第36話 僕のご学友爆誕!
この学院には剣術の授業も魔法の授業もない。
僕は戦慄した。そりゃそうだ。この学院は女学院。立派なレディを育成するための機関。お淑やかで、聡明で、男性の3歩後を歩くような女性を育成するための学院だったのだ。
マジか~。くっそつまんねえ! こんなとこ僕には無理だぞ。
授業のカリキュラムを見たが、勉強以外には生け花、舞踊、マナー講座などなど、僕には全く必要ないような授業ばっかりだ。僕はお淑やかな大和撫子になる為に異世界転生したわけではないのだ!
だがロベリアの手前、ここで「やめます!」なんてことが言えるはずもなく……
しょぼくれたままロベリアの屋敷へと足を進めた。
ものすごく行きたくないが、ロベリアの悲しそうな顔を見るのも嫌なので、とりあえず限界がくるまではなんとか通おうと心に誓った。
◇
いよいよ僕の女学院生第一日目の朝が来た。制服に身を包み、髪の毛を櫛で梳く。いやあ、この制服可愛いなぁ。ロベリアが可愛いよって言ってたが、たしかに可愛い。まるで大正時代の女学生のような制服。しかも制服にブーツだ。
一体どんなセンスをした人がこれを制服にって決めたんだろう。こんなん前衛的すぎんだろ! いや、めっちゃいいけど!
学院に着き教室へと向かう。僕は黒板の前に立ち、先生から他の生徒へ紹介をしてもらう。生徒達はロベリアが連れてきた生徒ということで騒然となっていた。
――ロベリア様とはどのようなご関係なのですか?
――ロベリア様のお屋敷に住まわれているとお聞きしましたが……
――ロベリア様とご一緒に生活なさっているなんて……
女学生たちの話を聞いていると、ロベリアが連れてきた生徒という衝撃事実に驚き、興味津々の生徒、ロベリアへの畏怖か、それとも憎悪か、恐怖かはわからないが、僕への何者なのかわからないという不安感を漂わせている生徒、だいたい半々くらいの割合だろう。
担任の先生に「そこの空いている席に座りなさい」と促され、窓際の一番前の席へ座る。
「初めまして、レットさん、わたくしはアナスタシア・キサラギ。11歳よ。歳はひとつ上かしら。これからよろしくね」
隣に座っていた女性が声を掛けてくれた。落ち着いていて、とても聡明そうな女性。
ちなみにこの学院はそれぞれの授業は年齢別で受けるのだが、基本的なホームルームや食事、なにかの行事の際は初等科・高等科と別れてはいるが、それぞれ8歳から13歳、14歳から15歳の異年齢同時教育を柱としているらしい。
なので隣にいる女性は僕よりひとつ上だが、同じクラスのクラスメイトというわけだ。
しかし、キサラギと言うと、この国で有名な大企業「キサラギ財閥」と同じ名前だが、キサラギなんてこの世界で珍しい名前、まず間違いなくこの女性はそのキサラギ財閥のご令嬢だろう。
「あ~ アナスタシアず~る~い~! 私が先に自己紹介しようと思ってたのに~! レットさん、私はクラウディアよ。よろしこ!」
アナスタシアとは対照的なまさに元気溌剌! といった女性。僕の席の後ろの彼女も僕に挨拶をくれた。彼女達はロベリアに対して負の感情をいだいていない派なのかな。
二人によろしく、と声を掛けていたら、どこからともなく、なにかが僕の頭に飛んできた。それは紙をぐちゃぐちゃにまるめたもの。その紙を開くときったない字で「ようこそ」と書かれていた。誰だ? これ投げたの。後ろを振り返ってもだれが投げたのか分からない。
これが嫌がらせなのか、只の挨拶なのかは分からないが、分からないものは放っておくことにした。
◇
ホームルームが終わり、授業までしばしの猶予。
机に肘をついてボーっとしていたら、アナスタシアとクラウディアが声を掛けてくれた。
「ねぇねぇ、あなたロベリア様と一緒に住んでいるんですって? 一体どういうご関係なの? あたしすんごい気になるんですけど!」
クラウディアにぐいぐい来られてちょっと引き気味になってしまう。この子圧すごいな。
「あぁ、ええと、僕森に棲んでたんだけど、ロベリアが“あなたも学校へ行くべき! ”っていうから学校に行くことにしたの。そんでロベリアのお屋敷でお世話になってるの」
僕が森という単語を口にした途端、二人の態度が豹変した。
「えっ! もしかして森って反転の森!? てことはあの有名な反転の森の魔女“アトロポス様”のご子息!? うそでしょ! すごい!」
「に、にわかには信じられないわね。でもあのロベリア様が連れてきた子だし、あながち嘘じゃないかも……」
え、父ちゃんって巷では恐れられてるとばっかし思ってたけど、こんな反応が来るなんて予想外だな、これ。
「ねぇ、二人は父ちゃんのこと怖くないの?」
とりあえず二人に父ちゃんをどう思ってるか聞いてみた。
「そんなこと思ってるわけないじゃん! 希代の魔法使い! 彼女が成し遂げた偉業は数知れないのよ。もちろん彼女を嫌う人も、畏怖する人もたくさんいるけど私たちは彼女を尊敬、いいえ、信奉してると言っても過言じゃないわ」
「えぇ、そのとおりよ。以前祖父の招きでうちに来ていただいたことがあるのだけれど、とても聡明で美しく、非の打ち所の無い洗練された女性でしたわ。あれで希代の魔法使いですもの。わたくしが憧れるに値する人物ですわ」
えぇぇぇ、父ちゃん、なんだよ! 外面はいいタイプの人間だったのかよ! うちじゃああんなにズボラでケツばっか掻いてるくせに!
「も、もしかしてレットさんて魔法とか使えるの!?」
魔法かぁ、森限定の3ピースを除いたら、詠唱してファイアボールとアクアボールが撃てるくらいなんだけどぉ、まぁ使えるっちゃ使えるかぁ。
「う、うん、まぁファイアボールくらいなら……」
ふたりの顔がパアっと明るくなるのが一目見て分かった。
「す、素晴らしいわ! 私たちはこんな人を待ち望んでいたのよ!」
「だね! アナスタシア! これはなんとしてでも入ってもらわなきゃだね!」
ん? 待ち望んでた? 入る? なんなん?
「レットさん! 私たちの同好会に是非入会してください!」
――は??
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