第12話 どうしても守りたいもの

 ――次の日


 なんだろ、あんなに他人に優しくされたことなかったからかな。でもミッちゃんも僕に優しくしてくれるし、なんでだろ。なんか最後のお別れみたいじゃん。

 もうすぐ1月、1月は僕の誕生日だ。ということは僕は12歳になる! 転生生活初の12歳到達だ! よしっ! このままここで僕はミッちゃんと、仲良く暮らす! そしてミューミューは心のおばあちゃんだ! 毎日は来るなって言ってたから3日に一回は来て、肩でも揉んでやろう。そんで魔法もいろいろ教えてもらうのだ! 夢が広がりんぐなのだ!


 その日、この辺りは温暖な地方で、雪はほとんど降らないが、その日は珍しくパラパラと綿あめのような雪が降っていた。


 僕は魔獣(犬、名前はまだない)とミッちゃんとで、森に何時のも如くキノコを採りに来ていた。もう木の実はあんまりないけど、キノコは積もった雪の下の枯れ木をめくると結構でてくる。

 そんな宝探しなかんじでふたり、キャッキャウフフしていた。魔獣(名無し)は僕の頭の上でおでこを嘗め回している。すごくあったかい、でもすごくクサい。

 そろそろこいつにも名前をつけてやらないとなぁ、いつも僕のおでこをペロペロしてるからやっぱペロは入れたほうがいいのか、オデペロ…… いや、ないかこれは。デコロン…… いや、これもないか。クソ、ミューミューが言ったとおり僕にはセンスっていうものがないのか!? いや、そんなはずはない! ペロデコン、デコッペ、ペーオーデーローン、いや長いな。


「あぁ! もう!! ペロンでいいや! おまえは今日からペロンだ!!」


 よし、決まった。魔獣(ペロン)は嬉しそうにベロをだらしなく垂らし、はぁはぁしている。ハハハッ、よしよし、そんなに気にいったか、我がしもべペロンよ。

 あぁ、ごめんよ、ミューミュー、名付けのセンスがないなんて言っちゃって。僕もなかったよ。君と同レベルだったよ。ごめん……


 ミッちゃんに魔獣(犬)が魔獣(ペロン)になったことを告げ、二人でペロンを犬っ可愛がりする。ペロンは僕がベッドに入るとすぐに潜り込んできて、はぁはぁしだす。とても暖かくて、とてもクサい。だがそれがいい。


 あぁ、女神様、あの、ペットって、やっぱりこの子のことなんですね。

 ほんとにペットですね。いや、可愛いからいいんですけど。でもこの子がウルトラレアなんですよね。いや、UR級に可愛いからいいんですけど……


 そんなことを思いつつ、キノコをほじくり返す。ほじくってほじくって、かなり採れた。ミッちゃんにそろそろ帰ろうかと言おうとした時、近くから人の足跡が聞こえてきた。


 なんかすごい、すごい嫌な予感がした。


「ミッちゃん、なんか人の足音聞こえない? しかも何人かいるみたいだよね、この音」

 

 僕はミッちゃんにそう言い、音を出さないように注意する。

 足音は段々近づいてきて、男たちの話し声が聞こえてくる。


「クソっ! なんでこんなとこで雪なんか降ってくんだよ! あぁ、イラつくぜ。コララも2匹しかとれねえしよ! こんな大人数で来るんじゃなかったぜ!」


 あ? コララ? こいつらコララ狩りに来た野良魔獣ハンターか?

 クソったれ。ミッちゃんに何つークソみたいな話聞かせてんだよ! あぁ、クソ!

 ミッちゃんの表情は真顔になり、唇を思いっきり噛み締めている。右手の甲を左手でギュっと覆い、爪が甲に食い込んでるのか、血が滲んでいる。


「ミッちゃん、悔しいのはわかるけど、我慢だよ。こいつらがちょっと離れたら村に戻って自警団を呼びに行こう。少しの辛抱だから。わかった?」


 僕にもっと力があったらこいつらをビシッ! バシッ! っとやっつけるところだけど、現実は残酷だ。僕には数発撃てるファイアボールと使いところがわからない強化のスキルしかない、あとペット。


 そんなことを考えていたその時――――


 ウ~ィヤン、ィヤンィヤン!!ィヤン!


「あ? なんだ? !? おい! あれってメラニアじゃねぇか? なんであんなのがこんな辺鄙な森ン中にいんだよ!? あれってコララなんか目じゃねえくらい、めちゃくちゃ希少な魔獣だよな? なんでか知らんが、こりゃついてるぜ!」


 (お、おい! なにやってんだペロン! あぁ、クソっ!!)


「お、おい、お、おまえら! な、な、なにコララ狩ってんだよ! もう自警団呼びに行ってるから、す、すぐにく、来るぞ!」


 あぁ、やっちまった。出ちまった。もう後戻りはできない。やるしかねぇ。

 と、とりあえずミッちゃんに大急ぎで村に行って自警団を呼んできてもらうしかない。


「ミッちゃん、お願いしてもいい? 今すぐ村に戻って、自警団呼んできて。それまで僕がこいつら抑えとくから。お願いね」


「な、な、なに言ってるの!? ユカリ~も、い、一緒に行こうよ。あんな大人たち相手にしたらこ、殺されちゃうよ、そ、そうだよ、お、お父さんみたいに殺されちゃう!」


 うんうん、ですよねー。でもね、ペロンがいるんだよ。ミューミューから大切に飼えって言われたペロンがいるんだよ! 置いてけるわけないでしょ!


