第37話 ようこそ魔術同好会へ!

 その日の授業が終わり、クラスメイトのアナスタシアとクラウディアに手を引かれて、とある教室に連れていかれた。

 授業中彼女達に同好会ってなに? って聞いても「後のお楽しみ!」といって詳しくは教えてくれなかった。一体なんの同好会なんだろ。おじさん心配なんですけど……


「おっ待たせしました~! ここが私達の部室だよ~! ささっ! 入って入って!」


 クラウディアに促されるままその部屋に入る。薄暗い部屋、中の様子は窺い知ることはできない。ん? 部屋の中央に誰かいる?

 そう思っていると、突然部屋の明かりがつく。


 ――ようこそ! 魔術研究同好会へ!


 そこには3人の女子生徒がいる。アナスタシアとクラウディア、そして見知らぬ女性。


「ようこそ! 我が居城へ! 我の名はフィガロ! 闇を探求し、闇を貪る者! 汝の入部を心より歓迎しよう!」


 え、なにこの既視感…… わ、我が妹じゃないよね??


「この子はフィガロ、私達の同好会の部長よ! 見た目はこんなんだけど闇の刻印を持ってるすごい子なのよ!」


 見た目はちんちくりんで、如何にも魔女が被ってそうな帽子を被り、ディスイズ魔女! というようなローブを身に纏うその少女。

 彼女はこの中で最年長、15歳で、ロベリアと同じクラスだという。


「ようこそ! ってさっき言ったか。レットくん、是非我が部へ入部してくれ給え。共に魔術の深淵を覗こうではないか!」


 この子闇の刻印持ってるって言ってたな。なんだよ、闇の刻印あるやつはみんな厨二病を発症しちまうのか!?


「え~っと、ちょっと考えさせてもらってもいいかな?」


 そう言うと、3人共、僕がそう言うのを全く予想していなかったのか、驚愕と落胆の表情を見せてくれた。なぁ、お前らのその自信はどこからくるんだよ!


「う、嘘だろ? なぁ、レット、本気で言ってる? 魔法使えるのに、入んないの? ぜ、絶対楽しいよ、うん、は、入ろうよ、てか入ってよ~!」


 クラウディアが膝をガクガクさせながら懇願してくる。生まれたての小鹿みたいで見ていて楽しい。


「いや、入らないとは言ってないですけど、今いきなり入ります! って言うのもなんだかなぁ、と思って……」


 別に即入部してもいいのだが、こいつらの反応が面白いので、しばらくこいつらに付き合うことにした。


「うーん、どうしようかなぁ、入ろうかなぁ……」


 僕がこう言うと3人はパァっと明るくなり――


「でもなぁ、ロベリアもいるし、やっぱやめとこうかなぁ……」


 そう言うと3人はショボーンとする。あぁ、おもしれえ! でもなんか可哀そうになってきた。しゃあねえなぁ!


「わかった! 入る、入るよ。これからよろしくね!」


 3人の顔がもんのすご~く明るくなった。どうしてもほしくて、強請って強請って、やっと玩具を買ってもらえることになった子どものように。


「さすが反転の森の魔女の子! これから我と深淵を共に覗こうぞ! あ、ちなみに我が部にはもうひとり部員がいるからな。今日は来てないけど」


 へぇ、3人でもこんだけクセが強いのが集まってんのに、さらにもうひとりですか。その人に会うのは後のお楽しみってことだな。


 同好会のみんなにさよならを言って、部室を出る。そこにはロベリアの姿が。


「レット! 早速お友達できたみたいじゃん! よかったよかった! お姉ちゃんは一安心だよ」


「誰がお姉ちゃんだよ。でもまぁ仲良くしてくれてるよ。そういや父ちゃんって外面はいいのな。全然知らんかったよ」


 父ちゃんがどういう人間か知っている二人だ。普段はあんなんなのにね~、と二人で父ちゃんの悪口やなんかを言いながら帰路に着く。



    ◇



 お屋敷に着くともうすでに食事の準備が済んでいた。あぁ! 自分でやんなくていいのって最高! しかもめっちゃうまいときたもんだ。やっぱロベリアの屋敷に来て正解だったかも!

