第49話 旧知の仲

 別荘の扉を開けるとすぐにゴージャスなエントランスがあり、美しい絵画や見るからに高そうな壺に入った造花が飾ってある。飾ってある絵画たちは前回来た時とは変わっていて、季節ごとにその時々に合うものが飾ってあるのだろう。

 馬鹿デカい広さのエントランスの端にはテーブルとソファが置いてある。この別荘に来たお客さんがお茶をできるように配置されたものだ。


 そこに男がふたり座っている。


「君らがあの子どものご友人かな? デカ、こっぴどくヤラれたみたいじゃないか」


「うるさいわね。この子手加減ないんだもの」


 ふたりのうちの男ひとりが女に軽口を叩いている。デカってのは女の名前か?

 でも別荘の中に入れたのはいいけど、ここからどうする? 椅子に座ってる奴らも見るからに強そうだし。強行突破なんてできるんか?


「ええと、レットとロベリアだったかな? 強行突破しようとかは思わないほうがいいよ。ロベリア、君の『悪意』も無敵ってわけじゃないからね。君を無力化する方法はいくらでもある」


 み、見透かされてた…… しかもロベリアに攻撃する方法があるのか? ブラフで言ってるようにも見えないし。

 立ち上がって喋っている男。めちゃくちゃデカい。身長は2メートル近くはあるんじゃないか? 相手3人はお揃いの黒のスーツに身を纏っている。

 そのふたりの後ろに隠れるように、夏にこの別荘で僕らの面倒を見てくれていたあの人が立っている。


「なんであなたがここにいるんですか!? あなたもグルだったんですか?」


 そこにはこの別荘の執事カルラが立っていた。


「申し訳ございません、レット様、ロベリア様。ですが私は大旦那様に雇われた身。大旦那様のご命令は絶対なのです……」


 くそっ、なんなんだよ。じゃああんたのご主人様が殺せって命令すりゃあ殺すってことかよ。


「はい、はい、わかりました。えぇ、ふたりはこの屋敷の中にいます」


 男のひとりが壁に向かって誰かと話している。さっきのデカといい、一体なにをしてるんだ? こっちの世界にもインカムみたいなもんがあるのか? でもそんなもんあいつらの耳には見当たらないし……


「君たち、待たせたね。終わったそうだ。我らのボスが待っている。来たまえ」


 座っていた男は立ち上がり僕らにそう告げる。終わった? 部長は無事なのか? イゾウ氏は…… 日本へ帰ったのか?

 そしてこいつらのリーダー、ホウライとかいう人物。父ちゃんがあんなにまで戦うなと言っていた相手。どんなヤツなんだ? 


 僕らは前回訪問時、夕食で使われていた部屋の扉をゆっくりと開けた



    ◇



「ボス、お疲れ様です。やはり…… 結果は予想通りだったんですね……」


 そこにいたのは他のメンバーと同じ黒のスーツに身を纏った女性。見るからに只者ではない雰囲気を漂わせている。

 髪の毛は後ろに1本に纏めて縛っていて、身長はデカよりも少し大きい。


 彼女がこの世界で最古の魔人「絶望の魔人」と呼ばれている人物なのか。


「やぁ、初めまして。レット君、だったかな? 私がホウライだ。あの子は元気にしているかな?」


 あの子? あぁ、父ちゃんのことか。しかし父ちゃんをあの子呼ばわりして、この人一体いくつなんだ? どう見ても20代中頃くらいにしか見えないんだが。


「そ、そんなことより部長は無事なんでしょうね!? そ、それにイゾウさんは……」


「あぁ、心配せずとも君らのご学友は無事だ。相当疲弊はしているがね。数日休めば問題なく日常生活を送ることができるだろう。イゾウちゃんは…… どうだろうね」


 そう言う彼女の後ろを見ると、膝を地面につけ、項垂れているイゾウ氏が見える。

 やっぱり日本へ戻るのは無理だったのか……


 その時ふとロベリアの方を見ると彼女は顔面は真っ青になっていた。

 額から汗が滴り落ちて、腕で両肩を押さえて震えている。ロベリア、ど、どうしたんだ?


「な、なんであなたがここに…… ど、どういうことなんですか!?」


 え、ロベリアとホウライは知り合いだったのか?


 そしてロベリアの口から出た言葉は予想だにしない言葉だった……


 ――どうして女神様がここにいるんですか!?

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