第40話 海だ!水着だ!ス〇水だ!

 季節は過ぎて今は夏、8月だ。この国の夏はとても短いが、一応海水浴もできたりする。マリスの街から東へ50キロほど行くと、イストラという街がある。

 そこはこの国の貴族たちの避暑地として人気で、そこら中に貴族の別荘が立ち並んでいる。なぜ僕がこんなところにいるかと言うと、な、なんと!アナスタシアのご両親のご厚意で、キサラギ家の別荘に2泊3日で宿泊させてもらえることになったのだ!


 雲一つない快晴。少し額に汗が滲む程度の絶好の海日和!

 あぁ! この世界に来て初めての海! てゆーか僕前世でも海水浴とかしたことないんだよね…… まぁそんなことはどうでもいい! 初めての海だ! 精一杯遊ぶ! 遊んで遊んで遊び倒してやるのだ!


 ちなみにこのイストラまでは鉄道で来た。


 そうだ。鉄道で来たのだ。


 な、なんと! この世界にも鉄道があるのだ! ボレアス王国の最大都市リオネースは上下水道、電気等のインフラが整備されている。上下水道は他の国にもあったが、鉄道網が整備されているのには本当に驚いた。鉄道は蒸気機関車ではなくて電車だ。転生前に普通によく目にした電線からパンタグラフで電気を供給して走るアレだ。

 最初にこいつを見た時は本当に驚いた! まさかこっちの世界にもあるなんて思ってなかったからね。


 この鉄道網、それだけでなく、上下水道などのインフラ施設までを一手に手掛けているのが、アナスタシアの祖父が興した会社「キサラギ財閥」だ。

 キサラギ財閥会長イゾウ・キサラギ、御年90歳。超高齢にもかかわらず、未だに第一線でバリバリ働いているというから驚きだ。

 そんなスーパー大企業オーナーキサラギ家の別荘ということもあって、期待はうなぎのぼり! もう1週間前から楽しみで仕方なかったのだ。そうそう、今回、な、なんと! ロベリアも一緒に行くことになった!

 ロベリアは最初行くのを嫌がっていたが、僕が一緒に行こうよ~、とおねだりしていたら、最後には「わかったわよ」と言ってくれた。

 いつも一人か僕としか一緒にいないロベリア、やっぱ僕以外の友達も必要だ。今回の旅は魔術同好会のメンバーとロベリアを友達にするという大きなミッションも兼ねている。



    ◇



「さぁ、つきましたわよ。ここが当家の別荘です」


 うぉぉぉぉ! で、でけえ! ロベリアん家の屋敷よりでけえ! こんだけでかいと掃除するのとか大変そうだなぁ。


「別荘でなにか分からないことがあったら、このふたりに聞いてくださいね。メイドのペトラと使用人兼執事のカルラです」


 アナスタシアからメイドさんと執事さんを紹介される。うーん、メイド服かわええなぁ。執事さん女性なのにスーツをビシっと着こなしてかっこいいっす! でも暑くない? その恰好。


 別荘に着き軽くティータイムと洒落こみ、思い思いに寛ぐ。はぁ、全開の窓から吹き込む潮風が気持ちええ。なにこれ? 最高じゃないですか。


 しばしの休憩を挟み、早速皆で海へ泳ぎに行くことにした。各自にあてがわれた部屋で着替えをしていると……


 ――ねぇ、ねぇ! ユカリ~ン! ちょっとぉ! 指輪つけて!


 おぉ! その声はリリムさんではないですか。お久しぶりです。あ~、指輪ね、ちょっと待ってね。


 リリムに催促され、指輪を付ける。するとリリムが姿を現し、隣にもう一人……


「へ? なんでおまえがここにいるんだよ!?」


 なぜかリーリエが一緒に来ていた。こいつなにしてるんだ……


「は、はわわわ! 兄上が…… あ、姉上に! 何故に!?」


「いやさぁ、リーリエちゃんがさぁ、兄上に会いたいっていうからぁ、せっかく海に来てるみたいだしぃ、リーリエちゃんも海に来たことないらしいじゃん? だからぁ、連れてきちゃった!」


「連れてきちゃったじゃねえよ! どうすんだよこれ! てか君たち僕にしか見えないんでしょ? 海なんて入れないじゃん!」


「あぁ! それねぇ、ユカリンパープルアイズで魔力がめっちゃ上がってるからぁ、うちら2人が顕現しても大丈夫なわけ。しかも今ならROSE一日くらいつけてても大丈夫だよぉ」


