第97話 ヴァイオレット・インフェルノ
「さぁ! 戻ろう! 地上へ!」
「うん! 早く帰ろっ! 帰ろっ! 私もう限界だよぉ!」
ロベリアが笑いながら立ち上がる。今回のアコナイト討伐は彼女が大活躍だった。彼女がいなければきっと結果は大きく違っていただろう。
アコナイト討伐地上班は、皆ひとりも欠けることなくこの場へ来てくれた。本当によかった。いや、よかったなんて言えない。待機メンバーの犠牲があった。マーチ……
あとで彼女達の遺体を回収して丁重に弔ってあげないと。
そんな時瀕死のアコナイトの目の前でしゃがみ込んでいたビジランテ団長オスボが、何かを呟いた。
――うん、ちょうどいい塩梅だ
彼がなんて言ったのか、はっきりとは聞き取れなかった。でもなんだろう、言葉ではうまく表現できない。そう、これは直観だ。
彼の言葉を聞いた瞬間、嫌な予感がした。
その直後――
――アガッ……
えっ?
なに? なにが起こった? なんで、なんで?
――なんでロベリアが倒れてる?
「はははっ、よかったよかった。一撃で仕留めれてホッとしたよ。打ち損じたら後が怖かったからね」
なんで? なんであんたが?
「あぁ、ごめんね、レットさん、今回の一番の目的はこいつ、アコナイトの捕獲だったから。人間をテイムするには瀕死状態にしないといけないんだよ。あとソイツ、ロベリアは邪魔だったから殺させてもらったよ」
「な、な、なんなんだ!? なんでそんなことしてんだよ!!」
――オスボォォ!!
口から血の泡を吹き、目の焦点が定まらないロベリア。え、嘘だろ、これは夢か? こんなことって、こんなことって……
「まぁまぁ、そんなに怒ることないだろ? そんなヤツどうでもいいじゃないの。そうだ! さっきアーテーも言ってたろ? 僕らの仲間になれよ? そうすれば帰れるぞ?」
――日本へ
は、は、はぁぁぁぁぁぁぁ!?
そ、そんなことの為にロベリアを…… 彼女を殺したのか?
「ユーカ君!? これは一体…… オ、オスボ団長! こ、これはどういうことなんですか!?」
ルーナも状況が把握できず、なにをどうしたらいいのか分からない、困惑の表情を浮かべている。だが直後に発せられたオスボの言動は彼女の感情を粉々に打ち砕くには十分だった。
「あ? なんだこの奴隷風情が。俺に気安く話しかけるなよ。はぁぁん!? もしかしてこの男女に股を開くためについてきたのかぁ!? ふん、空気が汚れるわ! さっさと死ね!」
「殺す! 心臓! ベクター!」
完全に我を忘れたルーナが、オスボに向けて渾身のベクターを放つ。だが放たれた神速の剣撃はオスボには当たることはなかった。
――うっ、うんっ、がっ……
ルーナが放った強烈な衝撃波がオスボに当たる寸前、ヤツの目の前に割り込んできた人物……
ビジランテの地上班メンバーのひとり。
心臓に致命傷を喰らい、そのまま絶命するビジランテのメンバー。僕はまだ出会って日も浅く、顔と名前も一致しない程度の仲だ。でもルーナは……
「カイルさん…… な、なんで、なんでソイツを庇って……」
倒れこんだ後、彼の衣服から露出している肌はだんだんと灰色に染まっていく。
「はははっ、残念でした~! 彼はもうテイム済みでした~! 肌の色なんて俺が自由に偽装できんだよ! ば~か!」
なんなんだ? これは悪い夢か? 仲間だろ? 一緒にアコナイトを討伐しようとしてた仲間だったろ? なんでいきなり裏切ってるんだよ? わけが分からない。
「おいおいレットさん、察しが悪いかんじか? えぇと、あぁ! そうだ、俺のこと覚えてないか? たしか試験の時、一緒にかまくら作ったんだっけ? 忘れられてたら結構凹んじゃうなぁ」
は? は? は? かまくら? なにを言ってる? かまくらなんて……
あ……
――お、おまえ、カルミアか?
