第60話 刻印復活!
「よし、じゃあなにからやろうかな、君ファイアボールは撃てるかい?」
ホウライが魔力向上の為の稽古を始めると言いだしてから数十分。彼女は酒を片手に僕の相手をしている。
この人もやっぱダメな人だ! 昼間っから酒飲んでんじゃねえよ! しかも僕に稽古をつけながら! ああん、もうなんで女神ってこんな変な人ばっかなの!
「一応ファイアボールは撃てるよ。昏睡前は1日に20発は撃てたと思う」
「へぇ、まぁまぁだね。じゃあとりあえず一発出してみて。出すだけでいい」
彼女に言われ僕は指先に意識を集中し、詠唱を開始する。
――苛烈なる火の精霊よ、我が求めに応じ、敵を焼き尽くす深き紅の火球をここに顕現せしめよ――
――ファイアボール!
詠唱によって僕の指先に50センチ程度の火の球が顕現する。でも出すだけってどゆこと? このまま維持してるのかなりきついんですけど。
「いいかい? その火の球をできるだけ小さくしてごらん。できれば5センチ程度の火の球にしてみてほしい。そしてそれを空中で停止されておくんだ」
は? そんなんやったことねえぞ! どうやってやるんだ?
「そんなんやったことないよ! どうやって小さくすればいいの!? てかこの態勢維持してるのだけでめっちゃきついんですけどお!」
「ふぅ、やれやれ。魔力のコントロールは全然みたいだね。とりあえず火の球を小さくするイメージをしてみて。あ、どちらかというと圧縮するみたいなイメージだね。大きなお団子をこねてこねて小さく、硬くするみたいなイメージだよ」
な、なるほど、なんとなくイメージは掴めたような、掴めてないような……
僕はホウライに言われるがまま火の球を小さくする訓練を行った。
◇
5時間が経過した。
もう辺りは真っ暗。ファイアボールはもうすでに30発は撃っただろうか。
「君要領悪いね。これだけ撃ってまだひとつも成功していないじゃないか。まぁいい。今日はもう暗くなったし、続きはまた明日だ。屋敷に戻るとしよう」
ひ、酷い言いよう! しゃあねえじゃねえかよ! そんなに要領よかったらなあ! 前世でもっとうまくやっとったわい!
あ、でも今日ファイアボールかなり撃ったけど多分20発以上撃ったんじゃね? すごくない? やっぱ昏睡状態だったとはいえ、16歳になったことで魔力が底上げされたのかな? これはうれしい誤算だぜ!
その後屋敷へ帰り、疲れた体を癒すべく風呂へ直行した。
「ふ~、いいお湯だねぇ。でも本当はもうちょっと熱いお湯のほうがいいんだけどね。明日からは45度くらいにしておいてもらおう」
え、なんであんたが風呂に入ってるんだよ! 帰んねえのかよ!
風呂場へ行くとすでにホウライが湯船に浸かっていた。どうやら彼女はこの屋敷に住み込みで僕の修行を見てくれるみたいだ。
「レット、修行どうだった? 捗った? 女神様超優しいでしょ。なんかかっこいい大人の女性ってかんじよね。ねえ、女神様、レットはいいかんじ?」
なんだよ! ロベリアの前ではこの人猫被ってるんじゃねえか!? この元女神様、僕には全然優しくなんかないんですけどお!
「あぁ、スジはいいね、レット君は。口答えしながらもなんだかんだ言うことは聞いてくれるし。お姉さんそういう子は好きだよ。あ、あとロベリア、私はもう女神じゃないのだからホウライと呼びなさい」
へ? ホウライのヤツなんだかんだ言いながら僕のこと少しは認めてくれてるのか? ちょっとうれしいかも。しかもす、好きだなんて! 僕困っちゃう!
