第38話 お前ら魔法使えんのかい!

 ロベリアからの衝撃の告白から数日後、今日も学院へ行く時間がやってきた。

 あの話を聞いてから、メイドさんや使用人さんの見る目が少し変わってしまった。うーん、どう見ても普通の人間にしか見えないんだがなぁ。

 ロベリアの能力ってもうなんか人間の扱える能力の域を遙かに超えてるんじゃない? まるで神様からのギフトみたいな……


 学院へ行く準備をして、ロベリアと一緒に学院へ向かう。相変わらずロベリアは可愛い。制服もめっちゃ似合っている。うーん、絵になるぜ。

 学院へ着くと、それぞれの学舎へ別れ、授業が始まる。普通の算術やら書き取りやらは別にいいんだが、やはり作法の授業となると勝手が違う。こちとら今までこんなことやったことねえんだよ! 僕が何かする度に「そうではありません!」と先生から物差しのようなものでぶっ叩かれる。これが地味に痛え。あぁ、こんなん一朝一夕では覚えらんねえぞ。


 なんとか拷問のような授業を終え、今日の授業が終わる。授業が終わった後は、現世で言う、部活動みたいなことを各々するんだが、僕ちゃんはこれ。


 ――魔術同好会


 なんの変哲もない扉を開けると、そこには魔法陣や呪文の詠唱文が書かれた紙きれが壁一面に張り付けられている。そして中央に大きい机がひとつ。

 部の先輩たちはもうすでに椅子に着席している。


 着席して…… お菓子を摘まんでいた。


「やあ! よく来た新入り君! まぁ君も座ってお菓子でも食べ給え。魔法を使うには糖分が必要だからな。普段からしっかり摂取しておかないとな。はっはっはっは!」


 そう言いながら両手にお菓子を持って笑う部長、彼女の名はフィガロ。


「今日は外は寒いからな。ちょっと無理だな。外は……」

「ですわね。こんなに寒いんですもの。お部屋の中で魔術談義でもしていましょう」

「だな~。あ、お菓子あとちょっとでなくなっちゃうよ。どうする? 購買行く?」


 実は魔術同好会に来たのは今日でもう数日経つんだが、大体毎日こんなかんじだ。おめえら、お菓子食ってばっかで、魔法撃つ練習とか全然してねえじゃねえかよ!


「新入り君、魔法とはね、そう易々と撃っていいものではないのだよ。魔法とはここぞという時に撃つべきもの。我々はその時のために日夜研鑽を積んでいるのだよ!」


 部長が高らかに宣言する。あ~、はいはい、そのセリフ毎日聞いてるんでもうおなかいっぱいでーす。つーか研鑽ってお菓子食ってるだけじゃねえかよ!


「ねえ、先輩たちって魔法撃てるんです?」


 僕が3人に質問すると3人共目が泳いでいる。口笛なんかも吹きだす始末。マジか…… 3人共魔法撃てないのに魔術同好会を名乗ってやがるのか!?


「あ、いや、私はだなあ、撃てることは撃てるぞ。うん…… ただなぁ、ちょっとなぁ、あ~、みんなを危険に晒したくないしなあ。うん! そうそれ! 私の闇の魔法は禁術なのだよ! はっはっはっは!」


「わたくしたちは魔法にとても興味はあるのですが、教えてくださる先生もいませんし、今まで魔法について習ったこともありませんので、まぁ、こんな有様なわけで……」


「ばひゅんばひゅん魔法撃ちたい気持ちはあるんだよ! で、でもさ、詠唱しても魔法なんて全然でてこないしさぁ。どうすりゃいいのかわかんないんだよねえ……」


 あぁ、なるほど。たしかにいきなりひとりで魔法を使ってみろなんて言われても、できるもんじゃないしなあ。

 僕は前回の転生でも魔法理論を学んだり、今は父ちゃんにしごかれたりしてたから分かるけど…… よしっ! こうなりゃ僕が3人に魔法を教えよう!