「おぉぉ! やっと思い出してくれたのかぁ! うれしいぞ! そうそう! おれおれ! カルミア・ラティフォリア! まぁ今は姿は違うけどなぁ。元気にしてたかぁ!?」
思考が追い付かない。なんなんだこいつは。でも、こいつが黒幕だって考えたら全てに辻褄が合った。
「てめえか、てめえが全ての諸悪の根源か? 試験の時森で襲ってきたのも、森で魔獣共を操ってたのも、デカを殺したのも、マーチ達をあんなふうにしたのも……」
「そうだよ~ん! びっくりしたぁ!?」
ヤツが言葉を発した直後、トーカ姉さまやテオを抱きかかえていたビジランテのメンバー達が突然こちらを向き、ルーナへ襲い掛かる。
呆然自失としているルーナだったが、意識を覚醒させ、襲い掛かる操り人形達をなんとか凌ぐ。だけど…… 彼女は泣きながら、『なんで、どうして! いやだ! いやだ!』叫びながら彼らの剣撃を受け続ける。
「こっち側へ来いよ、ユーカ。お前さえこちら側へこればすぐにこのゴミ人形共は止めてやる。どうだ? 一緒に帰ろうぜ? 悪い話じゃないだろう?」
僕の中で何かがキレた……
咄嗟にROSEを火の刻印のある左手の人差し指へ嵌めかえる。
もういい…… どうなろうと知ったこっちゃない。ここで死んでもいい。こいつだけは、こいつだけはここで殺す。
Purple peony punish sinners.
Hellfire burns up sinners.
――パチンッ
――ヴァイオレット・インフェルノ
詠唱を終えた瞬間、僕の体は足元から紫色の炎に包まれて、徐々に、ゆっくりと燃えカスに成り果てていく。
もう周りは紫色に染められて誰がどこにいるのか、なにがそこにあったのか、もうわからない。全てを燃やし尽くすまで消えない紫色の業火を眺めながら僕は考えた。
あぁ、また、こんな終わり方か。
もういい加減慣れたわ。でも、ロベリア、本当にごめん。君を巻き込んでしまった。またどこかで会えたら、僕の転生の話を、包み隠さず、させてよね……
◇
――おいっ! エリー! 助けろっ!! さすがにこれはまずい! 俺にここで死なれたらお前らにも想定外だろ!?」
オスボ・K・レッド若しくはカルミア・ラティフォリアが虚空に向かって叫ぶ。
紫色の業火が辺り一面を包み込む惨劇の最中、突然一か所にだけ、紫色の業火が干渉できない光のステージが誕生する。
――まぁまぁ情けない。あなたがあんまり彼を挑発するからですよ? もっと穏便に事を進めていたならばこうはならなかったのに。それにどのみちもうすぐ今回も終了ですよ?
音もなく現れたその女性はカルミアへ優しい笑顔を向け、そう諭す。
「リセットするのが分かっていても痛いのは嫌だしな。まぁ、たしかに俺も迂闊だった。あいつの力を見誤っていた。まぁ次はもう少しうまくやる。ヤツが死んだことで世界は次へ持ち越しだ。そしていつか俺は帰る」
――えぇ、その悲願が成就する時まで共に頑張りましょう。では参りましょうか。
光のステージに舞い降りた、まるで天使のようなその女性はカルミアを抱きかかえその場から消失していく。そして虚空へ、優しく語り掛けるかのように言葉を紡ぎだす。
――わたくしエリーニュースはあなた様の為に誠心誠意、身も心も捧げつくします。
――次回お会いできることを楽しみにしております……
『志岐谷紫様』
◇ ◇ ◇ ◇
※当拙作をご覧いただき誠にありがとうございます。
もし当作品を面白っ! 続きはよっ! と思っていただけましたら♡で応援、レビュー、ブクマ、ひとつでも構いませんので、★をぽちっと、などなどしていただけますと作者の今後の執筆意欲につながります。
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