第73話 こんなとこで死ぬわけにはいかねえんだよ!
くそっ、やっぱりでけえ。体長は約3メートルはあろうか、ゴリラみたいな体毛で毛は真っ赤に燃え盛るような朱色。頭頂部には赤い
前回こいつと対峙した時は、ルーナが一緒に戦ってくれてなんとか倒せたけど、キルスティアはどうやら攻撃魔法とかは使えないらしい。光魔法は刻印があるため得意らしいが、回復魔法と補助魔法のみ使えるという。
「も、申し訳ございません。わたくし対人、しかもアイジタニアの民には攻撃手段、といいますか、悔い改めさせられるのですが、魔獣となると……」
「しゃーない! キルスティアは僕の補助をお願い! 攻撃は僕に任せて!」
やるしかねぇ! 幸いメガアンガーは前回ほど怒り狂って辺りをめちゃくちゃにするような気配はない。とりあえず足元に飛び込んで一撃をくれてやる!
なんとか足元に滑り込み、亡骸を一撃ぶち込む。
――えっ!?
亡骸をメガアンガーの右足に一閃した時に違和感を感じた。
斬った感覚がない。抵抗がないといったらいいのか、木剣だったら折れていたであろう強固なメガアンガーの足にいとも容易く傷をつけられた。
「こ、これすげえな。で、でも相手がデカすぎて効いてるのか効いてないのかわかんねえ!」
亡骸は全長1メートル程度、鞘の部分を除く刀身は70センチ程度だ。いくら切れ味がよかろうと、バカでかいメガアンガーの足を一刀両断するには的がデカすぎる。
だがそんな心配は杞憂に終わる。
――な、なんだぁ!?
一撃を入れられたメガアンガーは片膝をつき、斬られた右足、脹脛のあたりを庇っているようだ。切り込んだ箇所をよく見てみると、なにやらうっすら煙がでている。そしてなにか腐敗臭ような匂いがしてきた。
な、なんだ? なにが起こった? てかホウライのヤツこの剣になんかしらの追加効果があるんなら事前に教えとけよ!
とにかくこれは好機! 片膝をついて動けないメガアンガーの後ろに回り込み、首元へ一閃する。なんの抵抗もなく首すじへ浸透していく亡骸。剣を引き抜き宙ぶらりんになったメガアンガーの頭部は、まるで手元から離れたヨーヨーのようにゆっくりと地面へ落下して戦闘は終了した。
「よ、よっしゃ! キルスティア! 先を急ごう!」
「は、はい!」
強敵を倒した感慨に耽る暇もなく、僕達はデカたちが待つ崖下へと急いだ。
◇
直線距離にして約500メートル程度の距離なのに崖下へ転落したせいで、かなりの大回りをしなくてはいけない。しばらく走るとまたあいつに出くわした。今度は1体じゃない。しかも……
「くっそ! またか! えっ? あれってなんだっけ!? なんであんなのまでいるんだよ!」
メガアンガー3体と一緒にいたのは中型の魔獣。
――ウォーウルフ
狼を一回り大きくしたような風貌で、額に1本の角が生えている。あいつもこんなとこに生息していない魔獣のはずなのに! なにがどうなってんだよ!
メガアンガー3体にウォーウルフがひぃ、ふぅ、みぃ…… くっそ、数えきれねぇ! 少なくとも10体以上。あんなすばしこい魔獣、1体でも厄介だってのに!
「何体か拘束します!」
キルスティアが叫び、光魔法を発動する。
――セイクリッド・チェインオブパニッシュメント!
彼女が呪文を唱えると、なにもない空間から無数の金色に輝く鎖が現れ、ウォーウルフを拘束した。だが全てのウォーウルフを拘束するのは無理だったみたいだ。
「うぅ、数が多すぎます! レット様申し訳ございません! 半数近く逃しました」
拘束できたのは10体くらいか。月夜に照らされてるとはいえ、暗がりで不気味に光る魔獣の瞳。まだ10体近くが僕らを狙っている。
どうする? いくら亡骸が強力とはいえこの数…… しゃーない、勿体ないなんて言ってられねぇ! アレを使うしかねぇ、いつ使うの? 今でしょ!
懐から取り出した一枚のカードのようなもの。父アトロポスが膨大な魔力を込めて作った1回限りの魔法の書。
そいつを左手の指に挟み力一杯折る!
Purple peony punish sinner(紫の芍薬は罪びとを罰する)――
――パチンッ!
詠唱を終えると、僕らに飛び掛かろうとしていたウォーウルフとメガアンガーの足元から、紫色のツタのような物体が奴らの体へと這い上がっていく。そいつは奴らの体へ撒き付き、そのツタのような物体から一斉に紫色の、棘なのか、針なのか、とにかくおぞましい凶器が突き出し魔獣共の体を串刺しにした。
「よっしゃ…… とりあえず、危機は去ったかんじか?」
魔獣達が死に絶え、3ピースの効果が消えるのとほぼ同時に僕の頭に猛烈な痛みが押し寄せてくる。後頭部を鈍器で殴られたような感覚。
うわっ、なんだこれ? あのカードを使ってもこんだけの後遺症が襲ってくんのかよ!? こりゃあのカードなしで使ってたら間違いなく死んじゃうな。
あまりの痛みにその場で両膝をついてしまう。くっそ、早くデカ達のところへ行かなきゃいけないのに! あぁ、でもすぐには起き上れそうにないぞこれ。
「大丈夫かい? レット君。とりあえずこの辺りに魔獣の気配はない。無理しなくていい。少し休んでから来てくれれば問題ないよ」
意識を共有するデカから言葉がイメージに変換され送られてくる。なんだろう、違和感はあるけど、嫌なかんじはしない。きっとこういうのがテレパシーって言うんだろう。
デカの言葉に甘えて数分休息した後、彼らが待つ崖下へと向かいだす。
頼むぞ! もう魔獣はたくさんだ! さっきのが最後であってくれよぉ!
でも現実は甘くない。そういやデカはメガアンガーが10体くらいって言ってたわ。
そうだ。デカ達までの距離あと200メートル程度のところまで来て僕らを待ち構えていたのか、会いたくない奴らに遭遇したのだった。
そこにはメガアンガーが……
嘘やろ? 何体いるんだよ、これ。
10体どころじゃねえぞ! すくなく見積もっても30体以上はいるぞ。どうすんだよこれ。デカのとこまで走って戦闘に参加してもらう? いやダメだ! ピコがいる。こんな奴ら引き連れてあいつらのとこ行ってもピコを守りながらじゃ戦えねぇ!くっそ、ここで僕らだけでやるしかねぇ!
あぁ、もしかしてここで僕死んじゃうかんじ?
んなわけあるかぁ! 絶対こんなとこじゃあ死なねえ! 僕はなにがなんでもルーナ達に会いにいくんじゃあ!
正念場の戦いの幕は切って落とされたのだった
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