「わかった! こうなったら僕が3人に魔法を教える! まぁ人に教えるほどの実力があるわけじゃないけど、どうやったら魔法を撃てるのかくらいは教えられると思うからさ!」


「本当かね! 新入り君! あ、わ、私は一応魔法、撃てるからね…… まぁでも教えてくれるというなら教えてもらおうじゃあないかあ! ふっふっふっ、とうとう地獄の釜が開く時が来たぞ!」


「ありがとうございます! レットさん! やはりここにあなたをお連れして正解でしたわ!」


「やったぜ! 頼むねレット! あぁ! あたしに魔法が撃てる日がくるなんて!」


 ――あ、でも寒いんで、明日からにしましょうか……


 だ、だね。さ、寒いもんね……


 そんなこんなで明日から本格的に魔法の訓練を始めることになったのだった!



    ◇



 そしていよいよ訓練初日がやってきた。今は12月、この辺りは北国ということで、か~なり寒い。多分氷点下は軽々いってるんじゃないかなってかんじの気温だ。


「よお~し、じゃあまずは僕がファイアボールを撃つから見ててね~」

 

 ちなみに前々回の転生で6回までしか撃てなかったファイアボールはなぜか今回20回くらいは撃てるようになっていた。何故だかわからないが父ちゃん曰く、僕は魔力の総量が人並み外れて多いみたいだ。やはり魔法は加齢と元々の魔力量で、撃てる回数や魔法の規模が変わってくるらしい。


 まずはお手本のファイアボールを撃つところを皆に見てもらう。 

 指先に魔力を集めるイメージ、そして火の球をイメージ、そして火の球を飛ばす標的をイメージ、そこに火の球を当てるという意識、最後に詠唱で魔法が発動する。


 ――苛烈なる火の精霊よ、我が求めに応じ、敵を焼き尽くす深き紅の火球をここに顕現せしめよ――――ファイアボール!


 詠唱を終えると指先から直径50センチほどの火の球が発射される。火の球は標的にしておいた木で作った人形に命中した。


「す、すごい! これが魔法! すごいぞ新入り君! もう半分くらい魔術の深淵が見えちゃったくらいだぞ!」


 魔術の深淵底が浅せーな、おい! アナスタシアとクラウディアも腰を抜かして驚いている。まぁ確かにこんなの最初に見たらびっくりするよな。まぁ僕はこいつをこの身に受けたんですけど……


「そんで~、いい? みんな今の見た? 火の球見たね? じゃあ今度は燃えてる人形の近くに行ってみて。あ、火傷しないように気を付けてよ」


 3人を人形の近くまで誘導する。火が本物だということ。本物の火と同じくめちゃくちゃ熱いことを実感させる。


「めちゃくちゃ熱いのわかってもらえた? これ当たったら死んじゃうからね。でも攻撃するだけが魔法じゃなくて、火をおこしたい時にも使えるし、要は使い方次第だからね」


 これで前段階はオッケー。魔法は実際に見てみないと使えない。朧気なイメージだけでは出ないらしい。そしてできることなら魔法をその身に受けて、受けるとどうなるかを肌で理解するのが一番手っ取り早いと父ちゃんは言っていた。

まぁ要は一回ファイアボールで死んでる僕はこの魔法を撃てて当然というわけだ。


「あと! これ大事なこと! 人によって魔法を撃てる回数が違うからね。みんなだと多分撃てて4発、それ以上撃つと魔力切れで最悪死ぬから。撃てたからといって調子に乗って連発しちゃダメだからね!」


 一番大事はことを皆に伝えて、いざファイアボールの訓練開始だ!



    ◇



 1時間ほど訓練をして今日の分は終了にした。あまり何度もやってると魔力切れを起こす可能性がある。魔法が発動してなくても魔力は消費してる場合があって、それは他人にはわからないからだ。

 1日目だが、さすが部長というべきか、小さいながらも火の球が出た。飛距離も大したことないけど教えてすぐにできるなんてすごい!

 アナスタシアとクラウディアはさすがにでなかったが、二人共指先に熱を感じたと言っていた。多分あと何日か練習すればでるようになるだろう。

 いやあ、3人とも飲み込みが早え。まぁ教えてる人が優秀ですから~、なんつって。


 空が大分暗くなってきたので、今日はここらでお開きにすることにした。

 皆に挨拶をして屋敷への帰路を行く。学院を出ると門でロベリアが待っていてくれた。もう~、先に帰ってくれてていいのに~。こんな寒い中ごめんちゃい。

 ロベリアは寒いよ~と言って、僕のポケットの中に手を突っ込んできた。冷たい手。でもくっつかれたロベリアの体はとっても暖かかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る