。気になるね」


 ホウライはニヤリと笑い、なにか閃いたのか、手と手をぱんっ!と叩いた。


「そうだ。君にいいものを上げよう。私からのプレゼントだ。いいかい、痛くしないからジッとしてなよ」


 ホウライはそう言うと、僕の首すじに腕を回し、抱き着いてきた。


「え、え、なにしてんですか!? ちょ、ちょっと!」


 めっちゃいい匂い、じゃなくって! こわっ! 何この人、怖いんですけど!


 そして彼女は僕の首すじをベロりと舐めだした。

 ひぃぃぃぃぃ! なにこれぇぇ! なにしてんのあんた! は、恥ずかしいんだけどお!


「はい、完了」


 え、え、なにしたの? すんごい怖いんですけど。


「なあに。君と私とで回線を繋いだのさ。私は17ガーベラってチームを持ってるんだが、あれは皆私が作った人形だ。それに命を吹き込んだ。メンバーは現在8体いる。ちなみにロベリアに7体分譲渡したから私が使役できるのは10体分だ。全部作ってないのはなにかあった時の為なんだが……」


 なんか話が荒唐無稽すぎて理解が追い付かないぞ。でもあれか。ロベリアがメイドさんとかを使ってるのとおんなじヤツってことか。なるほど! ロベリアはこの人に命を吹き込む能力をもらったってわけか! 合点がいった!


「それでだ。君にはこの17ガーベラと繋がることができるようにしてあげた。因みに私ともだ。17ガーベラの中で優先順位はあるんだが、私と君は同格だ。君がメインにもなれる」


 ん? どゆこと? 僕の足りない頭ではいまいち理解できないんですけどぉ!


「あぁ、まぁ制約はあるが君が17ガーベラの体を動かせるってことだ。ある程度近くにいないといけないがね。離れていても視覚共有はできる。話すこともできる。つまり君が私の体を使うこともできるというわけだ。まぁ逆も然りだがね」


 え、それってすごいことなの? よくわかんないけど、まぁいいか。もらえるもんはもらっとくか。

 一通り説明を聞いて、納得? したのかしてないのか自分でも分からないが、この場はお開きにすることになった。

 さぁ、屋敷へ帰ろう。温かいスープが飲みたい!

 まだ気を失ったままの部長はホウライが屋敷へ送ってくれるそうだ。部長、早く元気になってくれ!


 そして僕とロベリアは駅へ向かって歩き出す。


 別荘を離れてしばらく歩いていると、突然後ろから声を掛けられた。


 ――紫くん


 え、な、なんであなたがここに!?


 そこに立っていたのはもう何回も見慣れたあの「なにもない部屋」で出会った女性。


 曇天だった空からは真っ白な雪がパラパラと降り始めてきていた。

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