 食事も終わり、ロベリアの部屋でここんとこ毎晩やっているトランプに二人で興じる。毎晩やっているせいか、ロベリアも負けっぱなしとはいかなくなった。10回やれば僕が8勝、彼女が2敗くらいの勝率だ。


「ロベリア大分強くなったね。最初みたいに僕の圧勝! ってわけにもいかなくなっちゃった。やっぱ二人でやるほうが楽しい?」


「あったりまえじゃん! 一人も慣れてるから別にいいんだけど、やっぱ二人でやったほうが楽しいよ。レット、うちに来てくれて本当にありがとね!」


 あぁ! なんと眩しい笑顔なんでしょう。マジかわええ。多分中身は別にして、今まで出会ってきた女性で一番可愛い。あ、いや、でも僕にはミッちゃんという大切な女性が……


「で、でもさぁ、ロベリアってなんでメイドの二人とか、使用人の二人とかと遊ばないの? あの人らに頼んで一緒にトランプやってもらえばいいじゃん」


 僕がそういうと、ロベリアは下を向いて、目を瞑り、なにかを考え込んでいるようだ。しばらくの沈黙、そして彼女は口を開いた。


「だよね、でもね、契約なんだ。彼女達は与えられた仕事をするって契約でうちで働いてるんだ。だから、ね、ダメなんだよ……」


 い、いや、おかしくない? だったらロベリアと遊ぶのも契約に入れちゃえばよくない? 僕は思ったことをついそのまま口に出してしまった。するとロベリアから意外すぎる返答が返ってきた。


「ダメなの! そういう風に作っちゃったから! 一回そういう風に作っちゃうと途中で変更できないの!」


 ――へ? つ、作った? ど、どゆこと??


「あのね、レットは信じてくれないかもしれないけど、あたしには特別な力があるの。それはね……」


 ――モノに命を吹き込む能力


 な、な、な、なんだってぇぇぇ!? なんじゃそれ! いや、にわかには信じらんないけれども、で、でもそれが本当なら……


「でね、人形に命を吹き込んだんだけど、決められたことしかできないのよ。彼らは。最初に決めた命令しかできないの…… 」


 な、なるほど。だから契約、なのか? いや、でも話が超展開すぎて頭がこんがらがってるぞ。モノに命を…… うーん、すごすぎる能力やんけ。


「じゃ、じゃあさ、もっといっぱい作ってロベリアと遊んでくれる人形を作ればよくない?」


 至極当然な質問を彼女にぶつけてみたが、どうやらことはそこまで単純ではないらしい。


「実は命を吹き込める数には限界があるの。あたしは今まで6回この力を使ってきたわ。最初は試しに石ころに命を吹き込んだの。“動いて”って命令してね。そしたら動く石が完成したわ。でもそれは動くだけだった。ホント気味の悪い石ころだったわ。でね、どうしたらいいのか分からなくて、途方に暮れてたら、彼女がうちに来たの」


 彼女? 誰だろ


 ――反転の魔女アトロポスよ。


「彼女は突然来て、あたしに言ったの。その力は考えて使え。むやみに使ってはいけない。って。そして彼女は力について色々と教えてくれたわ。そしてあたしが生活するのに困らないように、人形、それも人と寸分違わぬ精巧な人形を作ってくれたの。そして様々な命令を封じて人形たちに命を吹き込んだのよ。そこにあたしの遊び相手になって、なんて我が儘を吹き込むスペースはなかったの」


 なるほど。どうやって父ちゃんがロベリアの力を知ったのかは分からないけど、ロベリアと遊べれない理由はよく分かった。ん? てことはロベリアはあと何体命を吹き込めるんだ?


「ねぇ、ロベリア、あなたはあと何体分その力を使えるの?」


「あと…… 1体よ」


 そ、そうなのか。その力って使い切ったらどうなるんだ!?


「あと1体を作ったあと、あたしがどうなるかは分からないの。だからこれ以上は怖くて作れなかったの……」


 そういうことだったのか…… そりゃたしかに使えないわな。


「ロベリア! もうその力は使わなくても大丈夫! 僕がいるじゃんか! これまで遊べなかった分いっぱい遊んでやるからな!」


 そういうと目に涙を溜めて抱き着いてくるロベリア。ああん、なんていい匂いなんでしょう。ってあかんあかん、そんなことを考えていては。ああん、でもこの子すんごい柔らかい~。


 そんなやり取りをした後、何時もの如くトランプに興じるふたり。なんだかいつもより力がはいってしまう。

 この子は今までつらい思いをたくさんしてきた。なら僕が少しでもたくさん楽しい思い出を作ってあげなくては! そう心に決めたのだった。

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