第61話 軌跡

「え!? ホウライって魔法使えないの!?」


 衝撃の事実に思わず驚きを隠せない。


「まぁ色々あってね、魔力自体はあるんだが、出力ができないと言ったらいいのかな? でも魔法が使えなくても私は強いからね。さしたる問題でもないよ」


 そ、そうなのか? 本人がそう言ってる以上僕がどうこう言うことでもないのだが。でもまさか魔法が使えないなんて…… おじさんビックリ。


「では続きを始めよう。先程と同じことをしてみたまえ」


 彼女に促され胸の前に手と手をかざし、ファイアボールを圧縮する。何度か繰り返していく内に、段々と火の球を小さくしていくことに成功した。

 さすがにその日の内には直径5センチまでは圧縮できず、結局そのサイズにまでできるようになるには、それからさらに一週間かかったのだった。



    ◇



「レット君おめでとう。ようやくファイアボールの圧縮に成功したね。では引き続き次の段階へと進んでいくこととしよう」

「おっ! ということはレッスン3ですか!?」

「なに言ってるのかな、君は。まだレッスン2の前半だよ」


 マ、マジか。もうすでに無双できるくらいの力を手に入れたような気がしてたのに…… 頂はまだ遙か遠くにあるらしい。


「次は出力した魔法のコントロールの訓練だ。そこに立ててある3つの標的のうち、私が言う通りのルートで、言う通りの的に当てるんだ」


 鉄の棒に藁かなにかを巻いたものが3本、等間隔に設置してある。どうやらこれにファイアボールを当てろということらしいが、3本の標的は僕の目の前の直線上に立っている。つまり真ん中の的に当てるにはファイアボールをコントロールして曲げなければいけないということか、え、こんなんできる気がしないんですけど……


「いいかい?手前の標的から奥に向かって、1番、2番、3番としよう。じゃあいくよ、1番の的を時計周りに1周して2番に当ててみて」


 そんなんできるかーい! いきなりハードル高すぎるわあ!


「いや、ホウライ、無理だって。てかファイアボールをコントロールする方法すらわかんないのに……」

「はぁ、情けない。今まで君に魔法を教えていたヤツはなにをやっていたんだか。まぁいい、では基礎からレクチャーだ」


 ホウライの話を要約すると、魔法には自立走行型・自動追尾型・術者操作型の3種類があるらしい。決まった動きしかできない魔法が自立走行型、標的を自動で追尾する魔法が自動追尾型、そしてファイアボールは基本的に術者が動きを操作できるタイプの術者操作型に分類される。ファイアボールは自動追尾型としても使えるみたいだが、今回は魔法のコントロールの訓練なので、自動追尾型としては扱わないらしい。


「いいかい? 出力した魔法に曲がれと念じたところで魔法は曲がらない。だからあらかじめ魔法を撃つ前に『軌跡』を作る」

「軌跡? なにそれ? 初めて聞いたんだけど」

「簡単に言えば魔法が通るルートだ。例えるなら列車が魔法、軌跡がレールのようなものかな。先に軌跡を打ってその軌道上に魔法を滑らすと言ったらわかりやすいかな」


 あぁ、なるほど、わかりやすいかも。先に魔法の通り道を作るわけね。


「そしてコントロールするのは軌跡だ。軌跡は魔力を捻出して作る、体内にある純粋な魔力と変わらないからコントロールするのも容易いというわけだ。じゃあやってみようか」


 い、いや、その軌跡の出し方がわかんないんですけどお!


「え、そうなのか? あぁ、きっと無意識に出してるんだろうね。そうだな、ではまずファイアボールを撃つ準備をしてみてくれるかな? 撃たなくてもいいからね。そして標的をイメージしてくれたまえ。撃つ直前の状態にすると標的までの直線上になにか線みたいなものが見えないかな?」


 えぇ…… 今までそんなこと意識したことないから分かんない。あ、でも目を凝らして見るとなんだか標的に選んだ手前の的までうっすら紫色の線が見えるような気が……

「なんかちょっと見えたかも。すんごい薄っすらだけど」

「よし、それが出力された魔法が帰るルート『軌跡』だ。精霊の力を借りて顕現した魔法は元来た場所へ帰ろうとする。それが軌跡。わかりにくいかな? まぁ、魔法の通り道とでも思っておけばいい。その軌跡を手前の標的を左に迂回して2番目の標的に当てるコースをイメージしてみなさい」


 うん、わかった


 僕は言われた通り薄っすら見える紫色の軌道を頭の中でイメージした。すると手前の的まで一直線だった紫色の軌道は手前の的を迂回して2番目の的へと導かれたのだった。


「おぉ! で、できたかも!」

「よし、ではファイアボールを撃ってみなさい」


 うっす!


 言われるがままファイアボールを撃つと、薄っすら見えていた軌跡に沿って、手前の的を左に迂回して2番目の的へ命中したのだった。

「うぉぉ! やったでぇ! 僕すごくね!?」

「うん、すごいすごい」


 あれ、なんか感情こもってなくない? 僕誉めて伸びるタイプなんですけどぉ!

 しばらく練習していると、最初は薄っすらしか見えなかった軌跡がかなりはっきりと見えるようになってきた。


「ねぇ、この軌跡ってさ、他人には見えないの? もし見えてたら魔法の軌道が読まれちゃうことない?」

「その心配はいらないよ。軌跡は通常、発動した魔法が通るはずだった轍だ。精霊の力を借りて放出する力だから、つまり軌跡の最終地点は発動した魔法の帰り道。だがそれは魔法をコントロールしていない状況での話だ。自分の意思で軌跡を変えた魔法の行き先は誰にも読めないよ」


 ――神だろうが、女神だろうがね……


 ふーん、そんなもんなんだね。まぁたしかにそんなヤツがもしもいるのなら、僕の未来はどうなってるのか教えてほしいわ。

 そんなこんなで軌跡で魔法をコントロールする訓練を続け、2週間くらいでかなりの精度で魔法を自由に動かせる程になった。

 魔法を撃ってから軌跡を動かすのはかなり難しく、何度も失敗したが、数をこなしていく内に次第にできるようになっていた。ホウライ曰く、レッスン1で体に入れられた球体の影響も大きいのだとか。あれのおかげで極度に集中していると体感時間がゆっくりになるらしい。要はゾーンみたいな感じなのかな。


 次はとうとうレッスン3かと思いきやどうやらレッスン2はまだ続くのだった。



 ※2024年2月8日 ホウライの軌跡についての説明内容の一部を改稿しました。

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