第39話 部長の闇魔法!ビビんなよ!すげーぞ!

 季節は流れて2月、僕は11歳になり、いよいよ試練の年がやってきた。この一年だ。この一年で、今より強くなって、降りかかる災難に打ち勝たなくてはいけない。でもまぁまだ11か月ある。今から毎日ビビっていては、体が持たない。ぼちぼちやっていこうと思う。


 学院にももうすっかり慣れて、作法の授業とかもなんとか凌いでいる。まぁ未だにこんな授業、僕には必要ないと思っているのだが。

 そうそう、魔術同好会の3人だが、かなり上達して、ファイアボールなら問題なく撃てるようになった。3人共元々素質はあったんだろう。

 やはり部長は闇の刻印があるせいなのかは分からないが、他のふたりよりも火の球の大きさや飛距離などが段違いだ。

 そういえば3人に魔法を教える前に部長が言っていた一応魔法は使えると言っていたのが気になって、部長に聞いてみた。


「ねえ、部長、前に部長は魔法使えるとか言ってたじゃん? その魔法一回見せてよ」


 僕がそう言うと、あからさまに嫌そうな顔をして、なにかグチグチ言っている。


「え~、いや撃てるけれどもぉ、あんま見て面白いもんではないぞ、新入り君。た、多分がっかりすると思うから……」


 てかこの人、僕のこといつまで新入り君って呼ぶんだよ! もう何か月経ったと思ってんだ! でも~、がっかりねぇ、そこまで言われると逆に気になるよなぁ。


「がっかりなんてしませんから、是非見せてください! お願いします!」


 部長は、マジで? とすごい嫌そうにしているが、なんとか頼み込んで、授業が終わった後、見せてもらえることになった。



    ◇



 授業が終わり、部室へ行く。すでにいつもの3人が勢ぞろいだ。部長の魔法がどんなのか気になって仕様がないが、部室で3人を見ていたら、気になることを思い出した。


「そういやこの魔術同好会ってもう一人いるって言ってませんでしたっけ? 僕まだ一度も会ったことないんですけど」


 3人は顔を見合わせて、あ~っ、そういえば、みたいな顔をしている。おまえらも忘れてたんかい!


「えっとだな、もう一人いるにはいるんだ。新入り君が入る一週間くらい前に入った子なんだが、君が入部する数日前から来なくなってしまったのだ。なんか学院にも来てないみたいでさ。だから私達も彼女がどうしているのかわからないんだ」


 ふーん、そんな経緯があったわけね。一応名前だけでも聞いとくか。


「あぁ、彼女の名前はたしか“ルル”とか言ってたかな」


 へぇ、最後のひとりがどんな子なのか気になるなぁ。まあそのうち会えることでしょう!


 では早速お待ちかねの部長の魔法のお披露目会だ!


「あ~、本当に見る? 闇に飲まれても知らんよ…… 本当に見る?」


 しつけえ! いいからさっさとお願いします!


「じゃ、じゃあいくよ。それ!」


 部長が石を壁に向かって投げた。え、な、なに、今の…… なにが起こったの? てゆーかなにか起こったのかな……


「はぁはぁ、どうだった? 見た? はぁはぁ……」


「ご、ごめん、ちょっとよく分かんなかったからもう一回やってもらってもいいかな?」


「え、嘘でしょ? 頼むよ、新入り君、しっかり見といてくれないと…… これすっごく疲れるんだからね。じゃ、じゃあもう一回行くよ。それっ!」


 また部長はその辺に落ちていた石を壁に向かって投げた。石は壁に当たって、コン、コン、と音を出して…… 落ちた。

 ん? 2回音がした? あれ? どゆこと?


「はぁはぁはぁはぁ、もう限界…… どう? わ、我が深淵なる力の一端が垣間見えたかね? はぁはぁはぁはぁ……」


「あ、え~っと、石が壁に当たる音が2回鳴った気がしたんだけど、これ気のせい?」


「はぁはぁ、いや、だから2回当たったの。石とぉ、影がぁ、壁に当たったのぉ。はぁはぁ……」


 あぁ! なるほど! 影が実体化してたってことか? うーん、すごい、すごいんだけどぉ、地味だな…… いや、でも部長がちょっとドヤ顔してるから地味って言うのはやめとこう。


未だにはぁはぁ言ってる部長を見ると、ある変化に気が付いた。


「ぶ、部長! 部長の影薄くなってない!?」

「はぁはぁ、あぁ、これやると影が薄くなるんだよ。なんでかは知らんが」


 マ、マジか…… これ限界までやったらどうなっちまうんだ。やっぱあんま無闇にやらないほうがよさそうだな、これ。地味だし。


「ぶ、部長ありがとうございました…… もういいです……」


「はぁはぁ、あぁ、そうか、もういいか。はぁはぁ、部室でお菓子でも食うか」


 ――で、ですね……


 今日はなんだかとっても疲れたので、部室でお菓子を食べることにしました。

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