「え、パープルアイズってもしかしてこのむらさきの目ん玉のことだったの? これスキルなの? 知らんかった、てゆーかそうならそうと最初から教えとけよ!」


「だってぇ、ユカリン全然うちらのこと呼んでくんないじゃぁん。だからしゃーなくこっちから来たってわけぇ。ドゥユゥアンダスタァァン?」


「はいはい、わかりましたよ。でもいきなり女の子2人来たら怪しすぎんじゃん。どうすんのさ」


「あぁ、その辺なら問題な~し! ちょっとした小芝居うつからさぁ、うちが合図したら適当に参加してきてよぉ」


 え? 何言ってるか全然わかんないんですけどぉ。もうちょっと綿密な打ち合わせとかないわけ? まぁ、いいか! なるようになるだ!


「あ、兄上、い、いや、あ、姉上、本物の兄上なのですか? どこからどう見ても女の人なんですが……」


「あ、あぁ、ユーカだよ。今はヴァイオレットって名前だけどね。だから今は僕のことレットって呼ぶんだよ、わかった?」


「はわわ~! あたし兄上より姉上のほうがいいです! なぜかわかりませんが、優しいし、綺麗だし、あの悪魔のような兄上よりこっちのほうがいいです!」


「だ~れが悪魔だよ!」


 とりあえず調子に乗っているリーリエには久々にこめかみぐりぐりの刑を執行しといた。



    ◇



 皆着替え終わって、ビーチへ集合。ちなみに僕の水着は紫の花柄のタンクトップビキニだ。ロベリアがなんかものすごく際どい水着を用意していたんだが、さすがに抵抗してこの水着にした。まぁこれなら肌の露出もそこまでだし、いいかな。


「レット~! おまたせ~! ど、どうかな? 似合ってる?」


 おぉぉぉ! めちゃくちゃ可愛い! 黒のビキニ! 際どくなさすぎず、かと言って地味でもない。ロベリアの華やかさを引き立たせる絶妙のチョイス! うん! めっちゃいい!


「ロベリア、めっちゃ似合ってる! めっちゃ可愛い!」


 僕がそう言うと、ロベリアははにかんだ表情で、えへへっと笑う。あ~、眼福じゃあ。これは世の男どもが見たら放っておかないだろうなあ。


 ――おまたへ~


 着替えを終えた魔術同好会のメンバー達が続々集結してくる。


「どうかね? 新入り君? 私も中々のもんだろう? うん?」


 え、えっと~、なんですか? その水着…… 囚人服かなんかですか?

 彼女が着てきたのは、白と黒のボーダーで、丈が膝下くらいまであるワンピースタイプの水着だった。いや、だ、だせぇ……

 でもなぜか部長はドヤ顔でこちらを見ている。自分ではすごく似合ってるんだと思っているんだろう。いや、似合ってはいる。悪い意味で。


「あ、あぁ、よくお似合いですよ、部長……」


「レット~! どう? いいかんじ? 水着ってちょっと恥ずかしいよなぁ、へへ、女しかいないっつーのにさぁ」


 次はクラウディアだ。うん、普通に似合っている。部長のインパクトが凄すぎて、クラウディアの印象が薄くなってしまった。全部部長が悪い。でも花柄のビキニで腰にパレオをつけて、とても可愛らしい。うん、ロベリアの次に可愛いぞ!


 そして最後はアナスタシアだったんだが、何故かアナスタシアは丈の長いガウンを羽織っていて、水着を見せようとしない。ん? どしたん? 恥ずかしいんか? 別にいいやん、部長を超える水着なんてないって。


「あ、いえ、あの、本当は違う水着を着たかったんですが、祖父がこれを着ろというので、仕方なく…… もっと可愛い水着を用意していたのですが……」


 そういって渋々ローブを脱ぐアナスタシア。そこに現れたのはな、な、な、なんとぉ!


 ――スク水だった。しかも旧スクだ。


 な、なぜ!? なぜこの世界でスク水!? しかも旧スク? 僕はなにがなんだか分からなくなった。そして考えるのを止めた。考えたって仕様がないからな。

でもアナスタシアのスク水はなんかやけに似合っていた。


ちなみに後で聞いた話だが、アナスタシアの祖父の会社キサラギ財閥は系列企業で服飾関係の会社があり、スク水はそこの商品だという。ついでに言うとマリス女学院の制服を手掛けているのもその系列企業なのだとか。


 よっしゃ! 水着のお披露目会も終わったことだし、早速海ではしゃぐとするか!


 僕ちゃんの初の海遊びが幕を切ったのだった!

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