第111話 人質

 ――アーテーじゃ


 彼女が口にしたもうひとりの被告発者。ヤツは前回の転生で僕らを襲ってきた、デカを殺した張本人、敵か味方かで言えば敵だ。

 ホウライを貶めようとした犯人はホウライと一緒にアーテーも標的にしていた? どういうことだ? てっきり僕はアーテーが今回の首謀者だと思っていた。


「そうか、私の妹、アーテーも標的か。ありがとう、ユピテル。今回の私を貶めようとする首謀者を見つける為の参考にさせてもらおう」

「うんうん、いっぱい感謝するといい。この素晴らしい神ユピテル様にな。あっ、そうだ、お前の潔白を証明する期間を決めんといかんなぁ。うーん、どうしよっかなぁ、いつまでにしよっかな~」


 アーテーがホウライの妹!? そんなの初耳だぞ。いや、それよりもホウライの改変が無しになったわけじゃないんだ。これから今回の騒動の首謀者を見つけなければいけないんだ。

 期間か、長ければ長いほうがいいけど、1週間か? いや、それじゃ短すぎる、できれば1か月は欲しい。


「そうじゃの~、う~ん、よっしゃっ! 決めたぞい!」


 ごくり……


 ――4年じゃ


「4年間待ってやる。その間にお前の身の潔白を証明せい。最初5年にしようかと思ったけど、意地悪してやったわい。はっはっはっ! どうじゃ! 恐ろしいか!?」


 よ、4年も!? そんな待ってくれるんか!? そんだけあればなにか対策も立てれそうだし、ホウライを貶めようとした犯人を捜すのも可能なはず! よっしゃ! これで勝つる!


 ――た~だしっ!


 ん? なんだ? まだなんかあんのか?


「ホウライ! お前ん中でこっち見とるソイツ! ソイツ置いてけ! 人質じゃい!」


 はあ!? な、なんで僕がいるのがバレたんだ!? い、いや、それよりも人質って……


「分かった。この子はここへ置いていこう。可愛い私の知り合いだ。優しくしてやってくれ」


 え…… ホ、ホウライさん、マジっすか。置いてっちゃうんですか? 僕どうやら見捨てられちゃうみたいです、捨てメラニアです。

 僕はすぐさまホウライから取り出され、ユピテルの眼前へと放り出された。神を前にしたらヤバいことになるって脅されていたけど、これと言って特に何の変化もないみたいだ。


「なんじゃい! メラニアじゃったのか! おっ! 可愛いのう! よしっ! 今日からお前の名前はゲロゾウじゃっ!」

「いや! 名前はすでにあるしっ! なんだよゲロゾウって! センスなさすぎだろ!」


 今まで碌でもない名前になったことは何度でもあった。でもゲロゾウだけは嫌だ。そんなん完全に僕の尊厳を完全に無視してるだろっ!


「んん!? お前しゃべれるのか! ほほぅ、中々賢いメラニアちゃんみたいじゃな。そんじゃお前名前なんつーの?」


 あ、この神様も僕の言ってること分かるのか? さすが神様といったところか。


「え~っと、僕の名前はレット。他にも名前は色々あるんだけど、ここはレットでお願いします」

「ふ~ん、レットか。分かったぞい。よかったの、この超絶偉い神の人質になれるとは。ないぞ、そんな機会中々」


 う、うれしくねえっす。この神様見た目は幼女で可愛いけど、どこに地雷があるかもわかんねえし、ハッキリ言って絡みずれえ……


「ユピテル、この子の世話係に私の人形を一体置いていきたいんだが構わないか?」


 おぉ! 17ガーベラの誰かを置いていってくれるのか? これは有難い!

 しかし……


「ダメじゃ! 絶対ダメじゃ! そんなもん置いてったらレットはソイツとばっかり遊ぶじゃろうが! だからダメじゃ!」


 えぇ~、そんな理由でか…… 本当にこの神様掴みどころがない。


「そうか、では代わりにこの子のオモチャだけ置いていってもいいかい? 只のボールだ、これならいいだろ?」


 そう言ってホウライが取り出したボール。ホウライはそのボールを地面へ投げつけ、跳ね返ってきたボールをキャッチしてみせた。どうやらゴムのボールみたいだ。


「ふ~ん、まぁ? そんくらいなら許してやってもよいぞ。わしゃ優しい神様じゃからな! はっはっはっ!」

「ありがとう。少しこの子と話したいんだが、外へ出てもいいかい?」

「あ!? なんじゃワシに内緒でお話するんか!? う~ん、まぁいいか。サッサと出てけ! しっしっ!」


 ユピテルが手で出ていけとジェスチャーしている。でもホウライのヤツなんだ? あっ、一応今後のことで打ち合わせというか、すり合わせをしておくのか。

 僕らは神ユピテルのいる部屋から一旦外に出て、待っていたルーペ達に事の経緯を話した。

「ふむ、大変なことになったのう。まぁ4年間ワシらも君のサポートをしよう。ユピテルもおかしな神ではあるが、悪い奴ではない」


 優しいルーペの一言で心に一瞬の平穏が訪れる。


「レット君、頬蹴た顔をしているところ悪いが、このボールを君に渡しておく。この中には強力な魔獣が封印されている。もしこの4年間で、どうしようもない時が来たらその時に使いなさい」


 え、それって僕がボール遊びする為にくれたものじゃなかったのか? そ、そうだよね、いくらメラニアになってるとは言え、べ、別にボール遊びなんてしたくもないしね……


「分かったよ。サンキューね、ホウライ。あっ! そうだ! まだホウライには前回の転生のことについて詳しく教えてなかった! もしかしたら犯人捜しの手がかりになるかもしれないから聞いておいてよ」


 分かったと頷くホウライ。僕はそれからホウライに前回の転生時に起きた出来事、元女神ホウライとの出会い、17ガーベラとのこと、デカが殺されたこと、その相手が元女神アーテーだったこと、裏切りの魔人カルミア・ラティフォリアのことなど…… なにか役に立つ情報はないか、とにかく思いつく限りの情報を伝えた。


「なるほど。非常に参考になった。有難うレット君。そうだ、君が経験した前回転生時には17ガーベラは何人いた?」


 え~っと、何人だったっけ? 会ったことがあるのは3人だけなんだけど、たしか……


「たしか8人って言ってた気がする。何体かはなにかあった時の為に残してあるとも言ってたよ」

「ふむ、そうか。実は現在17ガーベラは4体しか作っていない。そしてまだデカという素体は作ってはいないんだ。その辺りも多少の齟齬があるみたいだね」


 そ、そうなのか。デカはまだこの時点ではいなかったのか。


「あと前回の私は17ガーベラについて詳細な情報を君に伝えたかい?」

「いや、聞いてないけど」


 そうか…… 彼女はそう呟くと、17ガーベラとは一体なんなのか、何故その存在を作成することにしたのかを語り始めた。






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