第53話 6度目の死の足音
「紫くんお疲れさまでした」
そこには今回の転生前、あのなにもない部屋で会った女神が立っていた。
「え、なんでレミアラさんがここにいるんですか!?」
全く予想もしていなかった来訪者に驚きを隠せない。
ROSEも付けていないのに、彼女はこの世界に顕現している。どういうことだ? でもたしか前にリリムさんもやってたし、やっぱりやってやれないことはないってことか。
「本当に大変でしたね。イゾウさんのことはわたくしも存じておりました。彼の願いが聞き届けられずに本当に残念です」
なるほど。レミアラさんもイゾウ氏のことは把握してたのか。てか女神って皆知り合いなのか? ホウライも元女神って言ってたし、皆面識があるのか?
あ、そうだ、さっきROSEを使った時リリムさんが出てこなかったこと聞いたら教えてくれるかな?
「ねぇ、レミアラさん、さっきROSE使ったらさ、リリムさんがでてこなかったんだけどどうかしたんかな?」
「えぇと、彼女は今エストリエと旅行に行っておりまして。不在だったので顕現できなかったのだと思います」
あんのヤロー! あんな一大事の時にのんきに旅行なんか行ってんなっつーの! そりゃまあ、誰しも休息は必要だけどぉ……
てゆうかレミアラさん何しに来たんだろ?
「紫くんわたくし色々と考えたのです。今回の転生前、あの部屋で紫くんとお話した、わたくしたちが全力でサポートするという件で……」
はぁ……
はっ! こんな話ロベリアに聞かれてもいいんか!?
「ちょ、ちょっと! レミアラさん、こんな話ここでしてたらまずいでしょ!」
レミアラさんにそう言ってロベリアのほうを向くと、どうも様子がおかしい。ん? 目を開いて片足を上げたまま止まってる? なにしてんの、あの子。
しかもなんか周りから音がしない。さっきまで鳥も鳴いてたのに……
「心配しなくても大丈夫ですよ。時間を止めてありますので、ここで動けるのはわたくしと紫くんのふたりだけです。他に女神がいればその限りではありませんが」
す、すげえな! 女神のパワー! そんなんできるんだったら無敵やんけ! その力僕にくれりゃあいいのにぃ!
「話を戻しますね。それでですね、ええと、言いにくいのですが、紫くんが12歳の壁を超えるには、もうわたくしが直接あなたを手助けしなくてはいけないと思うのです」
え! マジで!? そりゃめちゃくちゃありがたいっす! つーことはこれからレミアラさんがずっと僕に寄り添っててくれるってことなんか?
「それでですね、色々方法を考えたんですが、やはり選択肢はひとつしかないという結論に至ったんです」
「え? どんな方法なんです?」
なんだろ? あ! レミアラさんROSE無しでも顕現してるからロベリアの屋敷になんか理由つけて住み込みしてくれるとかか? うーん、スーパー美少女とムチムチママみ全開女神様との同棲生活! たまらんぜえ!
「わたくしのことを信じてくれますか?」
ん? どゆこと? 意図が見えないんだけど。
「え、えぇ、もちろん! レミアラさんが女神の中で一番まともそうだし! あ、リリムさんには言わないでね。あの人怒ったら怖そうだし」
『よかった……』 彼女はそう言うと、僕をそっと抱きしめた。それも僕の顔を胸に沈めて。あぁ、暖かい。なにこれ? マシュマロ? あぁ、すんごい甘い香りがする。あぁ、この世にこんな天国みたいな装置があったのか。もう死んでもいいかも。
僕はその後リリムさんにこんなとこ見られたらめちゃくちゃ怒られそうだな、なんて考えていた。あの人チャラそうに見えてなんか意外と貞操観念堅そうだしなぁ、なんて。
この後あんなことが起こるなんて……
全く想像もしていなかった。今まで何回も死んで来たけどそれは僕が弱いせいであって、周りの皆は僕を助けてくれてて…… でも何故かその時、転生前、高校の授業の時、プリントを取りに教壇にいる先生のとこまで行って戻ってくる時にわざと足を出してコケさせようとしてきた連中、何故だか分からないけど、ふとそいつらのことが頭に浮かんだ。
「紫君、ごめんなさい……」
――ゴフッッッ
「え? なんで?」
突然背中に激痛が走った。彼女に抱かれたまま。甘い香りにボンヤリしていた頭が一瞬で覚醒する。でもなにが起こったのかは理解できない。ただただ背中が痛い、ものすごく痛い……
「ごめんなさい、紫君、こうするしかなかったの。でもあなたなら信じてくれるわよね?」
な、なに言ってんだこの人はぁ…… それよりもいてぇ、めちゃくちゃいてえ。何回も死んできて死ぬほどの痛みを何度も経験してきたはずなのに、今までのよりずっと痛い。
なんなんだ、また死ぬのかよ? あともうちょっとで12歳なんだぞ? なんで僕はこんな目にあってんだ? 12歳以上生きてもいいじゃんかよ!
くそっ、こんなんなら転生なんてしなけりゃよかった……
レミアラの胸の中から解放された僕はそのまま力なく地面にへたりこんだ。膝をついて、手にも力が入らない。あぁ、これ完全に死ぬやつだな……
「それではわたくしはそろそろ帰ります。時間停止を解除します」
彼女がそう言うと止まっていた時間が騒めきだす。鳥の鳴き声、木々が風で揺れる音。そしてロベリアの鼓動が聞こえてくる。
「あ、あ、あんたなにやってんのよ! レ、レット! 大丈夫!? どうしたっていうの!? 何があったっていうのよ!」
ロベリアが僕目掛けて駆け寄ってくる。あぁ、ごめんね、ロベリア。こんなとこでお別れすん嫌だよ。もっと彼女に楽しいこといっぱい教えてあげるって約束したのに…… 死にたくない……
「では失礼いたします」
「ちょっと待ちなさいよ! あんたがやったのね! あんた何なのよ! 絶対許さない! お前だけは殺す! 私は絶対お前を殺す!」
「そんなに強い言葉を使うものではありませんよ? 言葉はあなたに跳ね返ります」
レミアラがそう言うと、ロベリアが胸を押さえて苦しみだした。
――あ、あがっ、グッッ、ごふっっ……
え、なんでだよ、なんでロベリアがそんなに苦しんでんだよ! 彼女は関係ないだろ! 僕だけでいいじゃんかよ。なんなんだよ……
――おい、お前殺すぞ……
レミアラに対して本気で殺意が沸いた。僕は別に死んでもいい。でも彼女に手を出されたのだけは許せなかった。
「ゆ、紫くん、落ち着いて。彼女は死んではいませんので…… 大丈夫ですので。紫くん、わたくしのことをそんな目で見ないで……」
彼女はオロオロしたかのような表情を見せてその場から消え去った。
ロベリアは未だに上着がくしゃくしゃになるくらいに胸を掻き毟って苦しみ悶えている。ロベリア、大丈夫? 僕が助けるから…… なんとかロベリアに手を伸ばそうとするが、あと数センチ届かない。
ロベリア…… ごめんね……
そうして僕の意識は深い闇の底へと落ちていった。
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