「お願い、ミッちゃん、言うこと聞いて。僕にはさ、ほら、ファイアボールって無敵の必殺技があるし、実は僕、剣も結構使えるんだぜ! キラーン!」


「も、もう、変なユカリ~…… わ、わかった、わ、私すぐに、すぐに戻ってくるから! 絶対すぐに戻ってくるから! ペロンちゃん捕まえたらすぐに、に、逃げてよ!」


『うん、わかった!』僕は答えた。ミッちゃんは全速力で村の方へ走っていく。当然、野良魔獣ハンターたちはミッちゃんをそう易々とは逃がさない。ひとりの男がミッちゃんを追いかける。


 ――ファイアボール!


 男は火だるまになる。ものすごい悲鳴。な、熱いだろ。めちゃくちゃ熱くて痛いんだよ。僕は経験者だから知ってるんだ。しかもその炎ぜんぜん消えないんだよ。なんなんだろな、魔法って……


「お、おら、おまえら、そんな子どもに構ってると、ぜ、全員ケシズミにしてやんぞ!!」


 はぁ、夢なら醒めて。こんなん嫌じゃ。絶対僕死ぬじゃん。相手はひとり減って7人。でもあと打てるファイアボールは多分5発。5発で鼻血どばぁだ。なんとか相手の剣を奪って3人は殺りたい、って僕なんて物騒な言葉使ってるんだろ。ていうかさっきの奴ももう死んでるよな。まぁ、自業自得だけど、なんかやっぱ、嫌だな。

でも、殺さないと、大切なものを奪われる、奪われたくないなら……


――殺すしかない


 僕はファイアボールで怯んだ相手の一人の剣を取ろうと試みる、でもそんなに簡単に上手くいくはずもなく、うまいこと躱され、胸の辺りを蹴られてしまった。

 息が一瞬できなくなる。でもアドレナリンが過剰分泌されているのか、痛みは感じない。ふと気づくと僕の胸のところに赤い光と黄色い光、黒い光が灯っているのに気付いた。

 強化か、でもどれを強化すりゃいいんだ。あぁ、アホ女神が! 他の色も全部教えとけよ、ほんと使えねぇ! アホ女神が!! クソ、もうどうにでもなれ! 


 僕は何故かその時黒い光を選択した。


 その瞬間、何故だか目の前の魔獣ハンターたちが、ゴミ屑そのものに見えてきた。くせぇ、こいつらめちゃくちゃくせぇ、なんでこんなくせぇ汚物どもがこんなところで息をしてるんだ? おかしいだろ、汚物は消毒しなくちゃな。


 そう思った瞬間、魔獣ハンターの二人にファイアボールを撃っていた。それも一度に2発。二人の魔獣ハンターは燃え盛る炎の中で蠢いている。あぁ、やっときれいになった。


「おら、来い、汚物ども、残り5人だ。全員ケシズミにしてやる」


「あ? あ? あ? く、クソガキがぁ、舐めたぁ! 口をぉ!! 聞いてんじゃぁ!! ねえぞぉ!!!」


 切れたひとりが大振りで剣を振りかぶる。すかさず頭部にファイアボールを撃ちこんで、そいつが倒れた隙に剣を奪った。これで4人。

 真剣だ。初めて持った。最初の転生の時はお金が無くて、村を出た時も樫木から削った木剣だった。木剣と違って重い、すんごく重い。でもなぜか今は持てる、振れる、突き刺せる。

 ファイアボールを警戒していた相手は、意を決してこちらに剣を振ってきた。相手は当然大人、いつもいつもコララみたいな無抵抗な魔獣を狩っているわけではないだろう。普段は普通に他の魔獣とも戦っているはず、やはり身のこなしが素人のそれじゃない。

 だが、だがなぜか今は相手の動きがよく見える。なんだろう、ランナーズハイみたいなやつか、これ。よくわからんが、相手の動きがゆっくり見える。


 ――おらっ!


 相手の脇腹に剣を捻じりこむ。なんだろう、嫌な感触。初めて経験する感触だ。思わず我に返り、剣を離してしまった。

 剣が腹に刺さりながら痛みにのたうち回る魔獣ハンター。

 まぁ、いいや、あと3人。なんとか手放した剣を回収して、あとひとりは倒したい。そうすれば……

 そんなことを考えている内に相手3人は陣形を取る。ゆっくりと僕を前後に囲もうとしているのか。僕も木々を後ろにして背後を取られないように、と思ったが、戦闘のプロ相手にそんなにうまくいくはずもなく、すんなりと囲まれてしまった。


「おい、ガキだと思って油断するなよ。もう魔獣相手だと思って戦え。そんでこいつ殺したらメラニア捕まえてとっととずらかるぞ!」


 おい、僕が生きてるうちから逃げる算段かよ。あぁ、マジでむかつく。なんだろ、いつもならこんなにイラつかないのに、クソ、クソ、クソ! こいつらマジでクソムカつく!!