そんなかんじで女(元男ひとり)3人でキャッキャウフフしながら長風呂したのだった。
◇
次の日、前日と同じようにファイアボールを小さくする訓練を行う。
くそ、なんとなくイメージは掴めてるのに、あと一歩足りない。なにが足りない? 全然わかんねえ。
「うーん、停滞してるね。まぁまだ二日目だから仕方がないけど、それだけ魔力量はあるのだからできそうなものなんだがね。ん? レット、ちょっと左手を見せてごらん」
ホウライにそう言われ僕は彼女の前に左手を差し出す。
「君、火の刻印が薄っすら残ってるね。ん? 水の刻印もある…… あぁ、なるほど。理解した。そういうことか……」
ん? なにがわかったんだ? 頭の上にはてなマークを浮かべている僕に向かって、彼女は突然懐からナイフを取り出し、僕の左手へ刃先を近づけた。
「な、な、なにすんだよ! 危ない! 危ないって!」
「大丈夫、ちょっと痛いけど我慢しなさい」
そう言いながら彼女は僕の指、火の刻印と水の刻印のあった指に刃先を当てた。
――痛あああ!!
刻印のあった指をナイフで切りつけられ、血が滴り落ちる。そこまで深く切られたわけじゃないけど物凄く痛い。
「ちょ、ちょっと、なにしてくれるんだよ!」
「まぁ待ちなさい」
え、え、なにしてんの!? 今度はホウライが自分の左の手のひらにナイフで傷をつけた。傷口からは血があふれ出し、何を思ったのか彼女はその血を傷ついた僕の指先に注ぎだしたのだ。
「よし、これで君の刻印が活性化される。もう詠唱は必要なくなるだろう。大方前回までの転生では刻印があったのだろ? 今回の転生では完全に継承はされていなかったみたいだが、もう大丈夫だ」
え!? てことは前みたいに無詠唱で火と水の魔法が撃てるようになったってこと!? マジか! よっしゃ! ホウライ様疑ってすみませんでしたあ!
しばらくして血が止まり、ナイフで切られた刻印のあった指を見ると、なんということでしょう、火と水の刻印がクッキリと浮かび上がっているではありませんか!
あぁ、おかえり、我が愛しの刻印ちゃん達! 寂しかったねえ、これからはずっと一緒だからね!
一頻り一人芝居を楽しんだ後、訓練は再開された。
「よっしゃ! なんの根拠もないけどうまくいきそうな気がする! おりゃ! ファイアボール!」
――うおぉぉ!!
何の気なしに出したファイアボールは直径1メートルはあろうかという超巨大火の球だった。え、どゆこと? あ、火の刻印が発現されたから威力もでかくなったかんじ?
「よし、それを手と手の間に持ってきてごらん。そしてそのまま小さく、硬く、強く、収縮させるんだ」
ホウライに言われるがまま僕は巨大なファイアボールを捏ねくりまわす。小さくなれ、圧縮されろ。
すると次第に収縮していく火の球。よっしゃ! なんかできそうだ!
だがそう簡単にはいかなかった。
30センチくらいまで小さくなったところで僕に限界が来た。え、これめっちゃくちゃきついんですけどお…… あ、あ、あ、や、やばい、維持できない……
30センチまで圧縮された制御不能になった火の球はゆらゆらと右へ左へブレ動いている。あ、あかん、これ以上抑えきれない!
――レット君、私の方に向けろ
突然ホウライにそう言われ、咄嗟に彼女のほうへ火の球を向ける。
すると彼女は何時のも如く懐からなにか小瓶のようなものを取り出し、火の球へ向けて投げた。ば、爆発する! と思った瞬間、火の球は最初からなにもなかったかのようにフッと消えたのだ。
「危なかったね。次からは気を付け給え。でも今のである程度要領はつかめたろう。もし今と同じような事態になったら川のほうに撃つんだよ、いいね?」
「え、てかホウライ、さっきの小瓶みたいなのってなんだったの?」
「あぁ、あれは魔法を打ち消す魔法を閉じ込めたものだ。なんせ私は……」
その後ホウライは全く予想していなかった言葉を放ったのだった。
――魔法が使えないからね。
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