第6章 転生6回目

第98話 嫌がってるようには見えないんですけど

 ――いやっ! いやっ! ゆっ、ゆるしてっ! ご、ごめんなさいっ!


 あぁ、眩しい。

 一体僕はどれだけ寝ていたのだろう。いつからこうしていたのか思い出せない。

 もっと寝ていたい。できることならこのまま永遠に……


 だが僕の心地よい眠りは、誰かの、色っぽい喘ぎ声にも似た悲鳴によって覚醒された。


「ゆ、許してっ! も、もう、限界、ですっ! あっ、あっはぁあん!」


「な、なにしてるんですか、あんたは……」


 そこにいたのは女神。


 あの豊満で、ムチムチで、ママみの強い、世の男性の大半が求めているであろう、母性の象徴。


 女神レミアラ、その人であった。


 彼女は何故か正座した状態で、太ももの上に巨大な肉の塊を乗せられた状態で……


 ――縛られていた。


 僕はこの状況にどうしたらいいのか分からず、オロオロする他なかった。だって女性が正座して、太ももに巨大な肉の塊を乗せられたまま縛られているなんて状況に直面した人類はほとんどいないだろう。だから仕方ない、僕がその光景をまじまじと見つめていることしかできないのは仕方のないことなのだ。


「いやっ、いやっ、そ、そんなに、見ないで、あ、あん、は、恥ずかしい、ですっ……」


 うーん、なんとかしてあげたい、でも僕にはどうすることもできない。だって彼女がどうしてこんな目に遭ってるのかわからないし、あまり嫌がっているようには見えないし。


「ちょっと! 顔がいやらしいわよ!」


 え?


「ずっとここに座ってるのになんで気づかないのよ! その変態痴女ばっかり見て!」


 そこに座っていたひとりの女性。僕に向かってギャーギャ叫び続けている彼女……


「え、ど、どちら様ですか?」


 その女性は黒髪のロングストレートで眼鏡を掛けていた。なんというか、一言で言えば地味な女の子。誰だ? こんな子に今まで出会ったことないぞ!? あちら様はどうも僕を知ってる風な接し方してくるし、うーん、本当に誰だ?


「わ、私よ! ロベリアよ! ロベリア・シフィリティカ! なんで忘れちゃってるのよ!」


 はぁ!? ロベリア!? いや、全然見た目がちゃうやんけ! 声も違うし!


「え、マジで? マジでロベリア? ロベリアの真似してる別人じゃなくて?」

「そんなわけないでしょ! あっ、そうか、この見た目だからね。たしかにいきなりこの恰好で言われても信じられないか。まぁいいや、うーんとねぇ」


 彼女曰く、この姿は異世界転生前の彼女の姿らしい。異世界転生前、『溝隠みぞかくしルリ』という女性だった時の姿。


「ど、どう? 私、じ、地味でしょ? 転生してくる前はこんなんだったのよ。だから友達もいなかったし、自分のことが大嫌いだったのよね」

「そんなことない! すっごく可愛いよ! 僕黒髪ロング大好きだし! すんごい綺麗な髪だし! それに転生前友達がいなかったとしても今はいるからいいじゃん!」


 ――レット…… 


 目がウルウルしてしまうロベリア。いや、今はルリちゃんって呼んだほうがいいのか? 彼女はよく笑いよく泣きよく怒る。本当に喜怒哀楽が分かりやすくて可愛い。


「えっと、ルリちゃん? 大丈夫?」

「ちょっと! やめてよね! 今までどおりロベリアでいいわよ! てかあなたは見た目そのまんまなのね。元のあなたの姿も見てみたかったんだけど。ねぇねぇ! レットはどんなんだったの!? めっちゃ気になる!」


 えぇ~、言いたくねえ……

30手前の冴えないオッサンだったなんてなぁ。でもまぁロベリアには包み隠さず全部話そうって決めてたしな!


 その後僕は彼女に今まで僕が体験してきた連続転生の話を語った。僕が元男と知って彼女は驚愕していた。そりゃ今まで一緒にお風呂も入ってたし、ふたりで寝たりもしてたから事実を知った彼女は、そりゃもう物凄い勢いで怒りだした。当然の反応だ。でも……


「まぁレットもなりたくて女の子になったわけじゃないしね。私にいきなり前は男の子でしたぁ、なんて打ち明けるのも変な話だしね。仕方ないから許してあげる」


 よかった、なんとかお許しをいただいた。

 はぁ、でも今まで話したくても話せなかった色々なことを全部打ち明けることができて本当によかった。

 気持ちが一旦落ち着くと、疑問がひとつ浮かんできた。いや、一番最初から思ってはいたんだけど、見た目の違うロベリアが衝撃すぎて完全に頭の中から抜け落ちていた。


 そう、それは……


「そうだ! な、なんでロベリアがここにいるのさ!?」


 突然の僕の大声でビクっとするロベリア。

 ロベリアが『あぁ、それは~』としゃべりだすのと同時に違う女性の声が……


 ――あ、あの~、ほ、放置プレイもいいのですがぁ、度が過ぎると、泣いてしまいそうです……


 完全に忘れていた。ロベリアとの衝撃の再開が嬉しすぎて、フェチすぎる拷問を受けていた女神様の存在を完璧に無視してしまっていた。


「あ、ああん、よかった。ようやく、はぁはぁ、見ていただけ、ました。はぁはぁ、ゆ、紫様、はぁはぁ、今回の転生、い、いや、あん、お疲れ様、でし た、はぁはぁ」


 エロい。ただ喋ってるだけなのになんかエロい。てかこの女神いつまでこの状態なんだ? どうなったら普通の状態に戻ってくれるんだ?


「げ、現在、はぁはぁ、わたくしは罰を、受けておりますっ、うっ、ううん、はぁはぁ。ここからのご説明は、か、彼から、あっ、ああん、させていただき、ま、すぅん!」


 ちょっとうざくなってきたぞ。でもまあいいや。でも彼? 誰それ?

 僕のそんな疑問に応えるべくその彼は颯爽と現れた。床の装置、以前女神エストリエが設置した、せりあがる舞台装置から。


 ――紫様! お待ちして、おりました!


 そう、3回目の転生前、この部屋に現れたあの男。


 代わりの人その人だった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る