「おら、なに勝負つく前から逃げる算段してんだよ。ていうかお前らはここで全員焼け死ぬんだよ! クソ雑魚の! 弱い魔獣しか!! 殺せない!! クソ虫どもがっ!!!」


 僕の挑発に切れたひとりがなにも考えずに突っ込んでくる。武器もなにもない僕は、なけなしのファイアボールを相手に打ち込む。なんとか相手に命中して火だるま人形が完成する。火だるま人形から剣を奪おうとしたが、当然相手もそれを警戒していた。


「おめえのやるこたぁわかってんだよ! 死ねや、こらぁ!!」


 あぁ、クソったれ!しゃーない。


 ――ファイアボール!!


 襲ってきた相手は、先に火だるま人形になっていた”人だったなにか”の上に覆いかぶさるように倒れこむ。


 よしっ、あ…… しまった


 ブッ、ドバァ……


 あ、あ、あ、しまった、使っちゃった。でも使わなかったらその前に死んでた。

あ、でもまだ僕立ってるね、これ。うわぁ、血がすげぇ。体にある血って何リットルだったっけ? 前にネットで調べたけど忘れちゃったな。まぁ今更そんなことどうでもいいか。


 残った相手はあとひとり。相手もさすがにファイアボールを警戒してか、なかなか踏み込んでこない。はは、もうこっちは一発も撃てないってのにね。知らないもんね、そんなの。


 ジリジリと膠着状態が続く。まぁいい。このまま時間が経てば誰か来てくれるはず。ミッちゃんがもうすぐ自警団を連れてきてくれる。そうだ、このまま待てばいい。


「クソっ、なんでこんなことになってんだ! もういい。ムカつくが、ここは退散してやるよ」


 あぁ、よかった、助かった……


 ――だがなぁ……


 魔獣ハンターの言葉は続いた。


「絶対お前らのことは忘れねえ。アジトに戻ったら仲間を連れて、村の奴らごと皆殺しにしてやるからなっ!! 俺らは”バール”だ! こんな田舎のクソガキでも名前くらいは知ってんだろ!? お前は特に徹底的にいたぶってやるからな! 頭を干し首にしてペンダントにしてやんぜ!」


 ぷちんっ


 頭の中のなにかが切れた。目の前の色が消える。全てがモノクロになって、全てのスピードがコマ送りになる。僕は迷わず相手目掛けて指先を向けた。


 ――ファイアボール


 戯れ言をほざいていた相手は、最後の火だるま人形になって、膝をついてそのまま地面に倒れこんだ。


 あぁ、終わった、終わりました~。お疲れさまでした~。僕やりました! ペロン、大丈夫か? もう終わったから安心していいぞ。ミッちゃんが来たら、あとでミューミューのところに遊びに行こう。お前の父ちゃん母ちゃんもミューミューのとこで待ってるしな。

 あぁ、ミューミューも僕の肩もみ待ってるだろうなぁ。また気持ちよくって壁に頭付けて寝ちゃうのかなぁ。

 ミッちゃん、あぁ、可愛いミッちゃん、僕の大事な幼馴染、可愛くて、強くて、優しくて、最高の女の子。できることなら、このままここで一緒に、3人で過ごしたかったな。


 いつの間にか僕の服は血だらけになっていた。どうやら鼻血だけじゃなく、目からも血の涙がでているみたいだ。なんぞこれ。僕の足元でペロンがィヤンィヤンと鳴いている。なにその鳴き声、死んじゃィヤンってこと? うんうん、僕も死にたくはないんだけどなぁ。


 はぁ、もうダメっぽい。


 なんか遠くのほうから声が聞こえてくる。たくさんの声、たくさんの大人の声、その声に交じって聞き覚えのある声が聞こえる、ミッちゃんの声だ……


「い、い、い、嫌だぁ!! ユ、ユカ、ユカリ~!! いや、いやだぁ!!!」


 聞き覚えのある声がもうひとつ、ミューミューだ……


「バ、バ、バカ、バカ坊主がぁ!!! な、なんでじゃ、なんでこんなことになっとるんじゃ、お前さん、わしの肩揉んでくれるんじゃろ……」


 ごめんね、ミューミュー肩揉めなくなっちゃって。ごめんね、ミッちゃん、一緒に学校行ってあげられなくなっちゃった。でも二人とも泣かないで。そしてペロン、短い間だったけど僕の可愛いペット、暖かくてちょっとクサい僕のペット……


 絶対、いつか、また、戻って、くるから……





     ◇ ◇ ◇ ◇


 ※当作品を読んでいただき誠にありがとうございます。

 もし当作品を面白い!続きはよっと思っていただけましたら♡で応援、レビュー、ブクマ、ひとつでも構いませんので、★をぽちっと、などなどしていただけますと作者の今後の執筆意欲につながります。

 →https://kakuyomu.jp/works/16817330668100636316#reviews

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る